第5話 エンタイア
さっきまで私たちがいた場所の地面が大きく凹んでいる……それも一箇所や二箇所じゃない。
ウルファスが放つ巨大な金属球は地面にめり込むや戻り、すぐに次が来るから、こうして私たちは逃げ回ってる……さっきの子供たちは無事この場を離れてたね。
「おらおら、おらぁっ!」
ウルファスはその辺の屋根の屋上から一方的に金属球で攻撃……いい加減、反撃したい状況だから私は、
「ルカ!」
合図するかのようにそう叫んで、ルカがサブマシンガンのトランサーで次の狙いを定めるべく浮遊中の金属球へ向けて銃撃。
金属と金属がぶつかり合う音が響いたものの、弾丸が弾かれる音だよねこれ。
「んなもん効くかよ!」
ウルファスがそう叫んだ次の瞬間、金属球全体からトゲが放射状に生えて来て、一本一本が大きめだけど見事に均等な生え方……とりあえず。
「ルカ!」
相変わらずルカに合図みたいな事をする……トゲは案の定、ミサイルか何かのように全弾発射して来て、その全てが私たちを襲う。
こう来るだろうと思ってルカがバリアを展開してくれてたからバリアに阻まれて次々と爆発して行くトゲミサイルは普通に壮観だった。
「だったらコイツも防いでみやがれ!」
そう発言する前からウルファスは突き出した右手からライムカラーの光球を発生させてて……今、それがさっきと同じ金属球になった。
「ルカ! バリアはあと何回張れる?」
「さ、三回!」
結構な大声で私とルカがそう叫びながら再び飛来して来た金属球をかわして……銃撃すれば響く音も生えてくるトゲもさっきと同じで、ルカがバリアを展開する所も同じ。だけど――
トゲミサイルの爆撃威力がさっきより弱い。
爆風の隙間からウルファスの様子が判るくらい……ここでウルファスは再び金属球を生成して、またもルカが隙を見て金属球に銃撃。
あのガンアームというかトランサーがある限り、この状況は続きそう……ミサは隙を見て別行動したそうな様子だね。
さっきと同じくらいの爆撃を受けるバリアの中で私はそう思ってた。
「おら、もう一発……」
ウルファス自身はずっと同じ場所で右腕を突き出したままだけど、開いていた手の平が急に手刀の形になって、
「行くとでも思ったか!」
指先から火花が発生して弾丸を連射……狙いはさっきからバリアを張ってるルカだろうね。
ところで戦闘開始前、私の手元にはヘヴィマシンガンがあってそれが今無い。落としたわけじゃ無くて、どのタイミングで手元から無くなったかは把握してる。
ガンアームの指先から連射して来た弾丸はルカの胴体辺りを狙ってたから、こうして阻まれて無かったら危なかったね。
弾丸を綺麗に弾いたのは、鮮やかな紫色が印象的な大振りのトランサー。
私がずっと抱えてたヘヴィマシンガンはリズさんのカテゴリー……元のヘヴィマシンガンよりサイズが大幅に上がるリズさんのトランサーは装甲も厚いから、これくらいの防御は出来る。
三回目のバリアを誘って、それが切れた頃に突進させようと空中で待機していた金属球を確認……今の内に近付いておくのもいいかもね。
私がその場から離れようとするとルカとリズさんもその意図を汲んだかのように一緒にウルファスの方へ距離を詰め、ミサは別な場所に移動し始めた。
「逃がすかよ!」
ウルファスがミサを狙ってさっきの指先からの射撃……リズさんがしっかり防いでて、更に続いた射撃を防ぎ切った頃にはミサの移動は終わってた。
「じゃあ、ルカ……」
私がそう言うとルカは頷き、私がウルファスの方を指差し、
「狙って」
と続けるやルカはウルファス目掛け銃撃。
「バカが!」
ウルファスを目指す射線に金属球が入り込み、しっかりガード……そのまま金属球からトゲが生えて来た。
「ルカ!」
私がそう叫んでルカがバリアを張ってトゲミサイルの爆撃を防ぐ……そんな三回目のバリアを見てウルファスがその黄土色のガンアームの拳部分を握り締め、
「もうバリアは使えねぇな」
そう言った次の瞬間。
「喰らいやがれ!」
手首から先の部分を飛ばして来たけど、見事にロケットパンチ。
ミサは離れてしまったけどバリアが張れなくなったはずの私たち目掛け迫る黄土色の手は衝突時に大爆発する代物……正直、ルカのバリア無しに防御し切れるとは思えない。だから私は――
「ルカ」
そう呟いてルカが元気な声で「うん!」と返し……四度目のバリアを展開。
ロケットパンチを撃った事で、ウルファスのガンアームは元のやや青味掛かった灰色の金属機構に戻っていた。
今頃ウルファスは展開されるはずの無かったバリアを見て驚いてるだろうね。その様子を確認するのを待たずに……ウルファスの方から爆発音が響く。
「ぐぅおおおっ!」
遠くまで離れたミサが放ったライムカラーで鬼面の炎弾が直撃した音でいいと思う。あのロケットパンチを撃った直後の無防備状態を見事に突けたね。
ウルファスのトランサーは何も知らずに戦ったら厄介だったと思う。出撃前のレイチェルさんの言葉を所々
「このトランサーは手から先の部分を発射させて当てた際の威力を高める事を目的に運用するもの。生成して来る金属球はウルファスの攻撃意志を伴わずに強い衝撃を受けると金属球全体からトゲ状のミサイルが生えて来て全弾発射。厄介に見えるけど、威力は発射した拳による爆撃の方が上。その拳を放ったらトランサーは解除され、最初からやり直しになるの。その威力は金属球を維持し続けた時間に比例し、情報によるとトランサー自体が少なくとも二段階は変化するみたい」
だから金属球が生成されたら即攻撃……その方が被害が少ない。
もしもウルファスが自分のトランサーは金属球が被弾しないように動かしロケットパンチの威力上昇を優先するものだと踏まえて行動したら危なかったかも。
あとあのトゲミサイルって金属球が維持されてる時間に応じてミサイルの威力が上がって行くからルカのバリアくらいじゃ無いと防ぐのが厳しくなる。
トゲミサイルになるのは金属球が攻撃を受けた時のカウンターとして自動発動だからウルファスが意図的に放つ事が出来ないのは助かったね。
上手く行った――と言うには気が早いか。
このままウルファスが総攻撃を受け続けて倒されてくれるといいけど、いつまでもバリア三回の発言に囚われてくれるとは限らない。
カテゴリーの銃器を変身させ、その能力を行使する為に必要な、魔法で言えばマジックポイント的なもの……『リソース』。
ルカのリソースはまだまだ使い始めたくらいの消費量で、実際はバリアをどんどん張っててもいい。
ウルファスが私の嘘に気付くのも時間の問題と思いながら状況を見てたら、
「うらぁっ!」
とウルファスの威勢のいい声が晴れて行く爆煙の中から響いた。
ウルファスは右腕を垂直に突き上げてガンアーム部分がライムカラー……今、黄土色になって、金属球の生成が始まった。
リソースが尽きていないのはウルファスも一緒……瓦礫も増えたし私も自分のトランサーを使うかなと狙いを定め始める頃にはライムカラーの球体は金属球に。
「てめぇら……」
苛立ったウルファスの表情は遠目からでも怒りが滲め出ているのが判るほど。
「全員……」
ウルファスの口が大きく開き、次の言葉が放たれると思った瞬間――
ウルファスの金属球から胴体に掛けて白い一閃が走り、刃物じゃ傷一つ付きそうに無いと思って金属球が真っ二つになった。
空洞じゃない。中身まで同じ金属が詰まってて断面が凄く綺麗……ついでのように縦に両断されたウルファスだけど、一切の威力の減衰も無さそう。
「カヤちゃん! 撤退して! 皆で!」
ヘッドマイクから微塵の余裕も無いナタリーさんの声が響く。
ウルファスの金属球とウルファス自身を両断したのは細長く伸びた両刃の剣。
そんな剣が放射状に何本も下向きで並んでて、その持ち主がウルファスを斬り捨てた存在なわけだけど……なんだろう、これ。
取り囲む剣の数は一ダース見積もっても足り無そうだけど、本体部分も下向きの剣の形状をしてて他より一回りは大きい。でも――
その全体が水色の炎か何かで構成され、上の部分が異様に丸く膨らんでて、そこの色だけ赤が滲んでて中央部分は毒々しいまでに赤く、滲み具合と規模が炎でも見てるかのように目まぐるしく変化。
剣の形をしたエネルギー体が自分の周囲に何本もの剣を浮かべ、自身も浮遊している……見たまま言えば、それで済むけど。
「なんなの、あれ!」
叫ばずにはいられなかった。
得体の知れない存在が剣を纏って上空で佇む様は、何をモチーフにしたか判らない生物的なクリーチャーや無機質な機械が放つ印象とも違う独特の不気味さがあった。
「以前お話した、ミュード細胞とは異なるものです」
リズさんがそう言ったから、もう把握出来た。
ミュード細胞はDNAのように設計データを持った細胞的な機械を培養槽の中で一気に増殖させて完成形を生成する量産技術。
でもAIが使う兵器の中にはミュード細胞を使わないもの……量産性を無視した人間で言う手作りのように自動化とは無縁な労力を注ぎ込み続けてやっと一機出来るようなものがある。
柔軟な加工をする余裕が無いからデザイン自体はシンプルになりがちで、そのボディ全てが金属製であるという印象と事実を否応なしに放つ。
何処までも、完全に、すっかり……金属の構造体である。
そんな兵器を『エンタイア』と呼ぶって前にリズさんから聞いてたけど……私の目に映る存在が機械だって言うならさ――
どうなってんの、この異世界。
そんな言葉が今にも口から出て来そうだった。
神様は蠢く丘の上で暗清色の空を眺めますか? 竜世界 @LYU_world
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