死なない女

 暇だから、適当に半生書く。結構人に話すことは多いんだけど、ネットの顔のない人たちに語ったことはそういえばないなぁってふと思ったから、やってみる。SNSは嫌いだし、ネットといえば2chみたいなイメージあるから、ここにする。今2chじゃないんだっけ? 知らんけど、まぁいいわ。

 ご清聴ください(もう書き終えてるから一気に投下するだけだけどネ)

 私は死なない女です。はい拍手パチパチィ


 今までに四回、自殺を試みた。一度目は中学二年生の時、リストカットをしたこと。今思えば、あれはバカだったと思う。

 風呂でやって、気を失ったけれど、すぐに病院に連れていかれ、ほとんどこともなく完治した。後になってネットで調べてみて、リスカではほとんど死ねないことに気付いて、恥ずかしくなったのを覚えている。


 友達にいくらか噂されたけれど、もともと病んでるっぽいというキャラだったから「ちょっと家族に構ってほしかっただけ」という風に言って笑ったら、受け入れてもらえた。

 「わかる。私もそういう風にしたくなるときあるもん」と、友人の一人に言われたのを覚えている。

 わかってたまるか、と私は内心で思ったが、それ以上にどうでもよかった。その子は私より成績は悪く、運動もできなかったし、他の子からもちょっと避けられていたからだ。

 どうしてか、私は不思議と恵まれた環境に生きていた。友人は多かったし、顔もよいほうだった。勉強もよくできたし、運動も得意だった。でも、何もかもが不愉快だった。


 人の演技によく気付く子供だった。人の勘違いを悟る子供だった。産まれてから、くだらなくないものが見つからなかった。夢中になれるものがひとつもなくて、いつも冷めて目で世界を見てた。きっかけはわからない。親から聞く限りは、妙に大人しい赤ん坊で、昔から賢そうな顔つきをしていたらしい。写真を見る限りは(親が写真好き。私は撮るのは好きじゃないけど見るのは好き)別にどうということはない普通の赤ん坊に見える。泣いている写真もあったし、はしゃいでいる写真もあった。

 見る限り、鏡でよく見るやつれた自分と同じだとは思えない。


 自殺の話に戻そう。二回目の自殺は飛び降りだった。高校受験の前のときに、ふと衝動的にここから飛び降りたら死ねるかな、と思って学校の校庭の外側の崖になっている場所から飛び降りてみたのだ。大体十メートルくらいだったと思う。十メートルといったら……まぁ三階か四階建ての学校の屋上から地面くらいの高さと同じくらいかな。もうちょっと低いかも。下はレンガの歩道で、別に大して意識もせず、フラっと落ちた。落ちている最中のことは覚えていないとよく聞くが、正直、覚えているかどうかすら私は覚えていない。そのとき何か犬のようなものが目に入った気がしたけれど、気のせいかもしれない。ともかく落ちた後、普通に意識は保っていた。体がちょっと痛かったけれど、我慢して辺りを見回しても、誰もいなかった。

 それで、仕方なく足を引きずって保健室に行って、そのまま病院に行った。大した怪我じゃなかった。足のちっこい骨か何本か折れたりひびが入ってたりしてただけだった。治るまで三、四カ月くらいかかったけれど、高校受験にも影響はなかった。


 これも恥ずかしい話、十メートルくらいの高さからでは人は滅多に死ねないらしい。リスカよりは死ぬことはあるみたいだけれど、体重が軽くて健康体だった私がその程度の高さで死ぬことは、多分半分より確立としては低かったみたいだ。まぁでも確率論なんて馬鹿みたいだから、どうでもいいや。


 三回目。三回目は計画的にやった。首つりだ。さすがにここらへんでちゃんと死んでおかないと、本当に構ってほしいだけなんじゃないかと自分自身を疑いそうだったし、そもそも、このときは本当に耐えられないくらいつらかったから本気だった。

 何がつらかったというと、純粋に勉強や将来というものに嫌気がさしていたのだ。高校の進路希望調査もあったし、仲が良かった友達がなぜか恋人に振られたという理由で不登校になったりして、もうどうでもよくなっていた。

 先生も、「○○ちゃんは賢いから将来明るくていいね」とか嫌味か嫉妬かよくわからないようなことを面談で言ってきて、そのときは意味が分からないほど動悸がして頭がくらくらした。「お前に何が分かる!」って言ってやりたかったけれど、その代わりに出た言葉は「ありがとうございます」という脈絡に違和感を覚える感謝の言葉だった。

 今思えば、「背中を押してくれてありがとう」だったんだと思う。あの言葉のおかげで私は「よし、死のう」と思えた。

 それで、首をつってみた。自室で、ホームセンターで買ってきたつっかえ棒と麻縄を使って。説明するのめんどくさいけど、部屋の入口のところだけ狭くなっているタイプの部屋だったから、そこにつっかえ棒設置してって感じ。あと、ネットで調べたほどけない縄の結び方で。言葉にするとほんと馬鹿みたいだなぁ。


 で、これについては何で助かったのかよくわからない。気づいたら病院のベッドで寝ていて、泣いている家族がいた。何で助かったのか誰に聞いても首を振るばかりで、教えてくれなかった。

「○○ちゃんは、死ねないんだよ」

 母はそう言った。そう信じたいがために、私にそう言ったのだと思う。

「なんか、そうかもね」

 私は本心でそう返した。なんとなく、本当に死ねないような気がしたから。


 ともかく、それほど後遺症を感じることなく、私は退院した。心配した両親に言われるがまま高校は中退して、しばらく精神科病院に入院することになった。当時思ったのは、本当に私が死ねないのだと信じているならば、わざわざ精神科病院に入れたりなんかせずに、ほっといてくれればよかったのに、ということだ。

 でも結局のところ、私はすんなりその考えを受け入れた。それに、精神科の初診時に「中等度のうつ病です」と笑顔で診断され、「お前、病気なんやで」と指をさされた気分になったので、それで、私も笑ったのだ。「そうか。病気なら仕方ないな」と。

 私が自殺をしたいと思うのも、頭がいいのか悪いのか誰も判断できないのも、病気なら仕方ないな、と。


 私の目に、他の人間すべてが愚かに見えるのも、実際に私よりどんなテストでも皆の点数が低いのも、全部私が病気だからなのかな、と。

そんなわけないのだが、どうでもよかったから考えなかった。

 残念ながら、私は統合失調症ではなかった。ついでに知能検査も受けたが、IQの値はなかなか出ないような高数値を記録した。偏差値七十ほどの高校に通っているのだから、当然IQもそれと似たような意味合いの数字が出るだろうなと考えていたから、それほど驚かなかった。誰も驚かなかった。


 で、精神科病院。そこはいろんな人がいた。完全に頭が壊れてる人もいれば、私みたいに妙に頭が回る人もいる。というか、頭がおかしいことを演じて楽に生きようとしている普通の人もいて、面白かった。

ここは楽園かなって思った。でも、そこが楽園でないことは、そこで働いている天使の方々のやつれた表情を見ればよくわかった。

 「あぁこの人たちの苦労のおかげで、ここは安らかなんだなぁ」と私はぼんやりと思ったものだ。頼まれたから、彼らの手伝いをいくらかやったこともある。彼らは驚くほどに、私に感謝する。まるで「正常なのはあなただけだ」と言われているような気分になる。

 不思議なものだ。


 まぁでも、いくらか診察を受けて「前より顔色よくなったね」と何度言われても、私は永遠に中等度のうつ病だったようだ。別に何の意識もしていなかったが、どんな質問票を受けても、毎度毎度「中等度のうつ病」となるのだから、面白い。どういう基準なのか詳しいことは知らないが、よくできたものなのだろう。

 一度、話しの流れでお医者さんが「なんかよくわからないね」と言ったから、「分からない割に、先生は驚いていないようですが」と返したら、先生は「んー。変な患者さんばっかりだから、もう何が来ても驚かないと思う」と悲し気に笑った。

 私も変な患者な一人だったのだろう。不思議に思うのは、先生が自分自身を変な人間だと自覚していないことだ。あと、同僚をまともだと信じていることだ。

 きっとそれを揺さぶれば、先生は「変な患者」の仲間入りするんだろうな、という悪い考えが頭をよぎったけれど、人を傷つけたり、揺さぶったりするのは善くないことだから、私は何もしなかった。


 私が傷つけるのは、私一人で十分なのだろうと思う。私は誰かを傷つけたいと本気で願ったことはないし、誰かの不幸を望んだこともない。

 今思えば、幼いころから嫉妬というものをしたことがないかもしれない。本の中でよく出てくるし、他人からそういう感情を向けられることは多かった。だから存在そのものに疑問を持たないけれど、自分の中からそれを発見したことは一度もないと思う。


 なんだろう。羨ましいと思えるほど、価値のあるものを持っている人と出会ったことがないのかもしれない。悲しいけれど。もし、そういうものを持っている人と出会ったら、私はどうするのだろう? と言う風に、ちょっとした「あり得ないロマンス」を空想したことはあった。太宰とか、芥川とか、ちょっとええやんって思ったりもした。

 何度か恋愛を経験してみたが、「こんなつらい思いするくらいなら、ロマンスなんて望まないな」という残念な結論に行きついた。

 セックスは痛いし、男は自分勝手だし、私のことはアクセサリーか何かみたいにしか思ってくれないし。別れを切り出しても、泣いたり怒ったりするよりも、ただ茫然としてるだけの男を見ると、なんだか自分が痛い思いをした理由が分からなくなった。

 そうじゃない男性もいるのだろうと思う。でも、そういう男性に好かれるために媚びを売るのはどうにも性に合わないし、何より疲れる。

 ありのままの私を「お前じゃなきゃダメなんや!」って言って愛してくれるような都合のいい男性なんていないのはわかりきってたし、そもそもそういう熱いタイプの男性は冷めやすいと聞く。

 ともかく、苦労と我慢のすえの恋愛的幸福より、自殺したほうが楽だ。

 死んだら地獄に落ちるとか、ここよりひどい場所に行くとか、ひどい生き物に生まれ変わるとか、さんざん色んな人に脅されたけれど、なんかどうでもよかった。

 どんなひどいことになったところで、どうせ大して今と変わらないし、それだったら死んだ先に虚無が待ってることを期待したほうがいい。死んだら何もなくなるなら、それが一番いい。だって幸福の定義って「不安じゃないこと。満ち足りていること。それ以上ないくらい善い状態であること」でしょ? だったらそれって虚無じゃん。虚無って幸せじゃん。不安じゃないし、それ単体で全て満たしているし、それ以上善くならないのだから、それが一番善い状態じゃないの。


 まぁそういうわけで、四回目。今度は、まぁせっかくだから高いところから落ちてみようと思った。首とかをエグいリスカみたいにざっくり切るのでもよかったけど、ちょうど近場に高層マンションがあったから、そこから飛び降りることにした。十四階だったかな? あんまり覚えてない。

「ヒューさすがにこの高さなら死ぬな」

 って私は呟いた。懐かしい。あまりにも「死ぬ気がなさそうなセリフ」だったから、笑っちゃったんだ。

 それで、ちょっと神妙な顔つきをしてみたけど、余計おかしくって笑ってから、飛び降りた。


 今回もねぇ。犬が見えたんだよね。犬というか、秋田犬? 結構でかめの犬。あと、おじさん。おじさんが見えた。坊主頭の青年もいたかな。みんな普通に道を歩いてた。結構急な斜面だったと思う。

 現実の話、その辺はだいたい平地だったはずなんだけどなぁ。

 これは結構鮮明な記憶だったけど、なにぶん落ちている途中だったわりになぜかすごく切り取られている感じで、そもそもアングルが落ちている場所とは違ってるから、ねつ造された記憶だと思う。脳って不思議だよね。ありえないような記憶が時々残ってるんだから。


 で、運よく植木に落ちた。骨はバッキバキだったけど出血はなし。意識は朦朧としてたけど、一応あったと思う。救急車に運ばれて、それで一命をとりとめた。お医者さんには「奇跡ですね」なんて陳腐な言葉を言われて、笑った。

 なんか、書いてみて思い出したんだけど、私、この辺から少し明るくなって、結構声を出して笑うようになった。つらいこととか悲しいことがあるときに、なんか愉快な気持ちになることが増えた。脳の防衛反応という割にはなんかとても穏やかで、慈しみと言うか、愛情? なんかよくわからない感情がこみあげてくるようになった。

 「別にええんとちゃいますぅ?」という感じの、無関心というか、なんかテレビのお笑い芸人が痛い目にあってるときの「痛いけどおいしい」みたいな、そんな感じ? んーなんか違うけど、まぁいいや。

 それで、半年くらい入院して、傷は結構残っちゃったし歩き方変になっちゃったけど、日常生活に支障ないレベルで完治。なぜか、入院する前よりモテるようになりました。知り合いにいい顔つきになったとも何度か言われました。

 そうそう。不思議なことにこれだけ無茶して顔に傷がひとつもないんだよね。神様は面食いなのかもしれない。


 おかげさまで、変な男がいっぱい寄ってくるけど、そいつらからかうのは面白いし、なんかどうせ死ねないからなぁと思っているので、日々愉快に暮らしています。頭のおかしなニートですが、両親は働くのが好きで、結構収入があるので、不安も不満もないです。あと、時々気分が乗ったときに知り合いに頼まれた仕事とかやってお小遣い稼いでます。基本やろうと思えば私は何でもできるんで、頭おかしいけど頼りになる女としてちょっと評判いいんですわぁ。

 そう。こんなんだけど私結構友達多い。やめた高校の友達ともいまだに時々会ったりする。そのうちの一人とは「今まで何回泣かせたかなぁ?」って感じに仲がいい。補足するけど、私は意地悪して人を泣かせたことはあんまりない。そうじゃなくて、泣きたがってる子に欲しがってる言葉をあげると、堰が切れたように泣き出すんだよね。何時間でも私は一緒に泣いてあげるから、そういう点で好かれるんだと思う。

 相談相手として選ばれることも謎に多い。多分どんなやばいことを話しても、変だとか狂ってるだとか思われないからなんじゃないかな? 私って一番変で狂ってる人間みたいだから。まぁ私だって私以上にやばい人みたことないからそりゃそうなんだけど。

 それにしても、面倒なもの抱えている人は、案外みんなが思ってるほど珍しくないんだよね。まぁ他言はしないけど、そういうのはできればみんな分かっておいたほうがいいと思う。

 いちばんヤバイ、狂人なのに正気を保ってる私が言うんだから、間違いない。

 幻覚とか幻聴とか、めったにきこえないし、聞こえてもちゃんと「あ、これまぼろしぃ」ってすぐわかるから、正気なんですわぁ。


 ま、死ぬのが怖くないので、売春でも臓器売買でもやろうと思えば何でもできます(犯罪は善くないことだから避けるけどネ)つーわけで、なんだかんだ社会貢献はしてると思います。運転免許に書いておく臓器提供のやつも全部やっちゃってくださいのところに丸つけてるし、結構立派に生きてます。


 人生、楽しいこととかほとんどないし、つらいこととか悲しいことばっかりだけど、まぁいっかって思えてマース。

 気分次第でまた自殺するかもしれないから、未遂に終わったらまた書くね。バーイ。


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陰鬱の谷【短編集】 睦月文香 @Mutsuki66

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