第7話 夢から醒める

 それを合図にしたように、部屋に警察官と武子が入ってきた。武子はぶすっとした表情をしており、腰には縄が付いていた。俺が思わず立ち上がると武子は顔を俺からそらした。俺は武子がやったのだと確信をした。藤堂は柔らかい声で武子に声をかける。


「では、直接あなたから聞かせてもらおうか。どうして、岸を殺したのか」


 武子は藤堂のことをきっと睨むと聞いたこともない低い声で恨み言を話し始めた。


「岸には盗癖があった。それを隠すのに佐藤サンの部屋を使っていたのよ。この間は妾の生活資金を盗まれたの。岸は知らないと云ったわ。佐藤サンが眠ったあと、佐藤サンの部屋に入ったら文机の上にくしゃくしゃな十円札を見つけたの。問い詰めても知らないって云うところが腹立たしくて憎らしくって。庖丁を見せたら白状したわ。それでも妾の腹の虫は収まらなくって、お酒の勢いもあったのかしら。つい殺してしまったの。で、妾も怖かったから罪をなすりつけようと思って佐藤サンに握らせたの」


 俺は思わず机をたたいた。


「なぜ、俺が夢遊病だと云った」


「だから云ったぢゃあない。岸の盗癖を隠すためよ。貴方に罪をなすりつけるため。莫迦なひと


 武子は思いっきり舌を出した。精いっぱいの強がりに俺は笑うしかなかった。武子が別室に連れていかれると藤堂は深く息を吐き、脚を再び組んだ。


「これで、君の無実は証明された。君は娑婆に戻れるよ」


「あ……ああ……。ありがとう」


「僕に感謝するなら、自分の御母堂に感謝したまえ」


 藤堂は微笑を浮かべ、席を立った。優しい笑みを浮かべる男は何も云わずにそのまま去っていった。俺はお袋の顔を思い浮かべる。帰ろう、母の元へ。現実へ。

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悪夢 石燕 鴎 @sekien_kamome

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