ペニスのない少女誘拐犯
@satou24
プロローグ「名前のない子犬」
「現世では、残酷な狂人はびこり、悲哀の涙枯れることはなし。救わねばなるまい。小さな犠牲を省みずに。どれだけ嫌われようとも、平和の為に苗を植えようぞ。この短き命が尽きるまで」
黒い装いをした小太りの女は、とあるアパートの戸の前にいた。その戸の胃袋は小さく、紙の吐瀉物を吐き出していた。
ざぁざぁと、雨の音がしていた。
女は、鍵穴に変形させた母指を差し込み、回した。
紙が散らばった、その玄関には、靴が一足も無かった。
靴のまま段差を乗り越えて、しゃく、しゃくと、音を鳴らしながら進んだ。袋に詰まったゴミが、足場を無くすほどに溜め込まれていた。ハエやゴキブリが、そこらにいた。
仕切り戸を開けると、首輪をつけられて、鎖で繋がれた子どもが二人いた。
あまり家具のない殺風景な部屋で、その子どもらは、小さなテレビを見ていた。
「こんにちは」と女が声をかけた。
「あれ、ママじゃない。おばさん誰?」
そう言ったオスの顔には、痛々しい十字の傷痕があった。メスの方には、横に一線、傷があった。
子どもらは、服を着ておらず、毛の無い白い体を晒していた。
「あなた達のママに頼まれてやってきたのよ、名前は、そうね、グリコ」
「なんだか、美味しそうな名前ね」
「あなた達のお母さんに、どちらか一人だけ、貰っていいって言われたの。ねぇ、ここから出てあたしと暮らさない?」
そう言うと、メスの方が睨んで、口を開いた。
「・・・どっちもじゃ、ダメですか?」
「ごめんなさいね、一人しかだめなの。出来れば男の子の方がいいわ」
オスがメスの方に、ひしっと抱きついた。
「嫌だ、行きたくない。お姉ちゃんと離れたくない」
「あらあら坊や、お外は楽しいわよ。遊園地や動物園どこにも連れてってあげるわ。学校にだって行ってみたいでしょ?」
メスは、唾を飲んだ。テレビで見ていた外の世界の話。外には楽しいことがたくさんある。このまま、ここにいても、弟は、幸せになれない、そう思った。
「ねぇ、おばちゃんと一緒に行こうよ」
「・・・やだ。お姉ちゃんと一緒がいい。一緒じゃなきゃ、どこにもいかない」
メスは、オスのことが愛らしくて、たまらなかった。だからこそ、オスを幸せにしてあげたかった。
メスは、小さなオスの背中を、両手で思いっきり突き飛ばした。涙を、ぼろぼろこぼしながら、口を開いた。
「・・・この子を、外に連れてってあげてください。お願いします」
オスは、絶望した顔をした。
「・・・え?やだよ、やだよ、やだよ」
女は、オスの手を優しく掴んだ。掴まれたオスは、拒んで手をふりほどこうともがいていた。
「その子を、よろしく、お願いします」
メスは泣きながら、微笑んだ。
「お姉ちゃんと離れたくない、いやだ、いやだ」
オスは、泣き喚き始めた。
首輪の外れる音が虚しく、響いた。
ペニスのない少女誘拐犯 @satou24
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