超高速「蜘蛛の糸」2021

お望月さん

プロローグ

 天国と地獄の間であっても通信回線の進化とは無縁ではなかったらしい。地獄から天へ昇った俺はハードボイルドに天界のVAPEをキメながら足元で56億7千万色の光を放つ極太のを見つめる。


 天国と地獄の間で上り14.4kbpsの蜘蛛の糸を垂らしていた時代はもう終わった。少し前までは餓鬼クソガキ亡者イナゴが集中すると魂魄のアップロードもままならず、転生放題テセホーダイの時間になると、すぐに接続が切れて回線落ちしまくっていたものだった。


 だが、いまではリプレイスされた極太回線によって六道を瞬く間に通り抜けて即座に輪廻転生リセマラが完了するようになった。いまじゃ「カンダタの説話」を聞くのは絵本の中だけだ。


 実際に俺が最後に死んでから、現実世界では10秒も経っていない。高速回線万歳。天国に居ながら地獄のホラー映画を楽しめる時代になったのだ。


 さてと下界はどうなってるかな。桃色雲VAPEの隙間から人間道を見下ろすと、埠頭のコンテナヤードが赤く染まっていた。あたり一面に人間だったものが散らばり、その中心で白スーツの死体に何度も長ドスを突き立てている黒スーツの色男が見える。


 水野クロウ。いわゆるヤクザの鉄砲玉。蒼白な顔面が返り血を浴びて何とも言えない妖艶さだ。その足元で胸を何度も突き刺されているダンディが俺だ。ついでにコンテナの壁面にドスで張り付けられている死体も、四方八方にダースで散らばる手足も、全てこの俺、神田一生のものだ。


 俺はありとあらゆる善行でカルマをため込んできたんだ。一度や二度殺されたくらいじゃ死なねえよ。エレベーターの「開」を押し続けた総時間で俺に勝てるやつはいない。天界のカルマ帳簿係にウィンクをする。(帳簿係はNETHERFLIXに夢中だったので無視された)


 そして男は、まるで散歩でもするかのように人間道へ飛び降りた。


 コンテナヤード。光柱と共に降臨する白スーツを見て水野は悲鳴を上げた。殺しても死なない男はいくらでもいたが、殺すたびに降臨してくる男は初めてだ。


「なんなんだよお前は!!」


「ちょっとした保険外交員さ。あんた、カルマの積立つみたてに興味はないか。鉄砲玉なんだろ?」


 水野は困惑した表情で俺を見つめた。


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超高速「蜘蛛の糸」2021 お望月さん @ubmzh

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