痕子の逡巡

 「やあ痕子ちゃん、いいかげん攻撃的な猫を交番に持ち込むのはやめてくれないかな。こっちも仕事なんで暇じゃないんだけど。」


 散々猫に顔を引っ掻かれた警察官がキレ気味にこちらを向いて言った。

……でも仕方ないじゃないか。今回は本当に飼い猫だと思ったのだ。


 「すいません。以後気をつけます。」


 心は全くこもっていない謝罪をする。警官とはいえ所詮は一大人、子供が素直に謝ったらこれ以上は追求してこないだろう。


 「そんな心のこもってない謝罪しても無駄だからね。今度こそ親御さんに連絡しとくから。」


 むむ。全く通じていなかった。というか親に連絡されるのはまずい。非常にまずい。


 「ああ、君のところは固定電話がなかったんだっけ。このやり取り何回目だよ、もう。」


 この警官は毎回このやり取りをしていて飽きないのだろうか。そう思ったが、親に連絡されないのは素直に嬉しい。感謝だ。南無南無。これは違うか。


 「……本当に、何か辛いことがあったら、なんでも言って良いからね?親御さんの力が強くて通報はできないけど、相談くらいなら乗ってあげられるから。」


 「そういうのはお姉ちゃんがやってくれるので良いです。」


 「ああ、そう……」


 私の親が虐待しているのは周知の事実だ。しかし表沙汰にならないのは、やはり権力への恐怖だろうか。あるいは私たち姉妹の、変化への恐怖。どちらにせよ、あまり良い物ではないのだけれど。

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青単痕子の過ち ミニマル @minimaro

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