痕子の吟味

 「ん。遠いところから来たのかな。わかんないけど…」


 私はその子に近寄る。もちろん怯えさせないように少しずつ、少しずつ近寄っていく。しかしその子は全くと言っていいほど怯えない。飼い猫なのかな。


 「にゃぁ」


 その子は警戒心のかけらも無く、無造作に頭を差し出した。撫でてくれと言っている様だ。ーーしかし、仮にも野良猫だ。容易に触っていいものか。


 「おお、これはいいもふもふ。」


 なんて考える前に手が触れていた。自分で言うのもなんだが、もう少し警戒心を持った方がいいと思う。しかし、そんな不安は撫でるうちに薄れていった。やはりどこかの飼い猫だろうか、毛並みや艶が他の子と段違いだ。


 「しかし、流石に交番に届けた方がいいよね…」


 抱き上げて降板に向け歩く。その間も一切の抵抗をしなかった。これで野良猫ならば逆に心配になるくらい従順だ。


 交番の目の前に立つ。確か迷い猫は交番であっていた筈だ。と、手元で抱いていた猫が首を上げ、交番を見上げた。その途端、猫は魚もかくやと言うほど暴れ始めた。


 どうしたのだろう。病院か何かと勘違いしたのだろうか。とにかくここで止まっていると不審者と間違われるので、ドアを開け中に入った。

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