痕子の逃避

 治った頬をさすりながら、街に繰り出す。現代的なネオンとすれ違うことのない人の少なさで初めて夜であることを自覚する。時間の流れは早いもので、油断していたらすぐに置いて行かれそうだ。


 「あ、痕子。どうしたの?あんまり良くなさそうだけど。」


 私の唯一の、いや唯二の友達が駄菓子を大量に食べながら夜の公園のベンチに座っていた。

 ……駄菓子を大量に食べながら夜の公園のベンチに座っていた?

……弁明をさせて欲しい。別に彼女たちは不良というわけではないのだ。


……ただ、興味が出たことは即実行してしまう機関車なだけで。


 「良くないって、何が。」


 顔色を変えずにそう言う。今の彼女達の仲間だとは、とてもじゃないが思われたくない。


 「文字通りの意味だよ。……また殴られたの?」


 今度は無愛想な方……アキリが答える。大体の面倒ごとは彼女が止めてくれるのだが、今度は彼女も好奇心が勝ったらしい。


 「なんでわかるの、傷はないのに」


 反論しながらも、肯定のような返事をしてしまう。と言うかこれだと、ほぼ肯定しているようなものだ。私の脳髄はあまり隠蔽には向いていないらしい。


 「顔から違うよ。なんか、むすっとしてる。」


 どうやら私は無意識下で拗ねていたらしい。全くもってそんな気はなかったのだが。私は感情が表に出やすいのだ。


 「ほんとに家を出ること、考えたほうがいいかもね。その頻度で殴られてるのはもう虐待だよ。」


 二人なりに気遣ってくれているのだろう、その場には重い空気が流れる。……きっと、いつもの冗談ではないのだろう。だけど、私は重苦しい空気が嫌いだった。


 「……考えとく。」


 その場で軽く受け流す。何のことはない、いつもやっていることだ。しかしやはり多少の気まずさが付き纏うので、その公園から早々に出ていくことに決める。


 「ずっとそのままなの?」


 後ろから痛い声がかかる。できれば私もこの生活から脱出はしたいが、しかしそんなことが出来たらこんな生活はしていない。


 何処までも臆病な私は、現実逃避をするくらいしか選択肢がなかった。


 「にゃぁん」


 公園を出てちょうど突き当たりに猫がいた。この街にいる全てのもふもふは網羅しているつもりだったのだが、その子とは初対面だった。

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