第7話
家に着いた優人は、自室で神社から持ち帰った授与物の袋を眺めていた。
最初に、B5サイズの紙袋から取り出したのは、金と紫の糸で編まれた煌びやかな御守りだった。
「これはご利益がありそうだ。」
次に出てきたのは。
「うっ。」
ラミネート加工された神主の写真だ。上半身裸で、ボディビルダーがよくやる両腕をくの字にしたポーズを取り、真っ白な歯を剥き出しにして笑っている。ムキムキな筋肉を、綺麗に見せるために何か塗っているらしく、浅黒い肌が脂ぎっていて非常に気持ち悪い。写真の裏には、夜の淫魔退治は是非当方まで、と書かれてあり、その下に携帯の電話番号が添えてあった。
「こ、これは要らないな。」
しかし、捨てると呪われそうなので、仕方無く学習机の引き出しの一番奥へ突っ込んだ。御守りのほうは、なるべく身近に置いておこうと通学用のカバンに入れた。
風呂から上がり、優人は世界史の教科書を開き勉強を始めた。ノートに自己流の年表を作成し、歴史地図も見ながらその地域で起こった出来事を頭に刷り込ませる。
夜10時半を過ぎた頃、カチャリとドアを開ける音がした。
「お兄ちゃん、テストはもう終わったよ。」
優人がちらっと横目で見ると、パジャマ姿の雪奈が腰に手を当てて立っていた。
「うん。でもすることないしな。」
「何か趣味でも見つければいいのに。」
「どんな?」
「え~とね。例えば、あたしの脱いだパンツを集めるとか。」
「そ、そ、そんな趣味なんて聞いたことないぞ。」
霧沢との約束を思い出した優人が、狼狽えつつも否定した。
「はは。例えばだよ例えば。」
「それに、兄は妹の下着になど興味はないのだ。」
「もう、またそれなの?」
ベッドの上に座り込んだ雪奈が溜息を吐いた。
「オレには当たり前のことだ。」
「男の子なんだから、興味あると思うけどなぁ。」
いつもの様に、雪奈がベッドでストレッチを始めた。手を伸ばしながら、広げた右足に頭をぴたりと付けている。
「それよりも、雪奈に聞いてみたいことがあるのだ。」
優人が手を止め、ベッドで屈伸している雪奈に向き直った。
優人には、未だ頭から離れないことがあったからだ。
「なに?」
雪奈が体を戻し、頬杖を突いてベッドにうつ伏せになった。膝から下をパタパタと交互に上下させている。
何だかその姿が幼児のように見えて、優人は愛らしく感じた。
「小っちゃい子どもみたいで可愛いな。」
「チュッチュしてもいいよ。」
首を傾げて雪奈が微笑む。小さな口が横に広がり、綺麗に並んだ白い歯が見えた。悪戯っぽい瞳が優人を誘っている。
「し、しないからな。それよりもだ。雪奈が昨日言っていたことについて聞きたいんだが。」
優人は神主の言葉が気になって仕方が無かった。
強いおなごの霊ってもしかして。
「言ってたこと?」
「うん。何かおまじないと言ってただろ。それってどんなこと?」
「ああ、あれはね。あたしの爪や髪の毛を細かく切って、お兄ちゃんのズボンのポケットに入れたの。」
「そうなんだ。」
「うん。お兄ちゃんを虐めないで下さいって言いながら入れた。」
雪奈は、自分の行為を少し省略して優人に伝えた。
爪や髪を細かくしたのは、洗濯してもポケットから無くならないようにするため。
そして、それら一つ一つを舌で丹念に舐めながら、あたしのお兄ちゃんを虐める奴は殺す、と深く強く念じ全てのズボンのポケットに入れた。
ベッドの隙間やこの部屋の四つの角にも同じものが置いてある。
「ありがとう。おかげで昨日は変な夢を見ずに済んだよ。」
「お兄ちゃんのためなら何でもしてあげるからね。」
「なんて出来た妹なんだ。お兄ちゃんは嬉しいぞ。」
優人がベッドに手をつき、身を乗り出して雪奈の頭を優しく撫でた。
やはりそうか、と優人は考えていたことの結論に至った。
あの強い霊は雪奈の想いが凝り固まったものだろう。
それならもう祓わなくても大丈夫だ。
こんな優しい子が妹で良かった。
うう泣けてくる。
でも怖いから爪や髪の毛はあとで全部取っておこう。
「あ、お兄ちゃん。プールだけど、みんな行きたいって。」
「そうか。良かったな。」
「うん。それでね、水着をみんなで買いに行くことになっちゃった。」
「オレは構わないから、みんなで買いに行ったらいい。」
「ごめんね。せっかく楽しみにしてたのに。」
「そんなに気にしなくても大丈夫だぞ。」
優人は寧ろほっとしていた。
水着売り場なんて、下着売り場と同じだ。
周りの女性から冷たい視線を浴びるに決まっている。
そんな居心地の悪い場所へは、出来れば行きたくなかった。
「買ったら真っ先に見せてあげるね。」
「それは楽しみだな。」
「それとね、お兄ちゃん。」
雪奈がベッドに座り直し、顔を伏せ気味にしてもじもじしている。
「ん?どうした。」
「あのね。この前の遊園地のことなんだけど。」
「遊園地がどうかしたのか?」
「ホラーハウスのことって覚えてる?」
「あの人形のことなら覚えているな。」
「そうじゃなくてね。えっと、あたしが話してたこととか。」
「雪奈が話してたことか・・・。う~ん。」
優人が顎に手を当てながら天井を見つめた。
雪奈は、期待と不安の入り混じった表情で優人を見守っている。
「さっぱり覚えてないな。」
「なんだ。覚えてないんだ。」
拍子抜けしたように雪奈は肩を落とした。
「雪奈は覚えてたのか?」
「ちゃんと覚えてるよ。それじゃあね、あたしがしたことは覚えてるの?」
「もちろん覚えているぞ。」
「そっちは忘れてないんだ。」
「当たり前だ。何しろ心臓が止まりかけたんだからな。」
「そ、そうなんだ。」
「あの状況だし、心に刻まれてしまった。」
「やっぱり嫌だったから?」
「嫌じゃない。驚いただけだ。」
「嫌じゃないんだ。良かった~。」
「なんだ。気にしていたのか。」
「うん。だってお兄ちゃん、キスとか嫌がっていたからね。」
「ああ、あれはキスじゃないから平気だぞ。」
「えっ?」
「ん?何か変なこと言ったかな?」
「あ、ううん。何も。」
あれ?と雪奈は疑問に思った。
お兄ちゃんにとってあれはキスじゃないんだ。
ある意味キスよりもすごいことをしていたのに。
ここは確かめておかないと。
「じゃあ、耳とか首を舐めても嫌じゃないの?」
「全然平気だぞ。」
「怒らない?」
「いきなりされなければ大丈夫だ。」
「じゃあさ、今から舐めてみてもいいかな?」
雪奈の表情が期待に満ち溢れている。
「す、少しならいいけど。」
雪奈の異様に輝く瞳が怖くなり、優人は不安気に答えた。
「やったああああああああああああああああ!」
「えっ?そんなに嬉しいのか?」
「うんうん。すっごく嬉しい。」
雪奈が満面の笑みを浮かべている。
「こんなことが嬉しいなんて、雪奈はまだまだお子ちゃまだな。」
「あたしは、まだお子ちゃまだから好きにさせてね。」
そう言って、雪奈はベッドから降り立った。
「それじゃ始めるから、机のほうを向いてね、お兄ちゃん。」
雪奈が、優人を椅子ごと回転させた。
正面からでもいいが、それだと兄が恥ずかしがると思っての配慮だった。
先ずは小手調べだ。
左髪を耳の後ろにかき上げてから、兄の肩から胸へ首を挟み込むように両手を回し交互にする。
自分の柔らかい胸を、肩に近い背中に押し当てながら、兄の右の頬に自分の頬を触れ合わせた。
椅子の背もたれが邪魔だったが、気にせず円を描くように顔をなぞらせながら頬の感触を確かめる。
蒸した餅のように柔らかく、シルクに似た滑らかな肌だ。
触れれば触れるほど、悦びの波が押し寄せてくる。
どうしてこんなに気持ち良いのだろう。
これだけでもあたしの心が満たされていく。
「ふふ。」
あまりの心地良さに、思わず笑みが零れてしまった。
「どうかした?」
「何かほっぺたをくっつくけるだけで満足しちゃった。」
「えらく安上がりだな。」
「あたしが安い女だと言いたいの?」
耳たぶをガジガジと噛む。
「いたたた。言ってない。言ってませんから止めて。」
「止めてあげるから、まだじっとしていてね。」
雪奈は、優人の耳たぶから口を離し、すぐ下の首筋に視線を向けた。
焦ってはダメ、と自分に言い聞かせる。
突然転がり込んだチャンスを逃す手はない。
時間が許す限り、思う存分味わって堪能すべきだ。
「それじゃいくね。」
雪奈は、優人の耳に唇を軽く押し付けた。
そのまま、首筋の下までゆっくりと這わせていく。
舌を僅かに出して、優人の肌に触れる。
特に反応はなかった。
もう少し舌を伸ばしてチロチロと首元を舐める。
優人の肩がピクッとしたが、それ以上の動きは無い。
雪奈は、濡れぼそった舌を大きく出して、優人の首筋を下から撫で回す様に舐め上げていった。
首筋に残る雪奈の唾液が、蛍光灯の光を妖しく反射している。
雪奈のねっとりとした舌の動きに、ビクッビクッ、と優人の体が過敏に反応した。
「くすぐったい?」
「うん。」
舌で舐めるだけでなく、所々で優人の柔らかな肌を、チュッ、チュッと口で軽く吸っていく。
男性の象徴を愛撫しているような錯覚に陥り、雪奈の情欲が昂り出した。
雪奈の右腕が、そろりと優人の胸に回され、左腕は優人の頭を包み込む。
椅子の背もたれも一緒に、雪奈は自分の体を優人の背中に強く押し当てた。
もっと味わいたい。
雪奈が、優人の首筋から耳の裏へと、濡れた舌と唇を這わせる。
耳の後ろから魅惑的な香りが漂ってきた。
この匂いを嗅ぎ続けると気が変になる。
「あぁ・・・。」
耳の後ろを丹念に舐めまわしていた雪奈の口から、とろりと甘い喘ぎ声が漏れ出る。
右手が、指先からも快感を得ようと、優人の胸を揉み拉き始めた。
左手は、優人の髪をゆっくりと掻き乱しながら淫らに動き回る。
下腹部が疼き出し、兄の体を無茶苦茶にしてみたい欲望に駆られ、自分を制御出来なくなった。
「お兄ちゃんっ!!」
無意識の内に叫びながら、雪奈は渾身の力で優人を抱き締めていた。
「ぐっ!ま、待って。」
雪奈の両腕で首と胸部が圧迫され、息苦しくなった優人は机を掴んで強引に立ち上がった。椅子の背もたれのお陰で、雪奈と自分の間に隙間があり、何とか逃れることが出来た。
「動いちゃダメッ!」
優人が急に立ち上がった為、雪奈は額を優人の肩にぶつけてしまった。上り詰めた快楽が、台無しにされそうになり声を荒げる。
「もうお終い。」
「ええっ?あたしはまだ終わってないよ。」
「オレの頭の中では蛍の光が流れているぞ。」
「そんなの知らない。好きにさせてくれるって言ったのに。」
「もう十分好きにさせたはずだ。」
「あたしはまだ物足りない。」
「とにかく、今日は終わりだ終わり。」
「終わってないからもっとさせて。」
「はいお休み。」
話しが終わりそうになかったので、優人はベッドに転がり布団を被った。
「お兄ちゃんっ!」
雪奈がベッド脇に立って、寝ている優人を睨んでいた。
優人は眼を瞑ったまま動かなかった。
「もうっ!」
雪奈は、優人が被っている布団を捲り、その隣りに横たわった。
優人の体に自分の体を押し付ける。
「あれ?ここで寝るのか?」
優人が目を開けて、間近でこちらを見ている雪奈の顔を不思議そうに見つめた。
「寝ちゃダメなの?」
「普通、怒ったら自分の部屋に行くと思ったからな。」
「あたしは、怒ってもお兄ちゃんから離れないの。」
「そうなんだ。」
「そうだよ。」
「はは。」
「何が可笑しいの?」
「いや。雪奈が可愛いと思ってさ。」
「そう思うならあたしを抱き締めて。」
「軽くだぞ。」
優人が、横で寝ている雪奈の方へそっと腕を回す。
雪奈の体から、柔らかな温もりが伝わってくる。
心が安らぐ爽やかな香りがした。
「ねえ、お兄ちゃん。」
「何?」
「舐めてもいい?」
「駄目。」
「ケチ。」
雪奈は顔をしかめながら舌をちょろっと出した。
「じゃあ、また今度してもいい?」
「そっちも軽くだぞ。」
「うん。分かった。」
雪奈が、優人の肩に顔をくっ付けて眼を閉じる。
「おやすみ。」
「おやすみ。」
優人は枕元のリモコンで部屋の明かりを消した。
暗闇の中で、雪奈の指が優人の首筋に優しく触れていた。
大きいのに可愛い妹は好きですか? 天上 樹 @kitajima3080
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