第37話 輝く空を見よ

 黒煙により身を包み、赤黒い泥を操りながら剣で斬りつける。

 その剣はとても人間の力では持ち上がらないほどの大刀であり、魔術王が放つ魔力弾を吹き飛ばすほどに固いものだった。

 

 「死に急ぐか。良い、もっと抗え!」


 本からは無限に魔杖が出てくる。

 それは空を舞う流星の如く城でさえも壊す威力の光。魔力弾が角鎧を纏いし者に射出されていく。


 「■■■■■■■■■ァ!!」


 叫びを上げながら、角鎧の騎士は大刀を振り回し、向かってくる。


 「魔術王!余も加勢しよう!!」


 大地を最高位の神獣、黒曜のユニコーンで駆け抜けるグランドロス。

 その速さは天を引き裂くほどに、大地が雄叫びを上げるように地響きを上げて駆け抜けた。

 そしてトップスピードで角鎧の騎士に突っ込んでいく。

 速すぎて黒色の閃光が通り抜けたようにでしか思えない。

 

 「うおぉぉらぁぁい!!」


 独特な雄叫びを上げながら突進して行く。

 その速さに反応できずに角鎧の騎士は木々を破壊しながら吹き飛んでいく。 

 そこにつかさず魔術王の魔力弾が撃ち込まれる。

 木々で覆われていた大地は一瞬にして消え去り、大きなクレーターが出来上がっていた。

 だが多少なりともダメージはあるであろうが、角鎧の騎士はその頑丈さで圧倒していた。


 「ほう、まだ立つか。ならばこれはどうだ?」


 魔術王はさらに多くの魔杖を展開した。

 もはや空は魔杖で埋め尽くされ、遠くから見れば一種の建物が出来たかと思うほどである。


 「さぁ、我の一撃を受けて見よ。そして絶望しろ!」


 射出されたのは先程の魔力弾。否、どこからどう見てももっと強力なものだった。

 もともと神話や伝承の杖にため、ただの魔力弾でさえも城一つは吹き飛ぶ威力だが、それは杖自身が持つ能力ではない。

 本当の能力は魔杖自身が持つ固有の能力。

 神話に伝わる本当の能力。


 「ふははは!我が力を見よ!魔球エンキ!」


 角鎧の騎士を中心に球状に展開された多くの魔杖。それは各々が持つ固有の属性。雷、炎、水。その他たくさんの固有能力が放出された。


 「■■■■■■■■■ッ、■■■!!」


 ダメージを受けて雄叫びを上げる狂化された騎士。

 だが次の瞬間に大刀が赤く光り輝き、魔杖の攻撃全てを掻き消した。

 多くの杖が吹き飛んでいく。

 そして魔術王と大地の王はその大刀に見覚えがあった。


 「あれは……」


 魔王の──


 昔、五帝王と呼ばれ。魔王掃討大戦において猛威を振るい、その力を示した者。

 その武器に二人の王は懐かしさを覚えようとも、攻撃自体は止まぬ。

 

 なぜあの武器をあの者が──


 そう頭をよぎることもあった。

 だが、もはや奴は過去の人間。興味もない。

 ならば、その亡霊に引導をくれてやらねばならぬ。

 

 だが、魔術王の杖が吹き飛んだため、攻撃の嵐が止んだ。

 そのため、角鎧の騎士の攻撃が激しさを増す。

 大地を斬りつけ、風圧が剣となり向かって行く。

 だが、その風圧を止めたものがあった。

 

 大地に並ぶ獣達。

 レヴェルトの魔力で具現化せし神の獣。

 その黄金のたてがみを風になびかせ、金色の翼で空をも翔ける。

 名を神獣ネメア。

 その獣の口から放出される魔力光線。

 灼熱の魔力光が地を灼き、大地を削り、角鎧の騎士に向かって行った。

 その威力は先程の風圧を掻き消すほどのものだった。

 

 「ハハッ!どうだ。貴様如き、余の獣のみで相対するのも一興であろう」


 天上の”船”にて声を上げるは光の王レヴェルト。

 カエルムナービスの力は使わず、獣のみで戦っている。

 そして、神が如くその様を見下ろしていた。


 「余は完全であり、絶対的な存在である。ならば、ここで貴様を灰塵にするのも我が力のみ。さぁ、もっと余を楽しませよ!!」


 ネメアの咆哮が角鎧の騎士に向かって行く。

 騎士はそれを避けて斬りつけるが、落としたはずの首は一瞬にして魔力で構築され、復活した。

 ネメアは魔力で具現化した存在である。

 ならば、命は無限。つまりは不死。

 どれだけ殺そうと死ぬことは無い。


 「ハハッ、フハハハハハ!!無駄だ、無駄だ!!」


 もはや角鎧の騎士の敗北は確定的であった。

 見えない黒き神獣の突撃。

 無数の魔力弾による物量的な攻撃。

 不死身の神獣による魔力光線。

 どのような軍隊。

 どのような存在であろうと勝つことは出来ない。

 それほどの連携。それほどの威力であった。


 「はっ、この程度か」


 呆気ない幕引きに、期待が瓦解した。

 もはやこの程度では余興にもならない。だが、向こうも運がないとしか言いようがない。この世界で頂点の力であろう三人と相対したのだから。

 

 「■■■■■■■■■ァ!!」


 だが、まだ終わっていなかった。

 それなりのダメージを負っていたが、まだ体が崩壊するに至らず。まだ向かってくる。

 

 「ほう、どこかに魔力供給となっている部分があるらしいな。欠損部分が治っている」


 ダメージが、どこからかの魔力供給によって治癒されていた。

 これを倒すには絶対的な力が無ければダメなようだった。


 「ならば、余が行こう!!」


 グランドロスが再度突撃しようとした時だった。

 空が金色に輝く。

 ゼラード王の領地を破壊した時以上の光だ。

 その光は湖の付近を超えて、世界中にまで広がった。


 「グランドロス、どうやら貴様の出番は無いぞ」


 「ほぉう」


 その輝きに見惚れる王たち。

 神獣ネメアも消え、魔術王は邪魔になるであろう自身の杖を本に内包する。


 『カエルムナービス。出力最大』


 「魔力充填率は何パーセントだ?」


 『八〇パーセント』


 「あと少しか」


 船の声によって、ルクスプルヴィアの状態が告げられる。

 どうやら最大の出力で魔力光を放射し、灰すら残らぬように消すらしい。


 「さぁ、地を這う人よ。空を見上げろ。輝く空を見よ。

 神の雷、神の光を見るがいい。貴様を倒すのが余である」


 愛を手に入れた王。

 神たる王。

 その男の力が今見せられる。

 

 その様子を離れた場所から見ながら、魔術王は言う。


 「さぁ、光の王よ、我に見せてみせよ。貴様の自慢の光、光輝。この我が見定めてやろう」


 輝く光が最大値にまで達した。


 『ルクスプルヴィア、充填一〇〇パーセント』


 「よし」


 ──神の王は天上の船に乗り。


 ──その光は世界中を包む。


 ──慈愛に満ち、王道を示し。


 ──天を廻す光を放つ。


 ──それはまさしく業。


 ──彼が背負う業である。


 その名は──


 「ルクスプルヴィア!!」


 光が一気に放たれる。

 それはゼラード王の時とは比べ物にならない程の光。

 一直線に地上に向かう。

 それは回避不可能の速さ。

 王の放つ光は天を包み、地を灼く。

 そして、騎士の身が見えぬほどに放射され、地上に一つの大穴を作り上げた。

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