第36話 乱入者二人
ジノラバ王宮──
余は昨日訪問した大地の王グランドロスに婚姻を承諾すると伝えた。
傍らには昨日は出席していなかったフェリスも控えている。
グランドロスは今日会わせるつもりであったらしく、今日の朝、偶然出会ったことにとても驚いていた。
そして大いに喜んだ。
盛大に祝おうと言っている。
我が姉たるフェリスも泣きそうになりそうになっている。
だがその涙は悲しさではなく、心から祝福してのことなのだろう。
我が義妹たるリサは新しい姉が出来ると我が事のように大喜びしていた。
ユーレンはもうフェリスと仲が良くなっている。
耳を澄ませば、余の幼き頃の話を面白く語っていた。
後で目にものを見せてくれよう。
「いやぁ!めでたいめでたい。今宵も宴だな光の王」
そう言って肩を組んでくる。
別に余はあまりにも親しげに接するのでもうどうでも良くなったが、フロースが獲物を見る獅子のような視線を向けている。
このまま何かしでかすかもしれぬので、額を小突いて気を押さえさせる。
そのままフェリスは「申し訳ございません」と平伏する。
余はよいとだけいい、非礼をグランドロスに詫びた。
それからは一日中、騒いでおった。
民も兵も皆だ。
グランドロスは酒を飲み、フェリスと余にどのように会ったのかを楽しそうに聞いていた。
そう。
──皆誰もが楽しい宴を続けていた。
宴を初めてしばらくした時だった。
余は大地の王と共に外の空気を吸いに行く。
外はまさに祭り気分。
皆、王の結婚を嬉しく思い、讃えていた。
「此度の婚姻、真に嬉しく思う」
先程の雰囲気とは打って変わって、しみじみとグランドロスは言う。
レヴェルトも何も言わずに聞いていた。
「余は政略結婚は嫌いでな。娘には好いた男と結ばれてほしい。故に今まで婚姻を結んでこなかった。だが、今娘に心から一緒になりたいと思える人間が出来て余はまことに嬉しく思う。レヴェルト殿、娘をよろしく頼む」
「無論だ。
余は貴様の娘、フェリスを必ず守り、幸福を与えよう」
「そうか。ならよかった」
夜のジノラバ。
広場は祭り状態で、ウルドニアの珍しい食材やジノラバの酒を扱う屋台などが城壁の正門まで伸びていた。
この街を守り、最愛の乙女フェリスを幸せにする。
それが今のレヴェルトの目標であった。
──気配。
何者かの気配を感じる。グランドロスも気づいたようだった。
周りには怪しい奴は誰もいない。
レヴェルトとグランドロスだけであった。
だが、明らかに感じる何者かの気配。それはレヴェルトも使ったことのある気配の隠し方だった。
「隠れずに出てくるがいい」
グランドロスが大きな声で呼びかける。
すると周囲に魔力の光が集まりその姿を現した。
「大地の王、貴様。我に
現れたのは金色の髪に虹色の眼の男。
感じる神威はレヴェルトと同等。もしくはそれ以上であった。
「貴様に言ったら面倒くさくなるから言わなかったんだがな。やはりバレたか」
「グランドロス、この男は?」
レヴェルトがそう聞くと、グランドロスは頭を掻きながら言う。
「こ奴はガナルゼラシュ。王国ラルクの王だ」
「ほう、あの有名な魔術王か」
「戯け。貴様を見定めるためにわざわざ出向いてやったのだ。もてなすのが筋であろう」
当然の如くそう言う魔術王。
だが不思議とレヴェルトには苛立ちすら感じなかった。彼が感じ取ったのは王の風格。
この世を統べるに値する人間だと瞬時に感じ取ったからだ。
「そうだな。
失礼をした余を赦せ。貴様も存分にもてなそう」
「ふん、なにぶん余興の一つや二つ見れるかと思ったが。随分と拍子抜けだな」
その言葉を聞くと、レヴェルトは魔術王に高らかと宣言する。
「余は神であり、王である。そしてその余が気にいる者はさほど多くはない。貴様は余が気にいる王の気風を持っている。ならばそれに敬意を表し、もてなすのが筋であろう」
「なるほどな。どうやら、我が見るに値する王のようだ。
ここはくだらん王が多いからな。ついぞここの者もそうなのだろうと思ったが、我の偏見であったようだ。赦すがいい」
「良い。赦す」
会話をしている中、先程までガナルゼラシュは眉間に皴を作り、こちらを睨んでいたが、今はその顔は柔らかくなった。
「ふっ、それほどまでに荘厳な国を持っているのに、その己を貫く王気。
気に入った。グランドロスが選ぶ男のだけはある」
「おう!魔術王も気に入ったか。良い!それは良い事だ!」
そうして何事もなく終わりそうであった。だが、魔術王は先程の柔らかい顔を邪悪な笑みに変え、片手に持つ本から多くの魔杖を取り出した。
それは夜空に浮かび上がる星の如く、光り輝く魔力弾を浮かび上がらせた。
「確かに貴様の王としての在り方は認めよう。だがな光の王よ。
貴様が我が
「おいおい、魔術王。お前……」
あまりにも横暴な魔術王に、大地の王も止めようとするが、ガナルゼラシュはそれを睨みつけて言う。
「大地の王は邪魔をするでないぞ」
レヴェルトにはこうなることは分かっていた。
魔眼で心意を読み取り、その考えも分かっていたし、彼はレヴェルトと似ていた。
彼が自分と同じように高貴で暴君の顔を持ち合わせた王なのであれば、そうするであろう。自分もそうしたように。
「よかろう。余の力を見せてやろう。
だが、ここは民がおる。巻き込むの本意ではないが」
「安心しろ、場所は変えてやる」
すると魔術王は本から一本の魔杖を取り出し、地面に突き刺した。
青色の魔法陣がレヴェルト、グランドロス。そしてガナルゼラシュをどこかの湖に転移させた。
転移先は月が反射し、輝く水面が美しい場所。
ここで再び多くの魔杖がレヴェルトを囲むように展開した。その数は千を超えているであろう。
「ここならば文句はあるまい。さぁ、貴様の力を我に見せてみせよ」
それを聞くと、レヴェルトは嬉しそうに黒衣から金色の鎧を魔力で構築した。
「ハハッ、良かろう!貴様のいかなる魔術も余の光の前では無駄である。さぁ、来るがいい」
天上には空を金色に照らす船、地には多くの神獣ネメヤ。レヴェルトの持てる全ての戦力が集結した。
(この男には、余の全霊。この世界に来て初めての本気を出してやろう!)
今両者がぶつかる。
その様子をグランドロスは遠くから見つめていた。
「まったく、会った時から思っていたが、やはり似た者同士だな」
レヴェルトの戦力に、ガナルゼラシュも全身全霊をもって相手をする。
これは、この世界でもっとも激しい戦いとなるであろう。
そうなるはずだった──
「■■■■!■■■■■■■■■ゥ!!」
「な!」
「なに!」
「む!」
突如地上に広範囲の赤黒い泥が現れる。
そしてその中から、大きな角鎧の騎士が現れた。
黒いオーラによって覆われ、血脈模様が浮かび上がる姿。
咆哮を上げて、魔術王と大地の王。そしてレヴェルトに突進してきたのだ。
その突進力は大地が割れるほどに強力で、回避せねば死ぬと思うほどだった。
「我の楽しみを邪魔するか!蟲!!」
突如現れた乱入者により、戦いは中断され、レヴェルトとガナルゼラシュの怒りは角鎧の騎士に向けられた。
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