第275話~聖戦~
空気を、今までの流れを、全てを無に還す最強の王の登場に場が硬直する。
「いや、主は誰じゃ?」
『『『っ!?』』』
しかし全く意に返さないエフィーの言葉に周りの王達に動揺が走る。威圧感を全く感じさせない声のトーン、しかし明らかに感じる異質感。
それらを1番間近に受けつつも平然と問いかけるエフィーもまた、王を除いた8王の中で最強と呼び声の高い精霊王なのだと他の王も考えた。
『……はは、あははは。君はそういう人間だったね、精霊王エフィタルシュタイン。僕は王だよ。特に肩書きは無い、ただの王さ。君達と同じね』
『そうかの。で、王はどっちの味方なのじゃ?』
『ん? ……どういう状況かな、これは。ねぇ龍王』
明らかに異質な覇気を纏った王が中耳の人物と思わしき存在である龍王に問いかける。
『王よ……俺は精霊王と戦争を起こすことにした。問題はあるか?』
『……そう。結論から言えば、別に構わないよ』
少し怯えた様子だがはっきりと龍王が口にする。それを受けた王は少しの沈黙を経て、了承した。
『ただし……殺しちゃダメだ』
『『『っ!?』』』
王の言葉に皆が驚く。もちろん、精霊王エフィタルシュタインを除いてだが。
『あはは、可愛い君達がせっかくの命を散らすなんて勿体ないからね。今はちょっと忙しいからあまり構えないけど、王同士で殺し合いは禁止。これは絶対、良いね?』
『……はい』
出来るなら今目の前で。少なくともあわよくば、と思っていたであろう龍王の落胆ぶりは周りにも容易に理解できた。
『そんな顔しないでよ。ボクは誰にも死んでほしくないんだよ?』
『……』
『さて、精霊王エフィタルシュタイン。とりあえず命は助かったようだけど、ボクの方からもう一度だけ聞くよ。本当に、戦うつもりかい?』
「くどいのじゃ王とやらよ。我の意志は変わらん。異界に我らがこれ以上干渉することは許せん。理由は言えんがな」
『うん、君はそういう子だ。思った通りのね、うん、認めよう。……戦争だ。精霊族VS他の七種族。開始期限は3日後、それまでは接触禁止としよう。あぁいや、戦争じゃちょっと悲しいかな。うん、聖戦……長きに渡る君たちの小競り合いも一緒に終わるだろうから、聖戦としよう』
王がこの場にいる全員に宣言する。聖戦の幕開け、その宣誓を王が果たした。
***
『それで、精霊王様。どうするおつもりですか? 精霊を産み出せる力でも戻ったんですか?』
帰りと同じように魔黒龍ダノンヴルムに跨って精霊達の都に帰ってきた刻の大精霊ノアが精霊王エフィタルシュタインにそう尋ねる。
「力……? いや、無いのじゃ」
『では一体! 何故あのようなことを!?』
お互いの立場を忘れたかのように、ノアはエフィーに詰め寄る。精霊達のため、刻の大精霊としての力を失ってもなお大精霊としてあり続けたノアにとって、エフィーの選択は精霊や眷属達を危険な目に遭わせるだけのものだったからだ。
もちろん止めようとはした。しかしそんな隙を与えれば王と王代理だった自分との意思疎通、連携が取れていないと全員の前で露見する。
致命的な欠点を見せるぐらいならばと、ノアはエフィーが何かしらの策があることに淡い期待を託したのだった。しかし返ってきた言葉はまさかの『ない』。その事にノアは強い怒りを抱いた。
「守りたいものがある。ただそれだけじゃ」
『精霊王として精霊達を危険に晒す行為! それをしておいて、これ以上に守るべきものだと!? ふざけ……ないでください!』
「無論、できる限りの力は出すつもりじゃ」
『そうじゃありません! 何故このような暴挙に出たのか! その理由を聞いているのです!』
「王にも言うた。理由は言えん。ただ守りたいもののために我は戦う。そのために力を貸せ、ノア。精霊王として我はそなたに命令するのじゃ」
『ふざ──っ!』
『まぁまぁ落ち着きたまえノアくん』
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、ノアが本格的に怒りのボルテージが溜まった瞬間、狙い済ましたかのようにその言葉は放たれる。
『やぁ、ちょっと君に用があってね』
その声色に覚えはあった。だからこそ自身の言葉を遮り、その声の方向へ目を向ける。そこにはノアの脳裏に浮かんだ通りの人物、王が立っていた。
『王……何故、このような場所に、如何なさいましたか。あ、いえ、自分に? 用がある……との事ですが』
君に用があって、そうノアに向けられた言葉を一瞬だけ忘れるほどに彼は動揺を見せた。自分に用? 一体なんなんだろうか……そんな考えが頭を巡る。
『なぁに、ちょっとした余興の足しさ。手を出して』
『……?』
『ありがと。じゃあ、うん、OKだ。じゃあね、これからも頑張って』
王にいきなりそう命令をされたノアだが理はしない。素直に手を差し出すと王はそれを握り返し、そう呟くとまたすぐに手を離して一瞬でどこかへと消えてしまった。
『一体、何だったんだ……』
「さぁの」
『……ダメか。もしかしたら、力が戻っているかもと考えたんだが』
「そう都合よく事は進むまい。さて、時間は足りんのじゃ。ゆくぞ、護るべき者のために」
「……えぇ、守るべき物のために」
その通りなのだ。策は無い。その言葉にイラつくのわかる。しかしそれを言う暇があれば今後について対応する方がもっと重要なのだ。
理屈ではそうだが感情は上手くコントロールできない事が多い。そんな中、ノアは自分を押さえ込み、訳の分からない行動を取るエフィーの言葉に同調する。
何百年という長い年月の中で生まれた守るべきものへの執念が、そう理性を動かした。そして他の大精霊であるシルフ、ウンディーネ、ノーム、シェイドも含めた6人での話し合いが行われた。
より優れた眷属達の選別を行い、その者達と上位精霊が契約を結ぶ。精霊王の元、それらは即座に実施され強靭な戦闘力の持ち主が幾重にも誕生した。
上位精霊との契約者は、地球でいう世界最強の10人、S級の中のS級。EX級を冠する者達と同等の力を持つほどだ。そして大精霊達も、選りすぐりの者達と契約が行われた。
精霊は眷属と契約を果たすことで力を増す。そしてさらに上位精霊以上の格を持つ者にのみ許された精霊魔法の数々もそれを後押しする。
大精霊もその枠の中には当てはまっており、大精霊と契約した者の強さは他の種族の幹部クラスでは到底歯が立たず、王クラスでようやく倒せるかどうか、そんな強さを誇っていた。
唯一、シェイドだけは適合者が見つからなかったが、それでも王に匹敵する強さの大精霊契約者が3人。それに精霊王エフィーと大精霊本体と、格のある刻の大精霊の知略。
それらを引っさげて迎えた聖戦は激しい、とても激しいものとなった。だが簡潔に結果だけを書くならば、精霊族は聖戦に敗れたのだった。
9人の王〜F級探索者の俺、異世界の迷宮攻略中に仲間に裏切られ死にかけるがボス部屋に眠っていた元精霊王を名乗る銀髪幼女と契約し、元仲間へ復讐を果たしつつ契約した精霊たちの力を借りて最弱から最強へと至る〜 どこにでもいる小市民 @123456123456789789
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