274話~決裂、対立、そして途絶~
『我、精霊王エフィタルシュタインの名において、今ここに宣言しよう。決して異世界への侵攻は許さん。破る者は……全力を持って当たらせてもらう』
一瞬の静寂……。最初に動いたのは魔王だった。
『ノア……この幼女の、今の発言は本当?』
『えぇ。このようなバレ方は不本意ですが仕方ありません……新しく精霊王として生まれたエフィタルシュタイン様です』
『そんな馬鹿な! こんな都合の良いタイミングで王が現れるなどあってたま──』
『蟲王、黙れ』
龍王が場を静まらせる。エフィーが発した言葉で乱れた場の空気も、全てがリセットされた。
『お前が精霊王であること、そして生まれたことも全て分かっていた。だからこそ、呼び出したのだ』
「ほう? 我を知っていたと。一応秘匿されていた情報のはずじゃが……どうやって知ったのじゃ?」
『それは答える必要のない質問だ。それよりも……何故侵略を止める?』
「道理に反するからじゃ。我らの世界の問題を他の世界に押し付けるなど恥を知れ」
『道理で世界は救えん。俺達は王。この世界を救うために、異界には滅んでもらう』
「まだ救済できたはずの世界を、手を取り合わずに潰してきた末路じゃろ。元を正さねば根本的な解決にはならんのじゃ」
『今はその解決をするための時間が無い。引き伸ばすだけで良い……まずは異界を手に入れる事こそが重要なのだ』
エフィーの言葉に眉をひそめていくのは周りの王達だ。真実ではある、しかしそれを後から来ただけの奴に好き放題言われるのだ。しかもその意見を飲めば現状に戻るだけ。
龍王が発明したと思われる異界と繋がる門を開く技術。それがあればこの世界の不毛な土地は放棄できるし、新天地での豊かな生活も保証できる可能性は高い。
精霊王は強い。しかし同じぐらい強いとされている龍王は自分達と同じ側である事が起因して、エフィーの敵は多くなっていった。
『精霊王エフィタルシュタイン』
「なんじゃ獣王ゴルドギアス」
龍王と精霊王の会話に割り込みを入れたのはゴルドギアスだった。2人に既に面識がある事を知らない周りの王達は驚きを隠せない。
『……まだ現れたばかりのあんたには分からんかもだが、王なら自分達と同じ種族についても考えてやろうぜ。こちとら何年も戦い続きで疲弊してるんだ』
「……」
『獣王、今は俺と精霊王の会話の最中だぞ?』
『いや、悪いが言わせてもらうぜ龍王。俺はあんたほど強くねぇ。本格的な戦争になれば死ぬ。精霊王、始めるつもりか? 目の前に種族が助かる道が示されていながら戦争を?』
エフィーを諭すように、そして自らの境遇に同情を求めるように獣王はエフィーに話しかけた。そして龍王にはそこまでして精霊王と戦争をしたいのか? と脅しをかける。
「すまんな獣王。……我にも引けない理由ができたのじゃ」
『即答かよ。……一応聞くが、どんな理由だ? 多少の譲渡ぐらいは俺聞くぜ?』
「それもすまんのう。言えんのじゃ」
『おいおいマジかぁ?』
若干呆れの目を向けつつも獣王はどうにかしたいと考えている目をしていた。それは戦争が起きるのを阻止するためでもあるし、精霊王と仲良くなった繋がりを途切れさせたくないのもある。
『話にならんな。決を採ろうか』
例え打算があろうとも、獣王が精霊王を気にかけているのはこの場にいる誰もが分かった。その上で龍王は口を開き、こう提案をする。
ダンッッッッ!
『今ここで決めろ。この俺、龍王と精霊王のどちらに着くかを。異界への侵略を行うのか、行わないのか』
手で膝を叩き生まれた静寂。そして告げられる龍王からの言葉。怒っている……あの、龍王が、本気で。他の王ですらそう感じさせる気迫だった。
『決まってるじゃない。あんたに着くわよ』
その魔王の一言。
『もちろん俺も龍王に着くぞ!』
『蟲王に先を越されたのは痛いが同感だ』
『俺もだー』
次に蟲王、海王、巨人王が続く。
『……俺もだ』
そして不死王も龍王の側に着くことは決まる。この場にいる8人の王のうち、精霊王と龍王を除く6人の王のうち5人が龍王の側に着くことを了承した。
『貴様はどうなのだ? 獣王』
『…………』
そして残りの1人となった獣王に対して龍王は圧をかける。彼は一瞬だけエフィーの方に目を向けた後に小さく『すまん』と口ずさみ……。
『もちろんあんたに着くさ。俺は種族を助けたい。王として当然のことだ』
その場にいる全ての王がエフィーの敵となった。
『ねぇノア、そう言えばあんたはどうなの?』
『確かにそうだ。そこにいる何も分かっていない王より俺らの方に付かないか?』
『蟲王、少しでも被害減らそうと必死すぎ』
『うるさい!』
魔王から大精霊ノアへの問いかけに蟲王が呼応する。海王が茶化すが、それだけノアの力もまた計り知れなかったのだ。
しかし実情として刻の大精霊としての力は失われている。残っているのは最強の大精霊、その格だけであった。それは他の王も知らないが。
『俺は精霊だ。精霊王に付き従うのは当然でしょう? 悪いですが却下します』
「っ! よく言ったのじゃノア!」
『はっ……ならば、今ここで2人とも死──』
『やぁやぁ、ボク抜きで随分と楽しそうな催しをしているじゃないか……誰の発案だい?』
ノアの忠誠心。エフィーの喜び。そして龍王からの無慈悲な殺害宣言。それら全てを無に帰すある王の言葉。
『……お、王』
他の8人の王の誰かがそう呟いた。目の前に突如として現れたのは、原初にして最初の王。使徒を束ねる最強の【王】だった。
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