六話 豪雨、足止め。
「あの、ラディーニさんってインド映画の俳優なんですよね? やっぱり踊ったりできるんですか?」
「ああ、もちろん」
中継地点の国に向かう森の中で発せられた宮木の問いかけに、ラディーニは乗り気ではなかったが、彼女の期待の眼差しに負けて実際にその場で軽く踊ってみせる。
「凄いです! カッコイイなあ……」
「クソ、俺も踊れりゃあなあ……」
山本がそう呟いて天を仰ぐと、その額にポツリ、と水滴が落ちてくる。
「雨でござる! 早く雨のしのげるところまで行かなければ拙者達ずぶ濡れですぞ!」
その言葉を最後に会話を交えた和やかな移動は終わりを迎え、四人全員で全速前進を始めた。
「どっかないのか!? ちょうど雨宿りできる洞穴とかさ!」
頭に降り注ぐ雨を手で遮りながら山本がそう言った途端、ラディーニの視界端に風もないのに白くなびく羽衣が見える。
「こっちだ!」
そう言うと自然とラディーニが先頭になって木々の間を駆けていく。
天女の導きの先には、まるで神がこうなることを知っていたかのように岩壁の側面に洞窟の入り口が用意されていた。
「いやー、結構濡れたな! 宮木、俺が何か燃やせるもの拾ってくるから火起こしてくれるか?」
洞窟の中で雨粒をはらいながら山本が宮木に頼む。
「分かりました。お安い御用です」
彼女が自信たっぷりにそう言ってフンスと鼻を鳴らすのを聞いて洞窟の奥へと進もうとする山本の腕をラディーニが掴んだ。
「ラディーニさん? どうかしたのか」
ラディーニは人差し指を立てて唇にあてると、足元の地面を指さして小声で伝える。
「何かの足跡がある。それも一匹じゃない、複数間違いなくこの奥に潜んでる」
それを聞いた山本の表情が一気に凍り付く。
「野生動物……ですかね」
「だといいんだが、今さっきの会話が聞こえていたはずだろ? それで身動き一つ取らないのなら……」
「死んでいるか、知性があってこちらの出方を窺っている……?」
山本の発言で他の二人の空気も一気にひりつく。
「山本氏、獄炎火で洞窟の奥まで一気に焼けないでござるか?」
「それは危険すぎる。獄炎火はマナの宿った生き物に一度火が燃え移ると死ぬまで消えない火なんだぞ? お前たちに万が一燃え移ったら大変だ」
「宮木が普通の火を起こせるんだったな? なら最初は俺が攻撃しよう」
そうラディーニが言うと、背中から弓と矢を取り出した。
「宮木の火で一瞬明るくなって見えた相手を俺が『複数射』の特殊技能で最大で二体まとめて倒す」
「そしたら『鋼鉄体』の特殊技能を持つ俺が前に出るよ。だからラディーニさんは一射目が終わったらサーベルに持ち替えて少し下がってくれ。俺が殺し損ねた奴を三人で倒す、こんな作戦でいいか?」
その問いかけに宮木とラディーニは同意したが、滝は少し疑問を持ったような顔つきをしていた。
「大体はその作戦でいいと思うでござるが、この洞窟……というよりも敵の巣がビーバーの巣みたいになってた場合困るのではないでござるか?」
「というと?」
ラディーニが問い返す。
「あ、なるほど。出入り口が別にあった場合、そこから出て背後に回り込まれる可能性があるってことですよね。確かに可能性はあると思います」
滝の考えに宮木が同意する。
「ですから拙者は背後を警戒するので拙者の後ろを三人に任せてもいいでござるか?」
不安そうな滝の目の前で、三人は黙って頷いた。
こうして姿見えぬ相手との作戦が始まる。
まずラディーニが矢を二本まとめてつがえると、前方に向かって構える。
その少し左後ろで宮木が特殊技能『詠唱破棄』を使って火球を作り出して前方へ放った。
生み出された火球が洞窟内を一瞬照らし、奥にいたゴブリンの群れを照らし出す。
その一瞬見えたゴブリンに向かって、ラディーニが特殊技能『複数射』によって二本同時に放った矢が飛んでいき、それぞれ二体の頭に突き刺さった。
「うおおおお!!」
ラディーニが矢を放ったのと同時に、正面へ山本が、背後に滝が移動する。
山本が正面から四体のゴブリンが突撃してきたうちの三体を迎え撃つが、それをすり抜けた一体が宮木の方へと迫り来る。
宮木はそのゴブリンに向かって電撃を放ち、痺れて動けなくなったところをラディーニがサーベルで切り殺した。
「よし、山本に加勢しよう」
ラディーニの提案に宮木が頷くと、同士討ちがないように防護魔法をラディーニにかける。
ラディーニはゴブリン達に掴みかかられていた山本に近づくと、足に掴みかかっていたゴブリンの頭を切り飛ばした。
「ラディーニさん! 助かります」
山本はお礼を言いながら背中に乗っていたゴブリンを引きはがして胸に剣を突き立てた。
「これで全部だといいでござるけどなあ……」
入口の方を見張っていた滝が視線を切ってこちらに振り向く。
「中の安全を確保したら雨の勢いが収まるまでここで待つか」
「そうだな」
ラディーニも山本の意見に同意する。
入り口から見える激しい雨が降り注ぐ外を背景に、四人は昼食を摂っていた。
「へー、ラディーニ氏は宗教上の理由で肉を食べないんでござるか、結構料理選びが大変そうでござるなあ」
滝が山本の作ったスープを飲みながらラディーニに語り掛ける。
「日本人はそう言う点では楽ですよね。どこへ行っても食べられないものはあっても食べちゃいけないものはありませんから」
「だな」
宮木の発言にそう山本が同意した。
「じゃ、カミングアウトするけど俺占い師で宮木を占ったら黒、人狼だったぜ」
「ええっ、わ、私占い師だったんですけど……」
「ま、ワンナイト人狼じゃあ言われた側はそう言うしかないよな」
「ラディーニさん。信じちゃだめですよ! 私が本物の占い師ですから!」
「はいはい、時間でござるよ~。各自投票する人を指さすでござる!」
ゲームマスターの滝がそう言って議論を締め切る。
外の雨は、未だやむ気配を見せない。
インド映画撮影中に象にはねられ、気がつくと異世界にいた。 朝活四時 @maverick_arclight
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