くっころさんの盗賊食べ歩記

はらくろ

第1話

 そこは城下から馬車で二日ほど離れた廃墟。

 戦時中に離反し、処刑されたと言われている下級貴族が住んでいた館跡。

 人が住んでいないはずの場所に、薄っすらと明かりが漏れていた。

 庭のあったであろう場所は背丈の短い雑草が生えているが、人が踏みしめたと思われる多数の軌跡の部分だけ、地面が見え隠れしている。

 それはどれも新しく、確かな生活感が感じられる。

 館の正面入り口は朽ち果てて人が入れる状態ではない。

 足跡は裏へと続いている。

 かつて使用人が使っていたであろう勝手口のような出入り口がある。

 そこを入っていくと、女性の声と複数の男性の声が聞こえてくる。

 言い争いのようにも聞こえるが、そうではないようにも。

 蝋燭のような、篝火のような火に照らされて何かの影が揺れている。


 そこには女性が地に押し倒されている。

 両腕を二人の男に押さえつけられ、もう一人の男が上から見下ろしていた。

 見張りに立っていたはずの男も女性の姿にくぎ付けになっている。

 綺麗な脚が見える。

 靴は履いているように見えるが、スカートのような布の切れ端が傍らに引き千切られでもしたかのように捨て置かれている。

 女性の下半身は、靴だけで、下着が丸見えだった。

 上着も胸元から引き裂かれており、胸元が周りの男の視線を集めている。

 そう、今まさに、一人の女性が毒牙にかからんとしていた。


 その女性は金髪、ポニーテールの耳の長い気の強そうなエルフだった。

 怯える表情の彼女を取り囲む、屈強な体躯をした盗賊たち。

 今襲いかからんと両脚の間に無理やり分け入ろうとするのは、盗賊の頭目だろうか。

「その強気な顔が恐怖に歪むのが堪らねぇな」

「お頭、俺もう、我慢できませんぜ」

「急くなよ、俺が味見をしたらあとは好きなようにするがいいさ」

 頭目と思われる男はショーツの右わきをナイフで切った。

 左側に少し寄った布切れで辛うじて隠されているその部分。

「やめ、て。私、まだ……」

「なんだ、生娘かよ。こりゃ拾いもんだな。喜べ、俺が女にしてやるからな」

 汚れた手で揉みしだかれる豊満な胸。

 切れ長な美しい目元に、涙が一滴流れ落ちる。

 彼女は何もかも諦めたような表情になり、横を向いて目を瞑った。


「くっ、殺せ……」


「そんな勿体ないことができるわけねぇ。エルフなんてなかなか喰えるもんじゃないからな。それも生娘ときたもんだ。こんなこたぁ早々ねぇ、楽しませてもらうぜ」

 頭目は布切れと化していたショーツの左側もナイフで切る。

「お頭、俺、もう」

「くっ……」

 引き裂かれた服から露になった豊満な胸に目を奪われているのか。

 彼女の口角がやや吊り上がり、唇を舌でぺろりと舐めたのには気付いていなかっただろう――。


「これ、今回の獲物。確認して」

 馬車の荷台を冒険者ギルドの職員が確認する。

「いや、いつも見事な手際ですね。全員やつれてる感じで、ちょっと不憫にも思えますが。やはり食べていくのに困って盗賊になってしまうんでしょうかね……」

 盗賊たちと頭目は傷一つなく後ろ手に縛られ、転がされていた。

 皆げっそりとやせ細り、さっきまでの太々しさは見る影もない。

 先だっての戦争のあと、盗賊に落ちる兵士が沢山いた。

 それを専門に狩る、冒険者がこの女性。

「報酬、ちょうだい。疲れたから、もう帰りたいの」

 頭に被るフードをぱさりと脱ぐ女性。

 その女性の漆黒の髪に、二本生えていた白く曲がった角。

 腰のあたりからは、長く伸びた漆黒の尻尾。

 いつにも増して、顔もつやつやしている。

「はい、少々お待ちくださいね。それにしても、こんなに美しいサキュバスの貴女がここまで強いとは誰も思いませんよね」

「それは、関係ない。結果が全て、でしょ?」

「はい、ローゼさんこちらが今回の報酬です。登録証もお返ししますね」

 登録証にある名前は、ローゼ・クッコレスト。

「ありがと。じゃ、情報入ったらおしえて」

「わかりましたローゼさん、お疲れさまでした」


 数日後、ローゼはまた廃墟となった屋敷にいた。

「ほんと、罪悪感なく吸い尽くせるから、この商売やめられないわ」

 エルフの風貌からサキュバスのそれに戻っていく。

 死屍累々と言わんばかりにカサカサになるまで吸い尽くされた男たち。

 もちろん、盗賊だ。

「暫くは困ることはないわね。盗賊たちってそんなに心折れそうな女性騎士やエルフが好きなのかしらね……」

 TPOに合わせて、騎士の姿やエルフに見た目を変えては盗賊の住み家に単身突撃していく。

 ギリギリのせめぎ合いを演じて、掴まってしまう、ふりをする。

 最後には盗賊たちの精気を吸いまくって、捕まえて冒険者ギルドへ連れていく。

 実は剣の腕前も、魔法の技能もそこらの盗賊では歯が立たない程ローゼは強いのだ。

 だからギリギリやられてしまう演出ができるということ。

 これが彼女の日常だった。


 ぺろりと出した舌に気付かない盗賊たちがいる限り、生活に、食事に困ることはないだろう。

 今日も盗賊の住み家にツッコミを入れて、美味しく頂く彼女。

「くっ、殺せ……」

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