宣誓

 ──なに?


「何の声だ!?」


 私と治さんは黒煙に覆われた空を見る。遥か遠い天上の彼方で誰かが声を発している。


「これは只事じゃない!真由梨ちゃん逃げるんだ!」


 治さんの叫びに、私はゆっくりと首を振る。


 私は決心を変えない。


 世界があと五分なら、それでもいい。


「治さん……」





 彼女の眼には力強い決意が浮かんでいた。


 世界が滅ぼうとしているのに、彼女の目には絶望が映っていなかった。


 真っ直ぐに俺を見る彼女の瞳に吸い込まれるように、俺は急速に彼女に惹かれていった。


 俺も最後の時まで、彼女と過ごしたい。


「真由梨さん」





『ちゃん』から『さん』に変わった。


 こんな時なのに、治さんの心の変化を嬉しいと感じた。


 私を認めてくれたの。


 もっと早くに、あなたに逢いたかった。


「治さん」


「富士を見に行こう」


 おだやかな笑顔で、治さんが言う。


「本当に?」


「ああ。俺のバイクに乗ってさ」


「嬉しい」


 こんな時まで、あなたは慈しみに溢れている。


「生き残って、きっと一緒に富士を見よう」


 私も笑顔で頷く。


 あなたのために私も精一杯生きたい。


「うん、あなたと一緒に見たい。──だから生きて。これからあなたのことをたくさん教えて。私にあなたを支えさせて」


「ああ、一緒にいよう。真由梨」




 どこかで鐘が鳴っている。


 誰が、鳴らしているのだろう。


 破滅の轟きを背に祝福の響きが注がれ、私達は宣誓する。




「治さん。地球が消滅しても、私はあなたと終生添い遂げることを、──」




「真由梨。地球が消滅しても、俺は君と終生添い遂げることを、──」





「「──誓います」」


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あの鐘を鳴らすのはだれ 東原そら @higashihara_sora

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