Fuzzy navel
杏野 凜華(あんの りんか)
振袖とスーツとファジーネーブル。
成人式後の、同窓会の帰り。
真冬のホームはとても冷える。突き刺すような寒さに思わず腕をさすっていると、クスッとした笑い声と共に背後からふわっとマフラーが。驚いて振り返ると、同級生が微笑んで私を見ている。
「えっ……ありがとう!? でも、借りるの悪いよ。あなただって寒いのに」
「俺はいいの、大丈夫。それより、君の方が寒そうだから。使って?」
そうは言っても、この寒空の下。人の物を借りて自分だけ寒さを凌ぐのは、なんだか申し訳ない。
そうやってモジモジしている間にも、彼は私の首元を優しく整えてくれている。えっと、どこ向いてたら良いんだろう。
「それに、これはちょっとした作戦」
「作戦?」
「そ。今日これ貸しておけば、今度2人で会う口実ができるじゃん」
「え」
「あ、電車来た。じゃあまた。気をつけて帰れよー!」
慌ただしく反対方向の電車に乗って去っていってしまった。
……どうしよう。これ。
「良い匂い、する……」
ほのかに香るホワイトムスクに顔を埋めて家路に着いた。
頬が熱いのは、さっき飲んだお酒のせい。だと思いたい。
Fuzzy navel 杏野 凜華(あんの りんか) @azuazu3dayo
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