第4話 入部しました

怜於兄れおにぃ、どこ行くんすか?」


「その怜於兄ぃってのやめてくれない? 恥ずかしいんだけど」


「いいじゃないっすか、俺とあにぃの仲なんすから」


 ヤンキーって何でこう距離感がつかめないんだろう。

 さっきまで殺そうとしてたんじゃないのか?


「ま、いいや。とりあえず魔ロケットボール部の部室教えてよ」


 正吉しょうきちは俺の目をじっと見つめ、言った。


「魔ロケットボールやりたいんすか、怜於兄ぃは。残念ですが、魔ロケットボール部はありません」


「は?なわけないじゃん。だって、れいさんが顧問やってんでしょ?」


 正吉はなぜかびくりと震え、俺の耳元でささやいた。


「怜於兄ぃ、ひょっとして怜於兄ぃって鹿子沢かのこざわ先生のお知り合いなんすか?」


「うん、ああ。推薦してもらったしね」


 推薦をもらう条件の一つが、伶さんが顧問をしている魔ロケットボール部への入部だったとはさすがに言いづらかった。


「そうなんすか。なるほどぉ。あの、鹿子沢先生のことはよくお知りで?」


「いや、それほどは、かな。会ったのも1回だけだし」


 正吉は何度もうなずき、ささやいた。


「うんうん、分かりました。悪いことは言いません、鹿子沢先生にはこれ以上近づかないほうがいいと思います」


「え? 何で? 何かあったの?」


「ここだけの話っすけど、あの人、悪い噂があるんすよ。ていうか、悪い噂しかないっていうか」


 俺は素直に驚いた。

 底辺高校の中で評判が悪い先生って、最低じゃないか。


「あんな若い女の先生がこの底辺校にいるって不思議じゃないすか? そんな先生入ったら、柄悪い生徒の恰好の的になるじゃないですか。それが、あの先生の場合、逆に生徒が辞めちゃうんすよ。俺の前にクラスしめてた奴も、先生にちょっかい出そうと思って魔ロケットボール部に入ったら、翌日辞めましたからね、学校。そんな訳で、魔ロケットボール部の部員は現在0。実質廃部状態なんすよ」


 ほほう。

 まあよく分からないけど、伶さんかわいいからな。

 巨乳だし。


「とにかく魔ロケットボール部の部室に連れてってよ」


 グランドの隅にある部室棟は、意外に瀟洒なつくりで、活気があった。

 そういや、この学校、いろいろ助成金とかもらってんだっけ。


「あ、魔ロケットボール部の部室はあっちっす」


 ただのプレハブ。

 それ以上でも、それ以下でもない。


「あ、怜於くーーん。早速部員連れてきてくれたんだぁ」


 伶さんが手を振りながら駆け寄ってきた。

 

「あ、俺、入るつもりはないっすから」


「そんなこと言わずに、さ。君も一緒に、甲東園目指そうよ!」


 そう言われ、正吉はあからさまに不審な顔をしている。

 それもそうだ。

 全国の魔ロケットボーラーの憧れ、甲東園に出場するなんて、普通に考えてできるわけがない。

 甲東園出場の常連校ともなれば、メンバーはほとんどプロ級。

 将来の年俸数億円はかたい連中ぞろいなのだから。


「とりあえず、入部届、出してもらおっか」


 おお、強引だなあ。

 伶さんは嫌がる正吉の背中を押し、部室に押し込んだ。

 これって、パワハラでは? いや、アカハラか?


「ちょっと、そこあけてもらっていいかな? この子たちも入りたいって」


 伶さんの声に振り向いたのは、あの娘だった。

 朝、俺の目の前をさわやかにパンツ見せながら飛び去ったあの娘。


「あ、沼田くん」


 沼田っていうのか、正吉。


高草木たかくさき。お前、魔ロケットボール部に入んのかよ」


「入るけど……」


「相変わらず陰キャ極まってんな。先生、入ってもいいけどさ、試合できんの? だって、部員って確か今誰もいないんじゃなかったっけ? あ、高草木が入るって言ってっから、今一人か。試合に必要なメンバー5人も集まってないじゃん」


 確かに。

 俺もこんな状態だとはまったく思っていなかった。

 大体、隣の立派な部室棟に入れてもらっていないところからして、この部活、だいじょうぶなんだろうか?


「うん、試合できるよ。最高のメンバーも集まるし。ねっ! 怜於くん!!」


 は? 俺?


「えっ? 俺がやるの? メンバー集めを? 今日転入してきたばっかなのに?」


「そうそう! 君ならできる! だって、史上最高の魔力の持ち主なんだもの」


「マジすか!? マジで史上最高の魔力の持ち主なんすか!? 怜於兄ぃ、マジ最高っす! やっぱ俺に勝つだけのことはある。ガチリスペクトっす」


 正吉が目を輝かせながら賛辞を浴びせかけてきた。

 こんな男にでもリスペクトされると、悪い気はしないもんだ。


「じゃ、あれっすね。明日までに俺、スカウトする奴リストアップしてきますから! 甲東園出ましょうよ!! ていうか、やっちゃいましょう、全国制覇!」


 気づくと、正吉の右手が俺の左手を、左手が高草木の右手を握っていた。


「よっし、目指すぜ、甲東園!! 行こうぜ、甲東園!!」


 いやいや、何そのテンション。

 ついてけないっすよ、正直。

 そうだ、高草木は?

 横目で高草木の様子をうかがうと、思わず目が合った。

 そして、その目は熱く燃えていた。

 マジで?

 みんな、ほんとに甲東園行きたいの?

 ちょっと何ていうかみんな、来る学校、間違えてないっすか?

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底辺魔法使いの下剋上 〜高校退学になったけどお姉さんが降ってきて美少女と戦うはめになっちゃったんです~ さらや @kenta-ta

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