異世界勇太は飛ばされたい

ロリアンぬ

異世界勇太は飛ばされたい





「勇太、カラオケ行こうぜ」


「あー俺今日ちょっと忙しくて・・・」


「そっか、じゃあ明日は?」


「明日もキツイな」


「何だよ付き合いわりーなあ、また今度誘うわ」


「ああ悪いな、また今度」






よしっ、やっと帰れる!


しつこく誘って来る友人をあしらいながら俺はそう思っていた。






◇ ◇ ◇






俺は異世界 勇太 18歳。趣味はゲームと読書のごく普通の高校生だ。正直、自分のことはあんまり嫌いじゃない。顔は決してイケメンでは無いが充分見れる顔だし、勉強も赤点は取ったことがない。友達も、休み時間寝たふりしたり体育の授業で余ったりしない程度には居るつもりだ。




だが、自分に気に入らないことが一つだけある。それはごく普通なことだ。俺の人生は今までいたって平凡で面白いくらい何も起こらない。


女の子を庇ってトラックに跳ねられそのまま異世界に転生したり、1人で歩いてたらいきなり異世界に勇者として召喚されたり、何気なく日々を過ごしてたらいきなり勇者だった前世の記憶を思い出したり。そういった人の一生の中で必要不可欠な人生のスパイスが俺には全くないのだ。隣町に住んでるよっちゃんの親戚が先月消えちゃったらしいしこの前は隣の家の田中さんの家のインコがいなくなっちゃったんだって。いいなぁ、俺も早くそっちに行きたいよ。



だからこそ、貴重な放課後を友達と遊ぶなんて無駄な時間には使えない!友達とカラオケ行ってる暇があったらゲームの世界に呼び出されるために家に帰って壮大な世界観のオンラインゲームやらなきゃいけないし、カクヨムで異世界召喚された時の勉強もしなきゃいけない。


あとアレだよアレ、大勢でいると俺が勇者に選ばれる可能性減るじゃん。別に弱い職業からの成り上がり系でも良いんだけどさ。人数増えるとモブになる確率も増えるからね、だからあんまり帰り道は人といたくない。






◇ ◇ ◇






そんな事考えながら校門を出ると明らかに酔っ払ったおっちゃんがトラックに乗り込んで行くので一応警察に電話しとく。


え?心配性だって?ばっかお前この辺公園いっぱいあって危ないんだぞ、ほら今だって公園でボール遊びしてる女の子いるし。お、あっちは悪ガキ3人組が木登りしてる。あいつらいっつも人にイタズラばっかするんだよなぁ、ほらまた砂場のお城壊した。あーあ、おままごとしてた子が泣いてるよ。




と、ここで違和感を感じ下を向くと道路に結構な大きさの落し穴が空いていた。またあいつらか、悪ガキ共め。慎重に迂回しながら進んで行く。よくこんなデカイ落し穴作ったよなあいつら。しかもアスファルトに。つーか底が見えなかったぞ、何なら周りの物とか吸い込まれてるきがするんだけど。ブラックホールかよ。悪ガキどもめ、今度会ったらゲンコツお見舞いしちゃる。






◇ ◇ ◇






悪ガキ共が作った落し穴を5.6個回避するとようやく家に到着した。


いや〜大変だった。最後のほうなんて落し穴のくせに空中に浮いてたからね。というか明らかにそこら辺の葉っぱとか吸い込まれていったからね。あれかな?この落し穴が余りにも深すぎて気圧の違いで風が吹いたとかかな?どんだけ深いんだよ、それをくぐり抜けるために四つん這いで移動する俺(高校生)。めちゃくちゃ恥ずかしかったからな!通りすがりのおばちゃんには変な目で見られるし。


「おばさん、そこに落し穴空いてるから危ないですよ」


って教えてあげてもこいつ何言ってるんだみたいな顔で逃げてくし。やっぱりおばさん呼びがダメだったのかな。というかおばちゃんあんな近いとこ通ってよく吸い込まれなかったな。


さらにはあいつら道路の真ん中にこんな大きな落書きまでしやがって・・・。なんだこれ、めっちゃ上手いな!円がたくさんあって周りにはよくわからない文字が書いてある。もうこんなのアーティストじゃん!バスキアの再来じゃん!しかもちょっと光ってるし。どんなペンで書いたんだろ・・・





家に帰って最初にするのは日課の読書だ。物語はいろんなことを教えてくれる。例えば「ニート転生」は上手なハーレムの作り方を教えてくれるし「一般職で異世界最強」では様々な属性の女の子をハーレムに入れる方法を教えてくれる。おいおいそんなドン引きするなって。実際せっかく異世界に行けてもこれを失敗してヤンデレDEADENDなんて笑えないからね本当。ハーレムを制した者が異世界を制すと言っても過言ではない!そう、ハーレムこそが正義!ハーレムに勝るものなど何もな「勇太〜、ご飯よ〜」






◇ ◇ ◇






夕飯を食べて歯を磨いて風呂入ったらいよいよゲームの時間だ。いつもやってるのは大作RPGのオンラインゲームだ。やっぱりみんながやってて攻略情報とかも充実してるやつじゃないとね、過疎ゲーやってて召喚されてクリア出来なくていつの間にか詰んでましたなんて目も当てられない。




よし、今日は無難にレベル上げでもするか。うへえ、こいつら経験値しょっぱいなあ。まあいいやまったりやるか。ふわああぁ眠くなってきた。寝落ちしそうだ。あれ?だんだん画面がグルグル回って・・・中に引き込まれ・・・あ!まだトイレ行ってない!危ない危ない、夜中にトイレで起きたら次の日寝坊しちゃうからな。うん、もういい時間だしトイレ行ったら寝るか。起きたら知らない天井だったりしないかな、おやすみなさい。






◇ ◇ ◇






ユサユサ




何だよ人が寝てるのに。




ユサユサ「ちょ.........きなさ......よ!」




あ?ああ、もしかしてまたあの夢か?




ユサユサ「ちょっと起きなさいよ!」




「何だ、またいつもの夢か。ふわぁああ」


「夢じゃないわよ!今日こそ一緒に私たちの世界で魔族と戦って貰うわよ!」




こいつはティア。最近俺の夢によく出てくる奴で自称天使だ。




「さあ勇太!このステッキを手に取って!私たちの世界、エターナルサンクチュアリへ行きましょう!」


「やだ。だって俺は異世界に召喚された時の為にまだ色々勉強しなきゃいけないことがあるんだよ。お前と遊んでる暇はないの。」


「だから今がその時って言ってるでしょ!何でわかってくれないの!?」


「だってこれ夢だろ?夢で異世界行ったせいで現実で行けなくなったらどうすんだよ。ただでさえ俺の人生何もないんだからこれ以上可能性を奪わないでくれよ。」


「だから夢じゃないわよ!いいから来て!」


「やだ」


「来て!」


「やだ」


「来て!」


「やだ」


「ううぅ、...勇太のバカぁーーーー!」




そう言ってティアはいつものように窓を突き破って出て行った。あーあ、破片がこんなとこまで飛んでるよ危ねえだろ、まぁ夢だからいいか。じゃあ寝るか。もう夢だけど・・・






◇ ◇ ◇






・・・ん、もう朝か。ふわあ、最近ちょっと寝不足だなあ。ちゃんと寝てる筈なのに。あ!また窓割れてる。マジかよ〜怒られるの俺なんだけど〜。そろそろ警察に相談した方がいいのかな本当に。




「頂きまーす」




朝食はいつも1人だ。両親は国家能力研究所?とかいう所で働いてるので朝は早い。そのぶん夜も早く帰らさせて貰えてる様なのでトントンかなぁ。何を研究してるのかは知らん。なんか人類の役に立つことらしいけど具体的な所になると必ずはぐらかされる。まあ、みんなの役に立つならきっといい仕事だよね!




そんなわけでチンしたご飯とインスタントのお味噌汁、それと納豆の簡単な朝ごはんを食べ終わったら支度をして学校へ行く。悪ガキ共の落し穴を避けて、学校に着くと他に誰も来てないことを確認しすかさず教室へ。そして教室の四隅の机の下を見ると...やっぱりあった!そこには変な模様がはっきりと白いチョークで描かれていた。




半年前くらいに偶然見つけてから、どうやら毎晩これを書いてる奴がいるらしく毎朝消しても次の日には必ず描かれている。全く、困っちゃうね!俺が毎日消してるからいいものの、放っておいたら多分教室中この変な模様で埋め尽くされて授業どころじゃなくなっちゃうよ!そんなことになったらしっかり授業も受けられなくなって現代知識チートが出来なくなるので今朝もゴシゴシと雑巾で拭いていると他の生徒達も登校して来て、静かだった教室も段々騒がしくなっていく。




今日こそは異世界に行きたいなぁ。なんて思いながら今日もまた、異世界勇太のつまらない1日が始まる。

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