第8話

「おじいちゃん?」ヒカリさんも左右に目を配った。


 病弱なはずのエイコちゃんが背筋を伸ばして立ち上がり、痩せた背広姿の中年男性に姿を変えた。目元がヒカリさんと似ていた。

「坊や、エイコちゃんの自宅に電話してみなさい」

 彼女とは密かにネットでやり取りしていたので「こんにちは」と送信。間もなく「先生どうしたんですか?」と返事が来た。


「間抜けなことをしたものだ。お前が誘拐したのはドラキュラ伯爵、爆弾如きで私は死なないよ」


 中年男性がティム・マクベイに右手の自動拳銃─ヒカリさんが手にしているものと同じ型─の銃口を向け引き金を引いた。左胸に被弾した彼は仰向けに倒れ、しばらく悔しそうな面持ちで歯を食いしばっていたが諦めたような顔で絶命した。映画のように血だまりが出来るかと思えば出血が無かった。


「私を祖先に持つことを受け入れることが出来ないヴァンパイアもいる。そういった人間の葛藤を利用することは、私は好まない」


 憂いを浮かべた眼差しで中年男性は僕に語りかけた。


「ヒカリ」

「はいっ」中年男性の呼びかけに彼女は緊張もあらわに声を裏返して返事。


「テロの無い、平和な世界を目指しなさい」


 そう言い残した中年男性はティム・マクベイの亡骸を抱き上げ、滑り台の下をくぐり、視界から消えたと思ったら本当に消えた。


 そのさまを見送ったヒカリさんが口を開いた。

「純銀の弾丸の鋳造が出来るのはおじいちゃんだけなの」


 僕はヒカリさんからワクチンの注射をして貰った。不死感覚は消えたが、人間の血を飲みたくなる衝動はたまにある。でも心配は無い。   


 ヴァンパイア・ステイト関連の製薬会社が開発した人工血液をヒカリさんが分けてくれるから。今も2人で一緒に乾杯。やはり関連会社の広告代理店に就職する予定だ。もう卒業後の進路に悩むことは無いだろう。(了)

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Vampire State(略称VS)は繁栄している スリムあおみち @billyt3317

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