第7話

「オルゴールの鍵盤に銀が使われている高級品なんだ。エイコちゃんとのお近づきに何かプレゼントをするのが礼儀かと思ってね」

 僕の様子に気付いたティム・マクベイが嬉しそうに説明した。サディストの笑顔。黙っていると彼は話を続けた。


「その様子だとヒカリにキスされたな?」

「何故そこまでするんだ、あなたも死ぬじゃないか」

「今の君がエイコちゃんにキスしたとする。やはり一定時間ヴァンパイアになる。ワシントンD.C.の一部はその連鎖で一時期パニックになった。ワクチンを投与しても後遺症に悩まされるケースもあるんだ」


 そうか、後遺症が出る可能性もあるのかと愕然。ヒカリさんも自分達に都合の悪いことは省いて説明したのだ。


「ピザ配達員に成りすましたヴァンパイア・ステイト構成員が商品に唾を吐いて顧客を一時期ヴァンパイアにしたこともあった。これも立派なテロなんだよ」


 僕を説得するように話しかけるティム・マクベイ。ヒカリさんはうつむき、唇をかみしめている。


「あれは、計画的な犯行ではなく、いたずら心で彼がしたことよ」

「そんな言い訳は通らない。ヴァンパイア・ステイト構成員及び協力者はこの世から削除すべきテロリストだ。さて渋谷ノビノリ君、あなたはそれでも彼女の味方をするのか?」


「エイコちゃん、ちょっとごめん」

 僕は彼女からオルゴールを取り上げ、左手に持ったままティム・マクベイの体に押し付けた。


「これを持って帰ってくれますか。彼女は僕の友達なんだ」

「ここで死ぬということを選んだな」

 ティム・マクベイは再び下卑た舌打ちをした。


「爆破スイッチは私の右ポケットの中にある。日本人の少女は巻き添えになるがヴァンパイアが2人この世から削除される」


 拳銃を持った右手をだらりと下げたヒカリさんが口を開いた。

「ひとつ質問。後遺症でなく、人間の血を飲みたいという衝動でもあるのかしら?」


「私は人間なんだ、お前らのような鬼畜とは違う」

 ティム・マクベイは反論するようにヒカリさんにまくし立てた。


「ならば、1人で死んだらどうかね」

 成人男性の声。誰の声かと見回した。

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