敵襲

「タカホと私が似てるって……どういうことですか?」


 紅茶に口をつけてから、雨虹は貴帆の目を見つめた。


「タカホ様は剣技もさることながら魔法や占術も学び、軍師や領主に必要な学問を余すことなく修めています。努力を重ねている姿を、私は傍でずっと見てきたのです。しかし我が主は……」


 その時、先頭の方でドカンという大きな爆発音がした。振動とともに手元の紅茶が揺れ、ティーカップが音を立てる。爆発音にナオボルトとレネッタは飛び起き、貴帆と雨虹は音の方を見る。


「失礼します」


 と言って彼は紅茶を置き、急いで機関室へと席を立った。残された貴帆達3人は不安げな表情で顔を見合わせる。すると後方の席から迷惑そうな声がした。


「何事じゃ」


 雨虹と入れ替わるようにイサラギは顔を覗かせると、貴帆のいる席へと近づいてきた。わかりません、と答えると、貴帆も紅茶を脇に置き、腰から外していた剣を握りしめる。


 すると機関室から刃物がぶつかり合う音が聞こえた。はっとして貴帆は立ち上がる。


「雨虹さんが機関室に……!」


「すぐ向かわねば。レネッタ嬢と若造はそこにおれ」


 イサラギと共に貴帆は機関室の扉を開いた。


 すると焦げ茶色のフードを深くかぶった男がナイフを振りかざしているところだった。その奥のフロントガラスは大きく割れていて、そこを爆破してから侵入したのだとわかる。雨虹はさっきの攻撃を受け止めた時の衝撃なのか、男を前に尻もちをついていた。


「雨虹さん、危ない!」


 貴帆は侵入者と雨虹の間に入り、ナイフを受け止めた。だが力が強く、そのナイフを押し返すので精一杯だ。反撃の隙もない。


「手を貸すぞ」


 イサラギの声が聞こえた次の瞬間、敵のナイフは木の枝になっていた。それを見た侵入者はフードの下で舌打ちをして木の枝を投げ捨てると、割れたフロントガラスから去ってしまった。


「あ、ありがとうございます……貴帆様、イサラギ様」


 雨虹はそう言って埃を払い立ち上がる。暗器を袖にしまい込むと、虚しく風が吹き込んでくるフロントガラスを何も言わず見つめた。


「誰の差し金でこんなことに……」


 貴帆が思わずそう零すと、イサラギが目を閉じ鼻をひくつかせた。


「この爆薬の匂い、独特じゃのう。ここウルイケ領のものではないな。とすると……」


 雨虹がイサラギの言いたいことを汲み取ったのか、言葉を継いだ。


「オズイーム領……でしょうか」


 イサラギは静かに頷く。ぽっかりと空いた穴から、生ぬるい風がふきこんできていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TRAIN RPG 紫松 まほろ @maho66

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ