10話.[いっぱい食べろ]

「いっぱい食べろ、大橋には世話になったからな」

「え、えー、そうですかね? それなら食べさせてもらいますけど」

「花も岬もだぞ、西山は……遠慮してくれ」

「「うん」」

「えー、そういうのはよくないと思うよ隆也くん!」


 西山のそれをスルーして横を見る。

 横には要がいるから後は要に任せておけばいい。

 想定外の出費に俺は突っ伏すことしかできなかった。

 ……西山はよくね? 要に払わせておこうぜ。

 まあ、みんなが食べ終えたら泣きながら会計を済ませて外へ。


「要くん、帰ろー」

「そうだね」

「わ、私も混ぜてください」

「おけおけ、どんどん来なさーい」


 自然と要西山大橋、岬花俺という形になった。


「お兄ちゃん、今日の家事は任せてもいい?」

「おう」

「あ、あと、ごめんね? 払ってもらっちゃって」

「いいんだよ」


 岬の頭を撫でて笑ってみせる。

 妹が変に遠慮するな、これまでこちらが甘えすぎてしまったんだからな。


「なでないでっ」

「悪い悪い」

「もう、隆也は見ておかないとすぐに浮気する」

「浮気できる人間がいないんだけどな」

「大丈夫だよ花、お兄ちゃんといてくれているのは要さんの彼女さんである瞳さんと、同じ学年に好きな人がいる文音さんだけなんだから」

「それって大丈夫って言えるの?」

「あ……はは、うん、大丈夫」


 浮気なんかしないよ。

 そんなことをしたら岬を傷つけることと同じだから。

 恋人ができようが、家族が大切なことには変わらない。


「花ばっかり優先しないで相手をしてよ?」

「するよ」

「岬ばっかり優先しないで相手をしてほしい」

「するよ、偏らせたりしないから安心してくれ」

「「それならいいよ」」


 許可を貰えたので少し笑っておいた。

 ふたりが言い争いをするようなことにならなくて本当によかったのだった。

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31作品目 Nora @rianora_

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