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結局、今日も雨だった。

 予報では明日も雨だ。

「なあ。いつまで雨なんだろうな」

 メガネ君が私に憂鬱そうに訊く。

「知らない」

「素っ気ないな」

 わざと素っ気なく答える。また彼は戻ってきてくれた。わかっていたけど、何か彼の中で変化があった気がする。変化というか元に戻ってくれた感じが正しいかもしれない。

「ねえ。そういえば、同じクラスの男の子だけど、昨日あのヤンキーに襲われたんだってよ」

 と情報を教えてくれたのは黄色い傘をさす森だった。

 まだ何も問題は解決していない。また私たちが襲われる可能性がある。

「今度、ヤンキーが襲ってきたら、誰か一人でもいいから気絶させたいんだけど」

 浜辺が何故か楽しそうに言った。頼もしい。私も他の二人も頷いたり、そうだよと同調する。

「なあ。みんなヤンキーに襲われるの怖くないの?嫌じゃないの?」

 彼が不思議そうに私たちに訊いてくる。

「そりゃあ。。。でも、いざとなったらメガネ君、助けてくれるでしょ?」

 森がウィンクをしてくる。それに対して彼は顔をわざと合わせないようにしてまあな。と答える。森はそれに照れたのかキャッキャと彼女は水たまりの上をじたばたしてはしゃぐ。

「止めてよ。水がかかるでしょ」

 浜辺が少し迷惑そうに森を見つめている。 

 襲われるのが怖くないと言ったらウソだ。

 メチャクチャ怖い。襲われた日は身体中の震えが止まらなくて眠れなかった。

 私は道の隅で足を止める。雨でぬれるアジサイを見つめる。

「どうしたんだ?」

 メガネ君が声をかけてくる。

「綺麗だよね」

「何が?」

「何がって、アジサイの葉っぱだよ。メガネ君さ、雨の日って好き? 嫌い?」

「え? 嫌いだけど」

「そう。私、雨の日って好きなんだよね」

「雨の日が?」

「日本には約1200種以上の雨に関する言葉があるんだって。昔の人もきっと、雨の日に思うことってたくさんあったんだと思うんだ」

 珍しくインテリじゃん。と後ろにいた土屋が茶化す。

「翠雨って知ってる? 翠雨っていうのはこういう葉っぱに雨が落ちる美しい水滴のことなんだって」

 この時、気づいてしまった。私が生きる意味。

 「これが見れるのは雨の日だけだよね。。だから、私、雨の日も好きなの。私ね、リンチは嫌だよ。でもそれがなかったらボクシングをすることもなかったし、メガネ君とも会うこともなかったと思うの」

「俺も黒島とは仲良くなれなかったよ」

「そう考えたら、リンチも何か悪くなかったって言ったらおかしいけど、なんて言うんだろ。。。」

 今ここで自分が言っている言葉はなにかに言わされている感覚だった。

 だから、言いながら私も私自身に気づかされたんだ。

 私たちは人生という物語を読んでいる。その小説を読んで体験して、泣いたり怒ったり笑ったりしているだけ。それだけ。でも、それがしたくて、無性にしたくなってここにいる。

「だから、、、、私たちにまたボクシング教えてよ!!」

 言葉にはできなかった。

 それはあの時と同じ。

 でも、それでいい。

 そしてメガネ君は急に傘を離してグッと私を抱きしめていた。

「あ! 黒島だけズルい!!」

 抱きしめる私と彼の周りに他の3人が集まる。

 雨は降り続いていた。

 止む気配もない。

 でも雨なんてへっちゃら。

 そうだ。彼の名前、今度はちゃんと聞かなくちゃ。



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Roots AKIRA @11821182ki

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