その3。(完結)

ヒロイン→メアリー

王子→デュライテッド

悪役令嬢→レーネ



************





「レーネ。君には失望した。いくらメアリーが聖女として【癒やしスキル】を持ってるからって、怪我をさせるなんて公爵家の令嬢として最低だぞ!メアリーは一昨日、レーネが突き落としたせいで足を骨折したんだ!貴族の身分で人に危害を加える者は公開処刑に値する」


「そんな………せめて公開はやめてあげましょう?」


「優しいなメアリー。足を固定して歩きづらい中よく来てくれた。治癒の力は相当体力を消耗するから、他の者を助けるために自分は後回しにしているんだろう?君に怪我を追わせたものをちゃんと処罰するのが私の役目だ」


「デュライテッド様………、とても素敵ですわ」




 イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ。







 うるっっっさいなーー。断罪なの?イチャイチャを見せられてるの?何なの????


 私はレーネだけどレーネじゃないっつーの。転生者だっつーの!




 気付いたら好きな乙ゲーに転生してたはいいものの、まさかの悪役令嬢よ?ありえる?処刑されるルートしか存在しないとか、このゲーム、レーネに厳しすぎるんだけど!


 だから私は善人になったのよ。ゲームだと犯罪まがいのことをするキャラクターだったから、そんなこと絶対にやらなかった。そのおかげで私はゲームとは違って結構周りから好かれていたの。次期国王のデュライテッドとはとても仲良くなり、結構ラブラブだった。




 そこに現れたのはあの子…………平民でありながら、100年に一度生まれる【癒やしスキル】を持つってことで学園へ編入してきた女の子。


 それがこのゲームのヒロイン。


 ヒロインはとてもいい子で頑張り屋さんだからこそみんなに好かれた。それがゲームの設定。




 だけど、彼女……メアリーは違った。


 転生してから初めて気づいたことだけど、彼女には元々ゲームでの設定である【癒やしスキル】の他に【魅了スキル】もあった。

 確実に転生者だと思わせるような言動が目立っていて、この世界にない地下鉄とかスマホとか平気で口にするんだもの。疑うというより確信したわよ。



 メアリーは本来のヒロインとは違い、早速攻略対象者たちに近づいて、その【魅了スキル】で完全にオトした。

 それを訝しげな目で見る令嬢や子息すら、彼女はそのスキルで操っていた。

 それは、私以外をすべて自分の手玉に取るように、少しずつ、少しずつ増やしていく。

 私の近くにいつもいてくれた幼馴染の公爵家令嬢も、最後のほうでメアリーのスキルに操られ、ついに私の味方がいなくなってしまった。あれだけ仲良く将来を誓ったデュライテッドですら、一番最初に彼女のスキルにオトされていた。


 その後メアリーは高級治療師として貴族に【癒やしスキル】を使い、病気や怪我を治していく。

 体力が消耗するから……とか言ってたけど、実際はデュライテッドに構ってもらうために診療時間を短くしている。その後のティータイムで診療時間より長い時間、楽しそうに過ごしていた。


 体力の消耗なんてしない。本来のヒロインなら、平民にも【癒やしスキル】を使ってあげるはずなのに………。









 私は何度もやっていないと反論するが、彼を含め、周りにいる者も【魅了スキル】がかかってるわけなので当然話など聞いてくれやしない。



 あ、ちなみに私が持っているスキルは【水攻撃スキル】ね。

 なんの役にも立たない。笑える。私は騎士でも魔物討伐隊でもないのにこんな攻撃スキル、どうすりゃいいんだっての。

 子供の頃に、どのくらいできるか試そうと力いっぱい水鉄砲打ったら、飛ばした先の1つの土地で大洪水を起こしてしまった。

 幸い人が住む土地ではなかったから人的被害はなかったけど、それ以来このスキルに何の意味も見い出せずに現在に至る。





 社交パーティーの最中、デュライテッドに支えられながらピッタリと寄り添うメアリーにイライラが募った。私と彼は相思相愛だったのに………。



 だけどその気持ちと同時に。




 今後もし、メアリーの魅了がとけてデュライテッドと私が結ばれ、王妃になったときに再びメアリーが現れてスキルを発動させたら……………。

 私はあらぬ罪を着せられ、再び処刑の道を歩かされるのだろうか。










 嫌だ!!最悪すぎる!!





 この社交パーティーでメアリの【魅了スキル】にかかっていないのは私だけだ。


 全てが敵。




「レーネ。君は明日処刑台に登ってもらう。護衛、捕えろ」

「「はっ!」」


 嘘でしょ?!ああもうだめだ。私は明日死ぬんだわ…………。









 ザーーーーーーーーーー。




 突然目の前に金色の雨のようなものが降る。いや、濡れていないから雨じゃない。

 これは、どこかで見たことがあるような………。






「どうやら間に合ったみたいだな」






 声がする方を振り向く。

 そこには、この国の王子よりも気品が高く、豪華な衣装をまとった男性がいた。



 あれは………もしかして。







「君がレーネ嬢か?」

「あ、はいそうです………」


 彼は私の方に近寄ってくると、力の抜けた護衛たちから腕を抜いた私に、手を貸して立ち上がらせてくれた。






「来てくださったのですね!」


 メアリーに操られていた幼馴染の公爵家令嬢がその男性の近くに駆け寄ってきた。どうやら元に戻ったらしい。



「良かった……信じておりましたわ……。レーネ様、申し訳ありません。意識が戻りました!今までのご無礼お許しください」

 幼馴染は私に頭を下げる。


「いいのよ……。ですが、そちらの方は?」



 彼はおそらく…………。


「大陸一の大帝国、ノア国王陛下です。私のはとこです」



 そうだ。この顔はゲームにいた。ゲームがアップデートされたあとは攻略対象者が倍になり、全員クリアするまでとても時間がかかった。そのうちの一人だった。

 若くして国王陛下に就き、すでに賢王として歴史に名を残すと言われている。


 でもそんな彼がなぜここに………。




「私が我を失う前に手紙を書いたのです。私の幼馴染であるレーネ様をどうか助けてほしい、と。ノア国王陛下は【浄化スキル】をお持ちでしたので、きっと助けられると………」

「思ってた以上に酷い状態だったな。わが国の者たちは私が国ごと【浄化スキル】をかけるから、【魅了スキル】は効かない」




 そうか、【浄化スキル】は【魅了スキル】も浄化してくれるんだ。この国に【浄化スキル】を持つ者がいなかったからわからなかった。

 そう気づいてあたりを見渡す。

 さっきのあの雨のようなものが降ったあとに護衛の手が緩んだのも理解ができるし、みんなザワザワとして、自分がなぜメアリーの味方をしていたのか、わけわからなくなっている。



 デュライテッドはと言えば………、メアリが腕に絡まっていることに気づいて払おうと必死になっている。そして私と目があった瞬間、大声で叫んだ。


「レーネ!すまなかった!私は自分の意思で動くことが出来なかった!!本当に申し訳ない!」

 私に向けるいつもの優しい顔に戻った彼を見て、ホッとする。


 しかし、頭を下げたデュライテッドの横で驚きの顔をするメアリー。




「ノア様!」

「っ!護衛!メアリーを捕えろ」

「えっ?デュライテッド様?何するの!」


 我を取り戻したデュライテッドはメアリーを拘束する。

「我が小国の人間、しかも平民が大陸一の大帝国の国王陛下を馴れ馴れしく呼べるわけがないだろ!不敬極まりない!!」

「だってノア様はそう呼んでいいって言うのよ!」

「そんなわけがないだろ!」



 メアリー、それはゲームの中の話よ。今ここにいる現実のノア国王陛下は、あなたに会ったことすらないんだから。




「この国に生まれた【聖女】は礼儀も品格もないなぁ」

 はははと笑うノア国王陛下に、私や幼馴染、壇上にいる王族やデュライテッドも頭を下げて謝罪する。


「ちょっと!みんな何をしてんのよ!あの女は私のことを突き落として怪我をさせたのよ!そんな女、断罪してよ!」


「じゃあなんで君は普通に立ってるの?」

「え?……あっ」


 護衛に取り押さえられているメアリーは、普通に立って、しかも両足で地団駄を踏んでいた。ノア国王陛下に指摘され、顔を青くする。


 やっぱり嘘だったんじゃん!なのに自分がデュライテッドを自分のものにしたいからって、私を犯人に仕立て上げるなんてありえない!



「まぁ、殿下の気を引きたいために怪我したふりをしてたってこと?」

「私、なんであんな娘の味方をしていたの?!最悪ですわ!」

「俺は家の立て直しであれだけレーネ様にお世話になったのに……俺はなんてひどいことを……あの平民、許さない!

 」


【魅了スキル】が解除されたあとは、その当時のことを思い出して口々にヒロインの悪口を言い始める令嬢や子息たち。


 今度は顔を真っ赤にして怒り狂うメアリー。


「こ、これは私が【癒やしスキル】で治したのよ!でもその女の罪を認めさせるためにあえてこうしてきたの!ノア様信じて!」

「その娘!口を閉じろ!」


 必死の言い訳をするメアリーに周りが呆れ、この国の陛下が声を荒げる。ノア国王陛下の国からしたら、この国など一握りで潰される。




 ノア国王陛下が、この国の陛下のもとへ歩みを進める。メアリーを通り過ぎるときに、鋭い目線を送った。彼女はビクリと体を跳ねる。

 10歳以上年上であるこの国の陛下に、ノア国王陛下は堂々とした態度で訪ねた。


「この国の陛下よ。平民が王族に無礼な態度をし、虚偽の発言をした場合はどうなる?」

「処刑に値します」

「ほう」




 何かを考え込むノア国王陛下。

 すると彼はたくさんの貴族がいる方へ体を向ける。





「皆の者。ここからは私に対する無礼な態度は見逃す。この出ていきたいものは出ていって構わない。何も罪に問わない。自由にしてくれ」



 そう大声で言い放つノア国王陛下。

 なんだろう、何か重大な発言でもするのだろうか。ホールにいる貴族たちも何がなんだかわかっていない。





 すると、突然。




 ノア国王陛下は短剣を取り出し、それをメアリーの腹に指した。


「痛っ!いやぁぁぁーーーー!!助けて!」

 メアリーは泣き叫ぶように倒れる。




 えっ?!ノア国王陛下?!一体何を!!


 ホールからは悲鳴が聞こえ、貴族たちが次々と外へ逃げていく。

 何がどうしてこんなことに?!

 私は思わずノア国王陛下へ駆け寄る。


「ノア国王陛下!なぜこのようなことを!」

「私はこの国の法に従って処罰をしただけだ」

 何事もなかったように平然とするノア国王陛下。皆に聞こえるような声の大きさで語りかける。



「さ、この国の聖女よ。君は自分の骨折した足を治したんだろ?君のその【癒やしスキル】でその傷も治してみせよ」


 ああそうか。

 こういう言い方は悪いと思うけど、刺されたとしても自分のスキルで治せばいいのか。それなら即死以外はいつでも治せるんだ。



「うっ………痛いっ、ノ……ア様………」


「どうした?君はレーネ嬢が突き落として骨折した足を自分で治したんだよね?早く治しなよ。あれ?もしかして、そもそも足は治してないんじゃない?元から骨折してなかった。レーネ嬢に、濡れ衣を着せたのかな?」

「ち、ちが……う……、私は悪くない………」


 メアリーは息も絶え絶えに、血が滴り落ちていく腹に刺さったナイフの周りを必死で触る。

 だけど………、彼女の【癒やしスキル】はいつまでたっても発動しない。


 なんで?どうして?普通に今まで使っていたじゃない!あの子、聖女よね??



「あ……………ノア……さ……」



 もう終わりを告げそうな彼女の近くにノア国王陛下が近づく。







 ゲームでは詳しく描かれていなかった事実を、ノア国王陛下はメアリーに告げる。





「ねぇ?自分の足を治したなんて嘘をつくからこうなるんだよ。知ってる?【癒やしスキル】って、自分にはかけられないんだよ」

「!!な…………」


 メアリーは驚いた表情のまま、力が抜け、その命を終えた。






 ◇◇◇◇◇◇◇


 馬車が国境を超え、大帝国に入る。


「にしても、まさか君がついてくるとは…………」






 正直なところ、メアリーがいなくなったので彼女の脅威はなくなったんだけど、なんとなくいるのが気まずくて悩んでいた。そこにノア国王陛下からお誘いをいただき、私は大陸一の大帝国に移ることになった。

 この大帝国では【水攻撃スキル】を持つ者が少ないらしく、私の幼馴染から手紙を受け取ったノア国王陛下は大帝国に連れて帰る気で助けに来てくれた。


 私のスキルがうまく扱えるようになれば、干ばつや日照りでの水不足に役立つんだってさ!毎年必ず水不足で悩むらしく、水属性のスキルを持つ者を探していたとのこと。


 領地として手つかずの土地があり、下位の爵位とその土地含め近隣の領地を与えてくれると言われ、やってきたのだが…………。





「レーネのことを愛しているのだから、このくらい問題ない」



 そう。私達がさっきまでずっと住んでいた小国の第一王子であるデュライテッドもついてきた。

 彼は一連の責任を取り、自ら王位継承権を第二王子に譲ったあと、王族を抜けて子爵の位を授かった。そしてなんと、私と共に行きたいと言い出したのだ。

 そしてこのように今、馬車に乗っている。



「デュライテッド様……、自分の立場を捨ててまでそんなにも私のことを愛していらっしゃったのですね」

 冗談ぽく言ってみるも、彼は真剣だった。

「私はもう王子と呼ばれる立場ではないんだ。昔のようにライと呼んでほしい。二人で領地経営をしてのんびり暮らそう」

「ライ様………」


「おい、国王の前でイチャつくのをやめろ」

「あ」

「申し訳ございません」


 一緒の馬車に乗ってるの忘れてた。




 年が少し上なだけなのに、威厳があるノア国王陛下。さっきとは違い、ただのお兄さんみたいな雰囲気を出していたのでつい気が抜けてしまった。



「本当はレーネ嬢を私の妻に迎えたかったんだが、余計なものまで持ってきてしまった。非常に残念だが、君たちが婚姻を結ぶまではいつでも奪われるという覚悟を持っていろよ?デュライテッド」


「彼女への気持ちは、ずっと幼い頃から変わっていませんので。あなた様が入るような隙間など無いですよ」


 ニッコリしながらも火花をバチバチぶつける二人。デュライテッドが王子ではない緩んだ笑顔を見るのは久しぶりだった。



 でも一個だけ確認したかった。



「ノア国王陛下。あの………、メアリーと同じように不敬な者が現れたら、……また処刑ですか?」

 流石に目の前で人が死ぬ、しかも殺されるのを見るのは初めてだった。その衝撃が大きすぎて、未だに鮮明に思い出される。



「法には従うが、あんな自分勝手な裁き、普段はしないぞ?」


 ハッキリと断言するノア国王陛下。それなら良かった。




「だが、人を侮辱したりスキルを使って何か悪事をしでかそうとする者は嫌いだ。そういうものが現れたら、私の独断で帰り道の無い旅に行ってもらうこともあるけどな。………先日も一人旅に出たよ。自分のスキルで人を惑わし、素敵なレディに冤罪をかけ、白々しい嘘をついたなぁ。ほら、私は国王陛下だから。そういうのはすべて私に権限があるのだよ。だから君たちは旅に出ないようにしてね?私が寂しくなってしまうから」


 ニッコリとノア国王陛下は笑う。





「「仰せのままに」」



 私とデュライテッドは深く頭を下げた。





 現実はゲームのようにはいかない。

 追加攻略対象者のノア国王陛下を見てそう思った。




 …………この国に移住しても、私は前途多難だ。







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《1話完結》乙女ゲームの悪役令嬢に転生したらヒロインも転生者だったので、断罪を逃れるために逆断罪してみました。 山春ゆう @yamaharuyou_desuyo

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