その2。(完結)

ヒロイン→リリアン

王子→ディーン

悪役令嬢→エリーゼ



************





「私はエリーゼとの婚約を破棄することをここに宣言する。このリリアン嬢と新しく婚約し、王妃へと迎え入れる」


「わかりました」


「え?????」





 社交パーティー。婚約者である私ではなく、下位貴族であるリリアンをエスコートしてきたこの国の王子、ディーン。

 堂々と胸を張り『彼の横は私だけのものよ』とでも言いたげにエスコートされるリリアン。



 目が覚めたら0歳児だった私エリーゼは、学園に入ったときにここがプレイしていたゲームの中だと気づく。私は転生者だった。そして自分が悪役令嬢だったことも理解した。


 このゲームの悪役令嬢は少し特殊だ。

 幼い頃に婚約をした王子のディーンがヒロインに「エリーゼの気を引きたいから、恋人のふりをして学園を過ごしてくれ」と頼む。要するに彼はエリーゼのことが好きなのだ。

 ディーンルート以外を選べば、ディーンとエリーゼは幸せに結ばれる。

 この社交パーティーの婚約破棄宣言で嫉妬したエリーゼがディーンに愛を伝えることで、彼とお互いの気持ちを確認し、ヒロインに感謝するというストーリー。



 逆にヒロインがディーンルートを選ぶと、同じように気持ちを確認した上で、その後に彼がヒロインへ気持ちを向けてしまう。そしてエリーゼが嫉妬によりヒロインへ厳しい態度を取る。

 王子の若干浮気的な要素が入っているので、そりゃエリーゼだってヒロインに対してきつく当たるのはしょうがないと思うわ。





 だけど。私は今、気持ちを伝えることはなかった。

 だってディーンのこと好きじゃないもん。

 王妃になりたくないもん。



「リゼ?君はなにを言っているんだ?」

「婚約破棄を宣言されたので、愛称で呼ぶのはおやめください」



 どうやらヒロインは転生者で、ディーンルートに入っている。最初っから偽彼女の役ではなく、本気で狙いにいっていた。




「国王陛下。そういうことですので、彼女のことを暖かく迎え入れてあげてください」

「わかった。こちらも準備しておくぞ」


「父上、どういうことですか?」

「いいじゃないですかディーン様。私は王妃になってもいいですよ?二人で幸せに暮らしましょう?」

「リリアン、そんな話はしていない!これはエリーゼのために話に乗っただけだぞ」


 キャッキャと嬉しそうなリリアンと、これは芝居のはずだと小声で揉めるディーン。



「皆、よく聞いてほしい。ここにいるエリーゼは王妃教育を受けながらも、『万が一ディーン様に心から愛する者が現れ、王妃に迎え入れると宣言されたときには祝福してほしい』と約束していたんだ」


「父上?!リゼ?!」


「エリーゼは我が息子ディーンのことをそれはそれは尊敬していてな。息子が選ぶ女性ならきっと大丈夫だから、ぜひ協力してほしいと言われていた」



 ディーンは、驚きすぎて口が開いたまま止まっている。


「やったわ!手間が省けた!これでディーン様は私のものだし、お姫様になったから自由で豪華な暮らしができるわ!」


 横でガッツポーズをしながら喜んでいるリリアンは、私にだけ聞こえる独り言を呟いている。



「まぁ、エリーゼ様はなんて潔いのかしら」

「ディーン殿下の真実の愛を認めてあげたのね」

「さすがエリーゼ様」

「ディーン殿下の真実の愛に乾杯!」

「エリーゼ様の心の美しさに乾杯!」



「ま、待ってくれ皆……………違うんだ……私はエリーゼのことを………」

「ディーン様!さぁ、新しい婚約証明書にサインしてください!」


 私との婚約証明を国王陛下が破棄し、解消された。そして新しい婚約証明が運ばれてくる。

 リリアンはすぐにサインを記入し、ディーンへと渡した。


「こんな……こんなはずでは………」

 だけどもう遅い。国王も王妃も兄弟たちも、社交パーティーに来ているすべての貴族がお祝いモードになっている。今さら本当に好きなのが私だと言えなくなっていた。


 諦めたのか、魂が抜けたような弱い力でサインを書いた。書いたというか、ペンを持つ手をリリアンに支えられ書かされたようなものだけど。


「婚約が成立したわ!ディーン様、幸せに暮らしましょうね!」

「……………」


 もう言葉すら返せない。そんな雰囲気の中、私はリリアンの元へ歩み寄る。



「エリーゼ様、よくわからないけどあなたのおかげでハッピーエンドになれたわ!王妃になったら贔屓してあげるわよ」


 すでに敬語すらなくなるリリアンに、ニッコリと微笑みを返す。


「おめでとうございます。これから忙しくなりますわね」


「ええ!婚約パーティーも結婚式もやらなくちゃいけないから、あぁ!ドレスは何にしようかしら〜」


 楽しそうね。


「では侍女長、お願いします」

「かしこまりました」

「え、何?」




 私が呼べば、今まで王妃教育でずっとお世話になっていた侍女長が数人の護衛を連れてやってくる。


「リリアン様、ご婚約おめでとうございます。これからすぐに王妃教育な始まりますので一緒にお越しください」

「だって学園には通っているわよ?」


「いいえ。学園とは別です。これから王宮の地下で最低5年間、一日中ずっと王妃教育をしていただきます。その後は外に出て、通常の暮らしをしながら5年間教育を続けていただき、試験にクリアしたら王妃の資格を認められます。全ての行程がクリアしないと、『婚約をしたのに王妃になる努力をしなかった』ということで王族への侮辱罪になりますので頑張ってください」



「はぁーーー!!?まって、そんなの聞いてない!ありえないんだけど!だったらエリーゼ様も捕まるべきじゃないの?!早く捕まえてよ!」

「エリーゼ様は最短の10年で無事に去年合格しています。ですから罪になりません」


「な…………っ。なにそれ……じゃあ婚約破棄してよ!そんなの知らなかったんだから!」


「どちらかが婚約破棄を希望できるのは、双方が同資格を持っていないと不可能です。ディーン様は次期国王の資格を持っておりますがリリアン様は王妃の資格をまだお持ちではないですから、破棄するならまずは王妃の資格をお取りください」


「そんな………じゃあ結婚できるのは10年後なの……最初は外にも出られないってこと……?」


「『最低』10年です。さ、行きましょう」



 もはや反論すらできなくなったリリアンは両腕を抱えられ、地下部屋へと連れて行かれた。




 私は国王陛下の方へ顔を向ける。


「国王陛下。政治的な国外との政略結婚で構いませんので、ちょうどいい話があればぜひ教えて下さいね」

「あぁ、君ならどこの国に出しても問題ない。他国へ行っても頑張るように」

「はい。感謝いたします」


 丁寧なカーテシーで挨拶し、最後にディーンに声をかける。



「おめでとうございます。お幸せに」


「リゼ……」


「その名前で呼ばないでくださいまし」



 いつも無理やり作っていた笑顔を消し、真顔でそう言い放てば、ディーンが絶望を見たような顔で膝から崩れ落ちた。










 1年後、私のことを調べたらしい隣国の王族から婚姻希望の連絡が来る。

 王妃教育を受け、身分にも問題なく、王子の真実の愛を受け入れる寛大な心を持つということで白羽の矢が立った。

 この国よりも膨大な土地と権力を持つ大国だ。しかも第四王子の求婚なので王妃にならなくていい。


 なんてラッキーな婚姻なのだろう。


 というわけで無事に隣国へと嫁ぎました。







 そこから15年。


 私は愛する夫と子どもたちに囲まれて幸せな暮らしをしている。


 私の母国に留学していた息子がこんなことを言っていた。




「第一王子はまだ結婚していません。彼の婚約者の女性がいつまでも外に姿を見せないらしく、12歳離れた年下の第二王子が国王になると決まったそうですよ」

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