《1話完結》乙女ゲームの悪役令嬢に転生したらヒロインも転生者だったので、断罪を逃れるために逆断罪してみました。

山春ゆう

その1。(完結)

ヒロイン→ユリアーナ

王子→イライアス

悪役令嬢→ツェツィーリエ


*************




「学園でのユリアーナ嬢に対する暴力や暴言、そんなものをするような女に王妃など務まらない!ここで私は宣言する!ツェツィーリエ、お前との婚約を破棄だ!!国外追放する!」



 イライアス王太子殿下と、その横にニコニコしながら腕に絡まる男爵家のユリアーナ嬢が壇上から私を見下ろす。後ろには国王陛下と王妃様が鎮座し、ユリアーナの顔は見えていない。




 ようやくここまで来たか。

 乙女ゲームの中。10歳の悪役令嬢に転生して8年。4年間の学園生活を終える最後の卒業パーティーで私は今、断罪真っ只中だ。

 私は一切の暴力や暴言などをしていない。どうやらヒロインのユリアーナも転生者で、逆ハーレムルートを狙っている。そのためにやってもいない私の話をでっち上げ、王太子であるイライアスに告げ口していたようだ。



「お言葉ですがイライアス様。それは、私がそのようなことをするから破棄されるのですか?それとも、そのあなたの腕に寄り添うユリアーナ様がお好きだから、理由をつけて婚約破棄されるのですか?」


 一瞬ピクリと跳ねるイライアスの肩。ま、そうなのは知ってるけど。



「私、とーーっても怖かったんですから!たくさん叩かれて、悪口も言われて…………。イライアス様ぁ、私の話を聞いてくださったのはあなただけですぅー」

「怖かったな、ユリア。大丈夫だ、私が守ってみせるからな」


 上目遣いでユリアーナがイライアスの腕をギュッと掴んでそう言えば、彼は愛称呼びで彼女の頬を撫でる。

 学園を卒業する子どもたちを見に来ている親もいる。こんな大勢の貴族の前で、デキてますな雰囲気を醸し出す王太子に引いた。多分私だけではないだろう。



「言い分があるのなら聞いてやろう」






「わかりました。ではどうぞ皆様!」


 この言葉を待っていた。私が大きな声をかける。


 大きなホールの一番大きなドアから、3人の男性がこちらへと歩み寄り、横1列になる。




「な、何だお前ら………なぜそこに……」

 イライアスの言葉も当然だ。だってみんな、彼の側近だから。

 そして全員が攻略対象者だ。


「まず一人目」

 次期宰相のダット。一歩前に出る。

「ユリアーナ嬢はよく私と二人で図書室で勉強をしていました。男女二人きりでは彼女に悪いと思い、他の人も呼ぶかと言うと『私はあなたと二人きりがいい。ダット様と一緒にいるときが一番好き』と申しました」


「え?」

「ち、ちょっとダット様!」


「その後も一緒に勉強会をしましたが、彼女は私の手を触ったり後ろから抱きついてきたり。最終的には『私はあなたのことが頭から離れないの。どうか私と共に生きる道を選んで。あなたは生涯私が支えます』と意気揚々と逆プロポーズされました」


「なんだそーーー」


「次、二人目」

 イライアスの言葉を遮る。

 次は騎士団長の子息、バリー。ダットが下がり、バリーが一歩前へ。

「彼女はよく騎士団の練習場に見学をしに来ていました。剣が飛ぶこともありご令嬢が来るような場所ではないと何度か注意しましたが、『あなたの素敵な姿を見に来たい』と、授業後の練習場に何度もついてきました」


「ユリア?バリーのことはタイプじゃないと」

「えっ、待ってバ」


「練習のあとは私の近くに来て、ひたすら一方的に話されました。あと、彼女は私の前を通るときには必ず大荷物で、私の方を見続けていました。まるで私が手伝ってくれるのを待つかのように。私が護衛するイライアス様に対して『あんなワガママで自分のことしか考えない王子の護衛は大変ですよね。私があなたの癒やしになります』と頬に口づけされました」


「わ、わたしそんなこと!」

「ユリア?どういうことだ」


「はい、3人目」

 大神官の息子、ヨルク。

 バリーが下がり、ヨルクが出る。

「彼女は『街に出たい』と私にいつもお願いしてきたので、何度か行きました。『ヨルク様とデートしているみたいでとても嬉しい!これからも二人っきりで行きましょうね』とせがまれました」


「二人ででかけてたのか?!」

「な!う、嘘よ!そんなことしてないわ」


「『イライアス様の前は堅苦しくて疲れてしまうの。でもヨルク様とならずっと楽しくいられる。私、本当はあなたのことをお慕いしています』とハッキリと宣言されました。私には婚約者がいるので困ると言うと、『あの子なら大丈夫、私が諦めるように言ったから』と訳のわからないことを言い出しました。私は婚約者を愛していますので、彼女と破棄するつもりはありませんし、彼女も私との婚約を破棄するつもりはないそうです」


「ヨルクにまで……ユリア、お前」

「違うわ!全部デタラメよ!イライアス様、私のことを信じてくださらないの?」

「いや…………そんなつもりは……」

 ユリアーナは白々しく自分のやったことを否定する。

「なんなのよこの展開!こんなのなかったじゃない!それに、ツェツィーリエ様のイジメは別でしょ!」

「そ、そうだな。おいツェツィーリエ、お前のやったことと今の3人の話は繋がらないぞ!!」


 ユリアーナに言われるがまま話をもとに戻したイライアス。この王子だけは完全にシナリオ通りの動きをしてくれた。



「それに関して、学園での全生徒による目撃情報、ツェツィーリエ様の王妃教育などの時間を照らし合わせると、ユリアーナ嬢の言っていた日時と該当するものが1つもありません。不可能です。陛下にもこの報告書は提出いたしました」


「ち、父上にも?!ダット!お前は何をしているんだ!私の側近だろ!」



 急に慌てふためくイライアス。そりゃそうだ、国が決めた婚約を勝手に破棄しようとしていたんだから。



「受け取って読んだぞ。確かに、ツェツィーリエがその令嬢にイジメをするなど不可能だ」


 後ろから国王陛下の低い声が聞こえる。


「ですが!本人がそう言っているのが何よりの証拠ではないですか!」

「………」

 隣ではさっきまでニコニコしていたユリアーナが青ざめている。



「そんなにその令嬢のことをかばうのか?どうしたいのだ?」


「出来ることなら、私の横に……王妃として迎えるつもりです」

「ち、ちょっとイライアス様………」

 急に真面目な顔をして国王陛下に伝えるイライアス。その横で青ざめから蒼白になるユリアーナ。そうだよね、逆ハーレムルートは王妃にならないもん。何にもならず、高い地位を獲得してみんなとウハウハ過ごすんだもんね。



「では、お前の側近の話を信じず、その令嬢の言うことを信じるということだな?」

「はい」


 それはそれは堂々と大きな声で宣言するイライアス。




「そうか。…………護衛、2人を捕まえろ」

「は?」

「え?」


 国王陛下の命で、イライアスとユリアーナが拘束される。



「な、なぜですか?!」

「私は関係ないわ!なんで!」

 護衛に掴まれ、足掻くも身動きが取れない2人。



「そこの女。お前は気づいていなかったかもしれないが、私の優秀な影の護衛をずっとつけていた」

「護衛?!」

 驚くユリアーナ。



「ダット、バリー、ヨルクの言っていたことは、その影の護衛の報告と全く一緒だ。当然、学園でもその様子を逐一報告されていたからな。ツェツィーリエがイジメをしていたという事実はない」


「な…………なんということだ……ユリア、お前は私に嘘をついていたのか」 

「そんな!違うわ!違う違う!こうなるはずじゃなかったのよ!なんでよ!なんで?私は……みんなに愛されるはずだったのに!」



「イライアス、残念だがお前は王族に虚偽をする者に同意をした。そして、国で決めた婚約者を侮辱し、勝手に婚約破棄を突きつけた。そんな国に反感を持つものなど国王にふさわしくない。王位継承権は当然剥奪だ、死ぬまで地下牢にいろ。そこの女もだ」



「父上!」

「私は関係ない!誰か助けて!」


 二人の叫び声も虚しく、二人はそのまま薄暗い牢屋へと連れ去られていった。






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「ツェツィーリエ、お前も大変だったな」

「まさかあんなマナーも何もなってない女を好むなんて、我が息子ながら信じられなかったわ」


「いいえ陛下、王妃様。私の言葉を信じて下さり本当にありがとうございます」


「それもこれも、ツェツィーリエ様が助言くださったからですよ」

「『ユリアーナ様はあなたの婚約者にひどいことを言っている』と教えていただいたおかげで私の婚約者を事前に守ることができました。無事に何事もなく卒業後に結婚できます」

「私も、『剣の練習が危ないことは令嬢なら常識として知っているから、もしそんなことをしてまで近づいてくる女性が来たら気をつけなさい。この貴族社会で生きていけない女性になるから。それよりも学園の窓からいつも見学している令嬢のほうが聡明で素敵ですよ』と言ってくださったから、とても素晴らしい伯爵家のご令嬢との婚約が決まりました」


 国王陛下、王妃様と側近3人と私で優雅にお茶会を開く。



 学園に入る前からユリアーナの貴族らしからぬ噂を聞いていた私は、学園入学前に徹底的に調べた。

 どう考えても転生者だろうと思わせる言動をする彼女。そして入学早々『絶対に逆ハーレムよ』という独り言を聞いた私は、早速攻略対象者と話をつけ、彼女に近づくのは危険だと話しておいた。

 そのおかげで、全員素敵な婚約者がそれぞれ見つかり、とても幸せそうだ。



「ところでツェツィーリエ。イライアスは国王に値しない男だとはわかったが、そなたは違う。君ほどの聡明な女性には王妃に必ずなってほしい。」

「ええ。私の2番目の息子である第2王子のラエルが王太子になり、王位継承権1位になるのよ。2つ年下だけど、あなたはラエルとの婚約を結んでちょうだい。ラエル!」


 王妃様が第2王子のラエルを呼ぶ。


「ツェツィーリエ様。ずっと姉上になることを喜んでいいのか悩んでおりました。ですがこうなった今、ハッキリと宣言いたします。初めて兄上の婚約者としてお会いしてから………あなたの美しさと聡明さに心からお慕いしておりました。頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします」


「おおそうだったのか!」

「まぁ!素敵じゃないの!運命だわ」

「そ、そんな……父上も母上も……照れるじゃないですか」


 恥ずかしそうな顔をするラエルに、お茶会のメンバーも和む。




「というわけだ。ツェツィーリエ、よろしく頼む」

「はい、……よろしくお願いいたします。ラエル様」

「こ、こちらこそよろしくお願いいたします!」



 二人で頭を下げる。





 彼はこれから側妃も取らず一途に妻を愛し続ける、どの攻略対象者よりも美しい顔の隠しルートキャラ、ラエル。

 私の推しキャラ!


 ラエルルートのハッピーエンド、邪魔者無しで攻略するぞ!

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