第12話 動き出す陰謀5

 目の前で起こったことを整理しきれず、カインは口を少し開けたままじっとしていた。

 しかし、ふとあのオークの発言が頭をよぎった。


 ―――我ラノ目的ハアノ小娘ダ。ホカノエルフハツイデニ過ギナイ。


 はっ!と我に返り、村の方へ眼を向ける。すでに騒ぎは落ち着いたようで、何か事件が起きているような気配は感じられない。


 ―――オークはすべて倒したはずだ。取り逃しはない。あの女の子も無事なはずだ。でも………


 なにかが体の奥に引っかかるような、そんな違和感がカインの心に巣くっていた。


「………とりあえずみんなのところへ戻ろう」


 そう言いながらカインは立ち上がり、じっと岩を眺め続けるアストライアの服を「行くぞ!」とつかみ、村へ戻った。




 ***




「―――――っ……!」


 グレゴリーは後頭部に重く響くような鈍痛とともに目を覚ました。自身の状況を把握しようと、倒れた体を起き上がらせる。


「私……は……?」


 いまだはっきりとしない意識の中、必死に最新の記憶を反芻はんすうする。


「痛っ………!」


 頭を使ったからか、再び後頭部が痛む。するとその痛みをトリガーに、意識を失う寸前に見た男の背中に、エルフの少女が担がれていたことを思い出した。


「―――くそっ!」


 不甲斐ない自分に苛立ちながらも、少女を探しにグレゴリーは急いで家を出た。

 すると、そこにちょうどカインとアストライアが通りかかる。カインに引きずられているアストライアは、何やら思案にふけっているような顔をしていた。


「うわぁ!びっくりした。あれ、グレゴリーさん?避難したんじゃ……?」


 驚くカインをよそにグレゴリーは現状―――自分が少女とともに避難しようとしたところ、我々を呼びに来た男によって気絶させられたこと、その男が少女を連れてどこかへ去って行ったこと―――を説明する。


「………そういえばあの男、警鐘が鳴る前から襲撃に気付いていた。おそらくオークとグルだったんだろう。」


 先ほどまで思いつめたような顔をしていたアストライアだが、いつもの調子を取り戻したようで、カインとグレゴリーの会話に入ってくる。


「とにかく探しに行こう。彼女のことは私たちに任せて、グレゴリーさんはみんなのところへ行ってください。」

「分かりました!どうか、お願いします!」


 熱のこもったグレゴリーの言葉に、頷きで返す。走っていくグレゴリーを見届けると、アストライアは地面に手を当て、【探知サーチ】を始める。


「追えるか?」


 カインがそう聞くと、アストライアは「任せなさい」と一言返し、自身の手に集中する。


「彼女のエーテル量は尋常じゃない。あの量のエーテルであれば、多少なりとも体から漏れ出てるはずだ。それを辿れば…………見つけた。“残り香”だ。」

「よし、行こう!」


 二人は少女の“残り香”を追って、森の奥、ダニアのある方角へ急いだ。

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Lost Body ―ありふれた英雄譚― 明日明後日 @odajori-gi

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