第11話 動き出す陰謀4
不意打ちは成功し、傍らには脳天を剣で貫かれた哀れな人間が転がっている―――はずだった。
オークが気付くと、先ほど自分が殺したはずの人間の死体がなくなっている。それに、確実に「殺した」という手ごたえが感じられなかった。
「ドウイウコトダ……?」
オークは戸惑うが、しかしその戸惑いは背後から先ほど殺したはずの人間の声が聞こえたことで、彼方へ消え去った。
「幻惑魔法、だよ」
突如現れた声に驚きつつも、オークは背後に立つ殺したはずの人間に、振り向きざまに剣を振りかぶった。ところが、振りかぶった剣は彼に届くことはなく、再び聞こえた人間の声はまたしても背後からだった。
「俺はすべての魔法属性を兼ね備えている、いわゆる
オークは再び、ゆっくりと振り返ると、余裕綽々といった態度でカインがそこに立っていた。
「……魔法、カ」
「そ。ちなみに今のは水系統の魔法。騙し討ちするならこうでもしなくちゃね。」
やれやれ、という感じでカインは首を横に振ってみせる。
「フン!騙スダケノ魔法デハ
オークは今度こそカインを殺そうと飛びかかるが、足が全く動かない。
下を見ると、下半身がほぼ盛り上がる土に覆われ、全く動かすことができなかった。
「【
カインの魔法によって動きを封じられたオークは、必死の抵抗を見せるが抜け出すことはかなわなかった。次第に地面はオークの全身を包み、動かすことができるのは顔のみとなった。
するとそこに、茂みから服の裾をパッパッと手で払いながらアストライアが現れた。どうやら一通り終わらせてきたらしい。
「やぁやぁ、お待たせ。二匹とも片付けてきたよ。そっちは?」
「一匹捕まえた。何か情報を持ってるかもしれない」
このオークの正体について、カインは三つの可能性を思い浮かべていた。
まず一つ目は、こいつらが噂の『エルフ狩り』である可能性。そうであるならば、ほかの連れ去ったエルフについての情報を持っているかもしれない。
そして二つ目。あの路で倒れていた「エルフの少女」と何らかの関係を持っている可能性。
最後に三つ目。それは、
「さて……と」
カインは改めてオークに向き合うと、ビッ!と伸ばした指をオークの眼前へ突き立てる。指先には明らかに風のエーテルが込められており、魔法耐性のないオークは触れただけで命を落とすだろう。
「単刀直入に聞く。お前たちの目的はなんだ」
「……………我ヲ殺スノカ?ソウナラバ一思イニヤッテクレ。デナケレバ喋ラン」
「―――あぁ、いいだろう」
カインはオークの素直さに驚いた。と同時に、彼の言葉の中に希望に似た感情が入り混じっているように感じた。これから殺されるというのに、むしろそれを望んでいるような………
「我ラノ目的ハアノ小娘ダ。ホカノエルフハツイデニ過ギナイ。奴ラ曰ク、連レ帰ッテ実験ヲ再開スルソウダ。ソノタメニ雇ワレタ。ソレ以上ハ知ラン。サァ、喋ッタゾ。殺シテクレ。」
「奴ら、とは何者だ?雇い主の名前は?」
「奴ラハ魔法使イダ。雇イ主ニツイテハ知ラサレテイナイ。サッサト殺セ!ハヤク!」
先ほどまで悟りを開いたように大人しかったオークが激しい剣幕を見せる。
「まだだ!実験とはなんだ!あの女の子は何者だ!」
「知ラナイ!早ク殺セ!ジャナイト」
オークが急に言葉を止めた。
不審に思ったカインがオークの顔を見ると、みるみるオークの顔が苦しみの表情で満ちていった。不穏な空気があたりに漂う。
「……オ、オア……ガ………!」
「お、おい!どうし」
「ア、ア、アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
カインの言葉は咆哮にかき消され、直後オークの体は音もなく消滅した。
「こ……これはいったい………?」
カインが訳も分からず、先ほどまでオークを捕らえていた岩を眺めていると、先ほどから傍観を決め込んでいたアストライアがおもむろに口を開く。
「――――呪詛か……!」
「呪詛……?」
呟くようにそう言ったアストライアの顔はいつになく真剣で、敵と対峙しているようだった。
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