4日目 猫と私と心(お題:人間に興味を持つこと)

初めて猫を飼ったのは、私が小学校に入った日だった。

母親から入学祝いとして何が欲しいか聞かれた時、咄嗟に「ねこ」と答えたのが始まりだった。本当に猫が飼いたいと思ったわけではない。ただ、母親に声をかけられた時、なんとなく猫を飼っている自分の姿が見えた。その姿が、これまたなんとなく愛おしくなってきたのだ。

駄目だと言われるかと思ったが、思いの外すんなりと受け入れられた。入学式が終わった後、母親が車で学校まで迎えに来て、その足でペットショップまで行ったのを覚えている。我が家に来たのは、アメリカンショートヘアのメスだった。


小学生だった私と子猫だった猫の6年間は、互いに互いを切り離せないほどの濃密な関係を保ったまま過ぎていった。トイレの世話も、餌の面倒も、おもちゃの手配もすべて私が担当した。猫も私のことを信頼し、他の家族はもとより私の言うことはおよそ聞いてくれるようになっていた。


中学に入ってからの私は人間との交友関係を上手く築けずにいた。同じクラスの生徒とも、担任の先生とも意思疎通が上手く取れず、次第に孤立していくのが手に取るようにわかった。学校へ行かなくなるのもそう時間はかからなかった。


家では常に猫と暮らしていた。次第に家族とも会話を交わさなくなり、家の中でも孤立するようになった。いや、猫が一緒だったので孤立ではない。私の心は、常に猫と共にあった。


猫が死んだ。

いつだったかは覚えていない。いつもよりもぐったりしており、気がついたら既に死んでいた。何か悪いものを食べたか、あるいは病気か何かだったのかもしれない。私は猫がぐったりしているのを見つけたときに家族に助けを求めようとした。しかし、家族の誰もが私と猫に目も耳も傾けることはなかった。猫はそのまま死に、私の心も音を立てて静かに死んでいった。


私は私の部屋から出ることはなかった。猫が死んだあの日、家族に助けを求めようと外に出たのを最後に、私の心の脈動は大きな岩か何かで完全にせき止められた。

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小説百本ノック 常盤しのぶ @shinobu__tt

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