反小説
naka-motoo
ただの事実
想像力のないわたしが小説を書くとしたならば、事実をそのまま書くでしょう。
「雪がほんとうに綺麗」
「でも、大雪だと辛い人もいるよ」
「そうだね。除雪で大変な思いをしている人とか、商売をやってる人ならお客さんが来なくて経営がいっぺんに苦しくなるだろうし」
「ホワイトアウトで事故が起こったりもしてるし」
「ちょっといいですか」
わたしは電車を待つホームで語り合っている勤め人と思われる人たちの集団に語りかけだ。
ありのまんま。
「わたしは雪が嫌いです。生き埋めにされるから」
「えっと・・・ああ、屋根から落ちてきた雪で生き埋めになって亡くなった方のニュースがありましたよね」
「いいえ。生き埋めにされるんです」
「雪がまるで生きているみたいな表現ですね」
「うん。なんだかロマンチックな表現?なのかな?」
わたしは彼女・彼らの長閑さに腹が立った。
なんども繰り返した。
「生き埋めにされたんです。12人から」
「12人?」
「わたしが小学生の頃の大雪です」
勤め人たちはその年の豪雪を覚えていた。わたしは単なる事実をそのまま羅列した。
「小学校のグラウンドに誰かが『かまくら』を作りました。とても小さなかまくらです。わたしは12人の同じクラスの人間に」
「人間?」
「はい。友達などでは決してない、『人間』・・・いえ、人間ですらないかもしれません・・・・とにかくも12人の腕力と蹴りでもってかまくらにおしこまれて、その上から雪をどんどん押し込まれて・・・・・雪で埋められました。耳に雪がたくさん入ってきました。口にも、鼻にも。わたしは抵抗するフリだけしました。その前に本当に抵抗した時は内蔵が破裂する寸前の力でお腹を殴られたり、殴るのではなくてふたりから頬に拳を押し付けられてわたしの口がタコの口になるぐらいに両側から拳をドリルのようにねじ込まれて青あざができてその青あざを見てわたしの母親が『栄養が偏ってるのかね』と言ったのが情けなくて仕方なかったことがあったからです」
「ええと・・・・・」
「だから、12人から雪で生き埋めにされても、抵抗するフリだけで微弱な力だけを放ってされるがままにしていました。そうする内に目の前が段々白くなっていきました。息も苦しくなっていきました。ああ、このまま窒息して死んでしまって、この12人が明日のニュースにでも出ればどんなにわたしにとって幸せなことだろうと思いました。実際にはそんなことはおこらずに、『ふざけただけです』という、写真も名前も出ない意味不明のコメントが読み上げられるだけだったでしょうけど」
「え・・・・・・と・・・・・」
「生き埋めにされたその雪の重みが、苦しさは苦しく、でも誰かにぎゅう、ときつく押し倒されて抱きしめられているようなかなり隠微な感覚にわたしはなっていきましので、多分もう少しで他界できたんだろうと思うんです。雪の中でわたしは生きていましたけれども、体がとても熱かった。濡れているのは雪の水分ではなくて、汗だと気付きました」
「・・・・・・・・・・・」
「それから、股間が熱いのではなくって温かかった。わたしは失禁していたんです」
「・・・・・失禁?」
「小便を漏らしていたんです!」
「・・・・・・・・すみません」
「なぜあなたが謝るのですか?」
「いや・・・・なんというかお話を聞いていていたたまれなくなって」
「別に。だって、こういう事実が今もどこかの子供たちに怒っているはずですから。わたしは雪が嫌いです。でも憎くはない。憎いのはその12人です憎いのはわたしの頬の青いアザを見て栄養不足と言った母親です。憎いのは雪によって、まっとうな理由で苦労している人たちです。『ああ、雪の被害で大変だったですね』と労ってもらえる方たちです」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「わたしのこれを、どなたか『雪害』と認定してくださいますか?あるいはわたしが小さき頃からいたぶりに遭わなくてはならなかったことはわたしの
「・・・・・・・・言葉もありません」
「いいですよ。あ、ちょうど、電車がきましたね。では、さようなら」
「えっ!」
「あっ!」
「いやあっ!」
ゴガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
キキキキキキキキキキキキキキキキキ
反小説 naka-motoo @naka-motoo
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