美柚と空

私が住んでいるところは、四方を山で囲まれ、そして頭上には屋根がつけられている。そして、都会とか別の地域に行くには、色んな書類を提出したり、お金を払わなきゃいけない。

おかしいよね。誰がこんなことしたんだろ…意味わかんないよ…


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「おっはよー、美柚!」

「おはよ、梨々りり


いつも通り、友達の梨々と学校へ行く。


「ねぇねぇ、美柚は進路どーするわけ?やっぱさぁ、都会のとこ行きたいよねー」

「んー、まだ考えてない。この近くのとこで良くない?」

「えっ!?信じらんない!!絶対都会でしょ!!放課後とかにカワイイお店で食べ歩きとか出来るんだよ!?はぁー、楽しみぃ…」


ホント梨々は都会の憧れが強いな。まあ、私もカワイイお店には行きたいけど…


「てゆーかさぁ、こんな田舎から早く出たくない??が見れるんだよ!?」


って何?」


すると梨々は困ったような、驚いたような顔をした。


「えぇっ!?察してくれよー、マイフレンド!」


「ん、そんなにやばい言葉なの?R指定の言葉とか?」


「はぁ…面倒ごとはヤだから、ぜーったい言わないし。今までだってずっとそうしてきたじゃん?アレったらアレなのよん♪」


梨々はそう言って上を指さした。あ…ようやく分かった。アレ=私のトラウマか。梨々、意外に気を使ってんだな。

その時だった。


「ねぇねぇ、都会ってトコに行けばね、“空”がみれるんだって!!」


「わぁー!ぼく、ぜったい都会に行く!」


小学生くらいの女の子と男の子とすれ違った。

そ、ら…

頭の中に映像がフラッシュバックする。

-美柚。

あの子の声、あの子の笑顔、あの子の目。あの子の全てがよみがえる。


-ポタッ。

そして、屋根の上から落ちてきた一滴の血。


「うぐっ…!」


「美柚!!」


私は吐き気を催し、倒れてしまった。

私を…ゆるして…空真、くん…


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「…でして、美柚は…」


梨々の声がする…?私はそっと瞼を開けた。


「あーっ!!よーやく起きたー!もぉー、心配したんだから!」


「梨々…ここは?」


「病院!急に倒れてホントびっくりして、なんか他の人が救急車呼んでくれたわけさ!」


「梨々は何もしてないのね…」


「いっ、いやいや!心配したし!!すっごい!!あと、色んな経緯?みたいなのも説明した!」


「今、美柚さん起きたばかりだからちょっと静かにしましょうか。ところで美柚さん、調子とかはどう?」


「えっ、いやー…」


そんなこんなで医者に心配されて、色んなチェックとかして、無事病院から出れた。まあ、すぐに梨々は学校に行ったし、私が家に帰ったのは夕方になった。

これも全部全部、空のせい。


…じゃなくて私のせいなのに。


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私には、幼なじみの空真くんって男の子がいた。空真くんはクールな子で、あんまり喋らないけど、優しかった。私のくだらない話も聞いてくれて、とんでもない無茶ぶり以外だったらだいたい応えてくれる。

でも、彼はもういない。私のせいで。私のせいで。私のせいで。私があの時、屋根に上がって、なんて言わなかったら…!


「ごふっ…げほっげほっ、げほっ!!」


はぁ、はぁ、はぁ…ダメだ。震えが、止まらない。空真くんを思い出すと、彼の優しい顔や声もよみがえる。でも、空真くんが屋根に登って、その後に屋根から落ちてきた一滴の血。


「…うっ!」


吐き気が込み上げてきて、急いで公衆トイレに駆け込む。


「げぼっ、げぼっ!」


はぁ…気持ち悪い。もうダメだ。早く帰ろう。なんで思い出したんだろ、こうなることは分かってたのに。

フラフラしながら公衆トイレから出る。苦しい。でもあの子の痛みに比べたらこんなの全然苦しくない。意味わかんない。早く、早く、早く帰らなきゃ。


「きゃー!!」


「銃が、銃が…!」


「やめてぇー!!」


叫び声が聞こえる。あっちの商店街の方からだ。なんだろ…銃、とか聞こえたけど。声の方へ歩く。


「はっ、き、来ちゃダメよ!銃を持った男があそこの路地にいるの!!」


「ちょっとだけ、ホントにちょっとだけなんで!」


おばさんに忠告されたけど、好奇心は抑えられない。体も、今まではだるかったけど、もう正常に戻ってる。それに…どうせ冗談でしょ?


「そこのねーちゃん、ちょっとこっちに来いよ!じゃねーと撃つぞ!!」


乱暴な男の声。そこには銃を持った男性がいた。なんで?銃なんて日本で売ってたっけ?

もしかして、偽物?


パァン。


銃声が聞こえた。男が上の屋根に向かって銃を撃ったのだ。

あれ…なんで、なんで…本物…


「早く来いよぉ!!!」


「は、はぁい!」


怖い怖い怖い。やめて。撃たないで。私の頭はパニックになって、男の元へ走った。


「おー、よしよし。そうだ、言うことさえ聞けば何も危害は加えねぇよ」


頭を撫でられた。うっ…気持ち悪い。知らない人に触られた。


「おい、傍観者のギャラリーどもぉ!!」


いつの間にか、私たちのことを遠巻きにたくさんの人が見ていた。


「通報とかはしてもいいけどよー、そんときこのねーちゃんがどーなるかなぁー?まあ、通報することしか出来ねーよなぁー!?傍観者なんだからよー!!」


こっ、怖い…何この人、私をどうするつもりなの…?やっぱり、殺すのかな…。でも、でも、私だって人を、しかも大好きだった幼なじみを…


「おーおー、だーいじょーぶかー?震えてんぞー?まあ、とりあえず座れよ」


そうして私は固いコンクリに座らされた。座ると少しだけ震えが収まった。


「あ、ありがとう、ございます…」


「へっ、オレすげーいいことしてるぅー!」


…この人、すぐ調子に乗る人なんだな。案外、褒めればすぐに解放してくれるんじゃ…


「なあ、オレの…いや、オレの上司の昔話を聞いてくれよー」


「あなたの昔話なんですね」


「あぁん!?」


はっ!や、やらかした…口答えしちゃダメなんだ…


「…そうだよ、オレの話だよ。とにかく、聞いてくれよ。そうすれば生きて帰してやる」


「えっ!じゃあ、聞きます!いや、聞かせてください!!」


「ん。じゃあ、始めるぞ。

オレはなぁ、人を殺したんだ。」


「…そ、それは、私もすぐに殺せるってことですか…?」


「んーん、違う。まあ、聞けって。

オレは銃で殺した。やー、まあ、オレも殺したくなかったんだぜ。でもさぁ、仕事上殺さなきゃいけなかったし、立ち入り禁止の場所に入ったアイツがいけねーんだ。アイツが昇って来たのがいけねーだろ。もしここに到達した奴がいたら殺せって言われてたし、きっと彼奴あいつらも殺してたし」


これは…ある意味、懺悔?この人、私がいるってこと忘れてるのかな?なんか、どんどんヒートアップしてきたし。


「おかしーだろ、オレだけ今頃クビとかさぁ、そんなんだったら殺した時にクビにしろよ、それだったらまだクビにされた理由もすっきりしてるしよぉ」


「あっ、あのっ」


「なんで、なんで今なんだよ…ようやく、ようやく女も子供も出来たってのに…しかもそのことを伝えたはずなのに…喜んでくれたじゃねーか…しっかり守ってやれよって言ったじゃねーか…なんでだよ…今は働き口も見つけにくいし、何よりもう…」


「あのっ!」


「ん…?」


彼は泣いていた。鼻をすする音がして、声がしっとりしてきて、気づくと泣いていた。辛かった。私自身も、この人の話に感情移入して泣きそうだった。この人に泣いていることを伝えたかった。あなた、すごい泣いてますよって。でも、言えない。きっと、彼だって言われたくないはずだ。


「あ…涙流れてらぁ…あの時、出し切ったと思ったのになあ…すまねぇ、ティッシュ持ってねーか…?」


「あ、あります、どうぞっ!」


ぎゅっ、ぎゅっ。そんな音が聞こえそうなくらい、強い涙の拭き方だった。


「ありがとなぁ…」


そうしてティッシュを私に返してきた。


「あっ、はい…って、いりませんよ!男の涙付きティッシュなんて!」


「はははっ、女の涙ならよかったんか?なんつって」


ふぅ、よかった。少し気分が落ち着いたのかな。


「なんか聞きてーことあるか?」


「えっ…」


聞きたいことか…あんまり傷口をえぐるような質問はやめといた方がいいよね。ここは無難に家族のこととか?


「おっ、奥さん!奥さんの名前はなんて言うんですか!あと、子供の名前も!」


やっぱり、幸せなことを思い出してもらった方がいいよね!


「あー…もう、別れたんだわ」


「え…?」


いや、嘘でしょ?


「でも、さっき奥さんと子供が出来たって、しかも、そのために働かなきゃって!」


「そんなこと言ってねーよ。あ、女と子供が出来たことは言ったか」


「は、働き口が見つけにくいって!」


「おう、オレが餓死するからな」


「奥さんと子供を養うためじゃないんですか!」


「もう離婚したんだよ!」


ドン!あの人は思いっきり壁を叩いた。怖い。震えがまた、始まる。


「…すまねえ…」


「い、いえ」


「あー、オレの女のことなんだけどな、結婚してねーから離婚もしてねーんだよ。まあ、オレがクビになったから女の方から別れようってな。お腹ん中にはガキがいたんだけど、新しい男と育ててくって。養育費も払わなくていいってさ。ははっ、あの女もオレの仕事目当てだったんだよ。クビって伝えた瞬間に別れよって言われたんだぞ?はははっ笑えるよな!」


「お、お仕事は何を…」


「言ってなかったっけ、屋根の見張りだよ」


屋根……小さいころの思い出がフラッシュバックする。頭がズキズキする。大丈夫、大丈夫だから。必死に沈める。


「見張りつっても滅多に人来ねーから暇なんだけどよ、結構その仕事に憧れてるやつもいてよ、あの女もその一人な。ま、貰える金が高いって思われてるからなー。憧れだけで付き合おうって言ってきて、別れるのも時間の問題だったんだなー…」


見張りって、人殺しって…全てのパズルのピースが繋がってしまった。もう全くあの人の言葉が頭に入ってこなかった。恐ろしい想像が頭をかすめたからだ。


「あなたが人を殺したのって、いつくらいですか…」


「んー?どーだったかな、いつかは思い出せねーけど、殺したやつなら思い出せるぜ!」


「どっ、どんな人でしたか!!」


「ふっ、それはなぁ、なんと!ちっせえガキだった!オレにも子供がいたら逃がしたのになー!」


小さい、ガキ…それって…空真、くん…


「お、おい、顔がすげえ真っ青だぞ…」


この人が空真くんを…

いや、まだ分からない。だってこの人はまだ小さいガキとしか言ってないし…


「オレが殺したヤツんこと聞いてなんか意味でもあんのか?それともお前、彼奴あいつらの犬かなんかか?」


「ちっ、ちがっ」


「なぁ、ちょっとオレの仕事の話でも聞いてさぁ、気分爽快にしようぜ!そんままの体勢で聞いててくれりゃあいいし、ラクにしとけよ。」


仕事の話…話してても辛くないのかな。


「見張りってもなぁ、銃持って屋根の上を回るだけなんだけで、そんな難しいことじゃねーんだぜ!なんてったってオレができるくらいだかんな!そんでさ、空は、」


「…えっ?」


話をしていた彼の頭から急に、弾が出てきた。そして赤い赤い、血が…。


「うがぁー!!!」「いやぁー!!!」


彼はもがき苦しんでいた。そして、倒れて動かなくなった。歪んだ顔をこちらに向けて、口をパクパク動かしていたが、声は聞こえない。コンクリートに赤い世界が広がっていく。私も飲み込まれる。嫌だ。でも、動けない。また私は、人の血を見た。見たくないのに。きっと彼だって、あの子だって、血を見たくなかったはず。私がいることで皆…死ぬの…?私は疫病神なの?疫病神なんだったら、もう生きたくないから早く誰か私を殺してよ。

そして私は飲み込まれてしまった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ごめん、また苦しい思いをさせて」


銃を持った青年がポツリと呟く。


「許してもらうつもりはないけど、僕だって苦しいよ…美柚」






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僕らは空を願う 千夜桜 @tiyoha

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