第15話 従属

「と、言うことです」


 アランの話が終わると同時に、城門にたどり着いた。

「なるほどなぁ。そこの狼は聖獣だったのか。少し悪いことをしたな」

「ですが、その聖獣がご主人様の命を狙ったのですよ。殺さないだけでも十分優しいですよ」

「いや、素材にしたとしても、聖獣なら下手したら恨まれる可能性があるからな。殺さないで済んだのはアレンが言ってくれたおかげだ。ありがとな」

「えへへ。ありがとうございます」


 話を聞くと殺し合いに発展した理由は俺にあるけれど、そもそも聖獣がここにきたのはアランが原因なんだけどな。

 そう考えたが、わざわざアランを責める必要もないため、自分の中に留めることにした。


 それにしても、魔力を認識してから初めてあんなに全力で戦ったな。だけどその結果が、味方であるアランにも危険が及びそうだったのがまずいな。

 戦い方は変えられないから、いざという時だけ使うことにしよう。

 味方に迷惑をかけない戦い方も増やす必要もあるよな。


 いつものように冒険者タグを見せ、城門を潜ろうとすると、常駐している兵士に止められた。

「待て。その動物はなんだ。ここら辺で見かけない種類な気がするが。その動物を王都に入れてどうするつもりだ」

 そうだった。今はいつもと違ってこの聖獣がいるんだった。

 聖獣と答えるわけにもいかず、俺は咄嗟に返答も浮かばないまま、影の中に入れれば良かったと少し後悔する。

「この狼は傷付いていたところを、治療してあげたら懐かれてしまい、この街で従属関係にしてもらうために連れてきました」

 横からアリスが説明してくれた。

「そうか。それができる場所は知ってるか?」

「はい。オスニエルっていうところでやってもらおうと思ってます」

「あぁ。あそこなら安心だ。この後ちゃんとすぐ向かってくれよな。じゃあ通っていいぞ」


 難なく城門をくぐり抜けれた。

 俺はアリスに小声で感謝を伝える。

「アリスありがとう。本当に助かった」

 アリスは何も言わずに、少し足早になる。


 うまく対応できなくて、主人として失望されたのかもしれない。と考えて少し立ち止まると、後ろからため息が聞こえた。

「レインさん、アリスに置いて行かれないように立ち止まらないで速くついていきましょう」

「そ、そうだな」

 後ろにいたアランからそう言われて、俺はアリスについて行くように足を動かす。


 俺は2人の態度が気になったけど、奴隷である2人は結局俺の敵になることはない。そう自分に言い聞かせることで落ち着いていく。


「ところでこの狼の名前はなんなんだ。今までずっと狼とよんできているが」

「ちょっと聞いてみますね。……特に名前は無いらしいです。今までずっと聖獣様とかで呼ばれてたらしいです」

「そうか、じゃあ俺たちで名前を考えるか?」

「そうですね。こいつもそれでお願いしますと言ってます」

「うーん。狼の名前かぁ」

 振り返ってみると、俺は名前を決めたことが今までない。前のパーティの奴はジョブスキルに改めて名前をつけてたりしてたんだけど、俺は元の名前のまま使ってたからなぁ。

「アランは、何かないか?その狼に合いそうな名前とかは」

「うーん。そうですね。僕の前の世界の神話で、フェンリルって言う狼がいました」

「じゃあ、その名前でいいよな」

「ちょっと待ってください」

 狼の名前が決まりそうな時に、前の方に進んでいたアリスから声が飛んできた。

「フェンリルは、神から生まれた狼ですけど、神を食い殺した狼でもあります。仮にも神に使える聖獣ならそんな狼の名前は似合わないと思います」

「へぇ、そうなんだ」

 俺とアランは同じタイミングで、同じ相槌を打った。

「じゃあその名前を参考にするのはやめとこうか。それじゃあアリスは何かあるか?」

「そうですね。神格化された狼は真神まかみと言われるぐらいしか知らないですね」

「なるほどなぁ。2人とも案が思いついたら言ってくれ」

 アランとアリスから返事が聞こえる。2人に任せるだけでなく、俺も考えることにする。

 2人の意見を無下にするようで悪いけど、昔近所で飼われていた犬のジャックしか名前が思いつかない。


 それにしても、あいつらの世界では同じ狼の神様でも、神様がたくさんいるんだな。

 この世界にも、数多くの神様が存在しているが、同じ存在の神など居なかったと思う。狼の神が一柱いたとするならば、そのほかに狼の神は存在しないように。

 この世界にも狼の神がいるはずなのだが、あいにくと俺は名前を知らない。冒険者として最低限の知識は身につけているつもりだが、それ以上のことは知る機会は無かったし、素人も思わなかった。

 だけども、こう言う時のためにも知識として入れといても良いかもしれないな。

 俺はそう思った。


 俺が名前に関してうなっていると、アランから声がかかる。

「レインさん。マルトっていう名前はどうですか」

 俺としては思いつかないから、それでも良いと思った。

「いいと思うぞ。だからそれで行こう。そのことに関して狼はなんと言ってるか?」

「それで構わないと言ってますね」

 ということで、聖獣の名前はマルトになった。


 俺が2人を買った場所「オスニエル」という奴隷館に辿り着いた。

 受付に全員で向かう。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」

「今日はここにいる、この狼との従属関係を作ってほしくてやってきた」

「分かりました。では今から案内する部屋でお待ちください」

 受付にいる女性は、少し作業をして席を立ち、俺たちの前に立ち、ついてきてくださいと言ってから歩いて行く。


 受付の女性はとある扉の前で立ち止まる。

「それでは担当のものが来るまでこちらの部屋でお待ちください」

 部屋の中には机を挟んでソファが向き合って置いてある。

 一つのソファの真ん中に俺が座り、両側をアランとアリスが座る。マルトはソファの後ろに横たわる。


 ここに来ると2人を買った時のことを思い出す。あの時はアランとアリスが特別な存在だとは思わなかったな。

 そんなことを考えていると、すぐに扉が開き、前利用した時に担当してもらった男の店員が入ってきた。

「お久しぶりです、レインさん。本日はそちらの狼を従魔にするということでよろしいでしょうか」

「あぁ、そのつもりだが。俺は何かする必要があるか?」

「そうですね。その辺についてはこれから説明させていただきます」


 彼の話によると、今からすることは、奴隷紋の刻む位置と種類、それに伴う金額の支払いだそうだ。

 ちなみに刻む対象が主人となる人物に対して、屈服してなければ、紋様を刻む時により力が必要となるため、より金額が高くなるとのこと。その点、店員の人に確認してもらったところ、マルトと俺の間にはその心配はなく、その点に関して料金は高くならないということだった。


 俺は、アランとアリスと同じ効力を持つ紋様を、前足の間の少し尻尾よりにお願いすることにした。

 さらに、服とかで隠せないから、紋様に使う塗料をなるべく毛色に近いものにしてもらった。これは無料でやってもらった。


 その結果、金貨2枚かから結果となった。この間、散財したばっかというのに手痛い出費となった。

 流石聖獣というべきか、奴隷紋を刻む対象が強すぎるため費用が倍以上になった。

 このことには、店員の男性も「大人しくしてるから安く済むと思ったんですけど、ここまで強いとは思いもしませんでしたよ」と言ってとても驚いていた。


 お金が予想以上にかかったことは除いて、マルトを従魔にすることは問題なく終わった。

 しかし、その後に問題があったのだ。

 それは宿だ。今まで借りていた宿屋はペット禁止とのことだった。マルトは「我はペットなどではない」と少し怒っていたらしいが、そんなの関係なくダメであった。

 なんでも過去に暴れられたことがあり、大きな赤字となってしまったことが原因とのことだ。

 それ以来、不必要な問題は手元に置きたくないから、ペットもとい、人種以外の動物は禁止ということになっている。


 この宿は、値段のわりにいいベッドで俺は好きだったから、少し残念な気持ちになる。

 ふと気付いたことがある。俺はマルトを仲間にしてから何か良かったことはあっただろう。

 まぁ、これからあることを信じて、マルトと共に生活していくか。

 アランが仲間にしたいって言ったしな。


 これから収入が増えることを見越して、今までよりお高めな宿を取ることになった。

 高めな宿を取ることになったが、アリスの料理を食べたいからもちろん、キッチンを借りれるところにした。


 今までとは違い、人数分あるベッドのある部屋で落ち着く。

 それにしても今日も色々あったな。

 アランとアリスのジョブの戦闘性能を見たかったんだけど、マルトに出会って、仲間にして、宿を追い出されて。

 2人と出会って、刺激的な日々が増えてきたが、その度に疲れている。そんな日々も嫌いじゃないが、明日はゆっくりと過ごしたいな。


 そんなことを考えながら、ベッドに潜り込み、次の日の朝を待った。



****あとがき****

マルトは真神+ウルフ+語感でなんとなく考えました

どうしても、フェンリルを連想できる名前にしたくなくて、最初はポチとかワンコロとかにしようと思ったけど、流石に名前が弱すぎるからやめました。



奴隷商の人はアランとアリスのジョブは知っていますが、売ってくれと頼むことはありません。

比較的良心的?な奴隷商で、店の人から話を持ちかけることはないです

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影に潜む冒険者 坤道 @hironomi

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