第4話 伝説の英雄



「ああっ!懐かしの故郷エルジオンーーーーッ!!」


 次元戦艦で未来へと帰還し、メリルは曙光都市に辿り着いた途端に寝そべった。

 地面にハグしているらしい。


「この舗装された床!輸送機が走る道路!そして高層ビル!本当に帰ってきたんですね!」

「ええ。私たちは1日ぶりだけど、メリルにとってはずいぶん懐かしいみたいね。どれくらいの間、むこうで暮らしてたの?」

「1年くらいだったような……ええと、通信機の日付を見れば……ああ、そうだった!1度目に転移した時代に置いて来ちゃったんです……」


 そう言ってふさぎ込むメリルにエイミは傷だらけの通信機を渡した。


「え?これは?」

「あなたの通信機よ。あの森に放置されてから800年後にここで見つかったの」

「ええー!二度と戻ってこないと思ったのに出てくるなんて……」

「ギルドへ行って新しい物と交換してもらいなさい」

「そうですね。すぐギルドに……ああっ!」


 メリルは何かを思い出したらしく大声で叫んだ。


「ど、どうかしたの?」

「私の両親はどうしてますか!?ずっと行方不明のままで心配かけてるんじゃ……」


 それを聞いた彼女は優しく微笑んだ。


「その事なら安心しなさい。この時代ではあなたが消えてから1日も経ってないの」

「え?私、1年以上むこうで暮らしてたんですよ?」

「でも、帰ってきたのは失踪した当日だもの」

「えー……」


 メリルにとっては1年以上も遭難していたが、この世界では数時間だけ消息不明になっただけだ。彼女の両親にはまだ報告さえされていなかった。

 時空を越えるとは実に不思議なものであると彼女はつくづく感じたが、すぐに考え方を良い方へ切り替えた。


「あっ!でも、両親に心配をかけなくてすんだんですよね!それなら良かったです!」

「そう考えられるのがあなたのいい所ね。でもあなたにとっては1年ぶりでしょう?早く会ってきなさい」

「はい!」

 

 メリルは元気よく走り出した。

 その先には1年ぶりに会う父と母がいる。1つの家族が持つ平和の日々を取り戻せたことにエイミは心から満足したのだった。

 その傍らでアルドたちも微笑んだが、リィカだけが別の方向を見て何かを考えこんでいた。


「ひょっとスルト……」

「どうしたんだ、リィカ?広告なんか眺めて」


 アルドの言う通り、彼女が見ていたのはビルの壁に貼られた映画のポスターだった。彼らが見てきた神竜物語の広告だ。


「この映画の話と似テイル気がシマス」


 突然、不思議な事を言い始めた彼女に全員が首を傾げた。

 本人は説明を続ける。


「あの映画に出テクル世界を滅ぼそうトスル邪悪な竜とソレを打ち倒す英雄たちデス。ヒュドラと戦ったワタシたちのメンバーと相似性がアリマス」

「え?そう言われると……」

「ああ!確かに似てるわね!」

「光の魔法使いはリィカ殿のメリル殿のことでござるな」

「呪われた騎士はサイラスの事かしら?」

「うむ。拙者のこの体は確かに呪いのようなものでござるからな」

「面白い偶然だな。ははは……」


 アルドたちはそう言って笑ったが、リィカの口調は真剣だった。


「相似性は82パーセント。偶然ニシテハ高すぎマス」

「え?」

「古代でワタシたちが倒したヒュドラの物語が神話トシテ残り、この時代で映画が製作サレタ……トイウ可能性はアリマセンカ?」


 リィカの推測を聞いてその場がしんと静かになった。

 あの神竜物語はヒュドラと戦った自分たちがモチーフになった。ありえないと思いつつも登場するキャラクターの役割や能力はよく似ている。

 アルドたちの行動がそのまま現在の歴史に収束し、彼らが伝説の英雄になったとすれば運命の神はよほど冗談が好きなのだろう。


「メリルは本当の英雄に慣れたのね……。あとで教えてあげようっと」


 エイミはぽつりと言った。

 その時、アルドがある事に気づいた。


「ちょっと待ってくれ。竜と戦った女戦士ってのはエイミだよな?」

「そうでしょうね」

「呪われた騎士はサイラスか?」

「拙者でござろうな」

「光の魔法を使う大魔法使いたちはリィカとメリルだよな?」

「ハイ。魔法はワタシとメリルさんが使用シタ光学兵器の事だと思ワレマス」

「じゃあ……荷物持ちの男は?」


 誰も答えなかった。

 消去法で一人しかない。


「お、俺は荷物持ちじゃない!ちゃんと戦ってたんだぞ!だいたい俺は~ヤンスなんて一言も言ってないぞ!」


 アルドは伝承の内容に抗議せずにはいられなかった。

 水上を走ってヒュドラと戦ったのは確かにサイラスとエイミだが、彼も沼の岸で必死に魔物と戦っていた。その努力が完全に無視されて「~やんす」の男に格下げされてしまったのだ。


「ま、まあ、2,3万年も経てば話の内容も変わるわよ!」

「伝承や伝説が美化されたり尾ひれがつくのはよくある事でござる!」

「気にするコトはアリマセン!あれは単ナル映画デスカラ!」

「俺は納得できないー!」


 やりきれなさを抱えるアルドを全員が励まそうとしていた。

 彼の妹のフィーネはその話を聞いてもう1度映画を見に行こうと提案し、エイミたちを連れて映画館へ行くことになったのだが、ポップコーンを片手に映画鑑賞で盛り上がるその場にアルドの姿はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エイミのハンター捜索記 M.M.M @MHK

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る