エピローグ
夏によく合う白いワンピースに麦わら帽子。
旅慣れしていない女性が降り立ったのは、ずいぶんと年季を感じさせる田中前と書かれた駅だった。
背格好も容姿も今まで複製されてきたサンプルの平均値に近く。これといった特徴のない姿とも言えた。
見た目だけの年齢なら20代前半と言ったところだろう。
女性は、駅を出ると迷うことなく歩き出す。以前働いていた職場に向かって――
夏休みだからなのだろうか、あまり学生の姿は見られない。
それは途中にあった高校も同じだった。
やがて、建設途中で工事が取りやめになった大きな建物が見えてくる。
いまさら行ったところで誰も居ないのは分かっているし、関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板を無視するつもりもなかった。
ただ、一目見たかっただけである。
ここまで来たついでみたいな感じで、さらに坂を登って行く。
この先にある公園も一目見ておこうと思ったからだ。
公園に足を踏み入れ中央付近にある噴水の所まで行こうとしたところで予想外の人物がベンチに座っているのが目に入り思わず足を止めてしまう。
彼は元同僚で、やや太めの女の子と並んでスケッチをしていた。
もしかして、付き合ってるのかな? 彼女なのかな?
なんか楽しそうにしているのを邪魔しちゃ悪いかなと思い女性は来た道を戻り始める。
『またね。ななちゃん』
実際に再会できるかは分からない。それでも女性は心の中で、そうつぶやいたのだった。
高架下のアヒル 日々菜 夕 @nekoya2021
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