epilogue 正体見たり
帰宅した玄野祢子は、衣服を脱ぎ捨てながら、浴室へと直行した。洗濯物の山ならぬ、洗濯物の道が出来上がる。
蛇口を捻ると、程よい温度のお湯が彼女の身体を流し、思わず彼女はゴロゴロと喉を鳴らした。
玄野祢子は、黒のネコである。化け猫である。
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「遅かったね、おかえり」
髪を拭き拭き、居間へと向かうと、葉月が待っていた。
「聴こえてたかもしれないけど…。根住くん、あんたには言わないで欲しいって言ってたよ」
「…そう、ありがとう」
背を向けた祢子はドライヤーをかけ始める。
「あんたを傷つけたくないんだってさー!」
そう声を張り上げて言う葉月の言葉は、聞こえたのかどうか…。祢子はチラッと横目で見て、何か呟いたが、それはドライヤーの音に掻き消された。
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「囮役、お疲れ様…。
怖かったでしょ…」
「…別に。いろんな仔たちから、彼がネコを殺してまわってる話は聞いてたし……」
不満げに顔をそらしたまま、頬杖をつく彼女に、葉月は手を伸ばしかけて、やめた。
遠くでサイレンのなる音がする。
「『嫌いだけど、殺したいと思ったことない』」
ため息をついて、祢子は口を開いた。
「賢くん言ってたじゃん?
あれ聞いて、コウくんも何か深い訳があるのかな?って思ったんだよね…でもさ」
彼女は顔を両手で覆うと、歯をぐっと噛み締めて叫んだ。
「何で、何であんなことで、殺されなきゃいけないの?!
人間だって、私たちに勝手なこといっぱいしてるじゃん!
そもそも人間がネコを飼い始めたんじゃない?!ちゃんと世話してもらえなくて、苦しんでる仔もいるんだよ!!
でも!だからって!殺して良いわけないでしょ!!」
辺りは再び静まりかえり、部屋には彼女の嗚咽が響く。
「そうね」
カーテンの向こうでは、もうとっくに朝日が空を照らしているだろう。
葉月は、机に突っ伏して呻る彼女を寂しげに見つめると、もう一度呟いた。
「…そうね」
猫のいない街。そこは、 おくとりょう @n8osoeuta
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