第4話
#12 12月22日〜23日
もうすぐクリスマスというのに、また災難が起きてしまった。
その時仕事中だった私は、ちゃんと判断もできずにパニック状態に陥っていた。そうすると勿論仕事中にも影響が出てくる。
私は、大きなミスを仕事中にしてしまった。
レジの点検表も訂正線でぐちゃぐちゃ。もし私が漫画の登場人物だったら、目が渦巻きになっていただろう。
先輩にも上司にも尻拭いをさせてしまって、申し訳無さに涙しか出てこなかった。
そんな日の夜だった。
頭がかち割れる程の頭痛に襲われていた。寒気もする。だが、このご時世的に家族に感染症だと疑われたら家庭はパニックになるだろうと思い、誰にも相談できず、ひたすらSNSの弱音を吐く為だけのアカウントで、頭が痛い、寒気がする等の弱音をたらたらと書いていた。
そこで予想も出来ぬ追い討ちに遭った。
「ほんとうるさい。さっさと病院行けよ。俺らは医者じゃねえ」
え、お前私の今置かれている状況分かっているのか?
弱音を呟くアカウントなのに、明らかに私に言っているような呟きがタイムラインに流れてきたのだ。
正直、これがトリガーとなり何日か身体的にも精神的にもキツくなり寝込む事となった。
身体が動かない。
精神的にもキツくて涙が出てくる。
そして何より、人間不信が強くなってその事を誰にも言えなかったのが辛かった。
行き着く先は此処だった。
もう死んだ方がいいんじゃないか?
私はその時、自殺というものを初めて真面目に考えた。ネットで「死にたい」と初めて検索してしまった。
朝日が昇っても、鬱のような状態が続き、割と衝動的に首を絞めそうな自分がいて、そんな自分がとても怖かった。
死にたいけど、死ぬ直前の一瞬の痛みが怖くて死ねなかった。安楽死できればいいのに。とか、「死ぬ前に店長に会えればいいと思った」と店長に伝えてから死のうかなとか、そんな事を考えていた。
とうとう首を絞めようかと考えた時、フッと浮かんだのが店長だった。
私は首を絞めるのをやめた。
そこからも変わらず寝込んでしんどかったが、ずっと店長が私の心の中に居座ってくれていた。店長の事を考えていたら、自然と心が穏やかになった。
私は動かない体で強く思った。
店長が死なない限り私は死ねない。
その後マスクを付けて寝たら自然と体調は回復した。今こそ自殺願望は無いが、あの時店長が心の中に居座ってくれなかったら私はこの世を去っていたし、こんな小説も残せていなかっただろう。
店長こそ私にとって唯一無二の存在。もう店長が居なければ生きていけない。
こんな小さな弱い身体で、勿論直接には出せないが、この件を通し私の店長への愛は異常な程に育っていった。
#13 12月25日
「おはようございます」
「おうおはよう。白田お前やらかしたんだって?笑」
もう店長に報告は回っていたようだ。店長の前では完璧な自分でなければ、と思っていたので凄く恥ずかしかった。
「お前はまだ経験値が足りていないんだから、先輩をもっと頼りなよ」
「でも、あれらは私の仕事ですし」
「でも、脳が正常に判断出来ない状態だったら、それは迷惑でしかないぞ?」
「そうですね……」
確かにごもっともだった。確かにその話も重要だが、店長にお話したいのはミスをした話では無い。
私は、つい数日前の出来事をざっくりと話した。
「休みの間、死のうかと考えていたんです」
「えっ、なんで?」
冗談だろ、というような笑い方をした。だが冗談では無いんだ。
ミスの事、SNSの事、そして誰にも相談出来なかった事。全てを話した。
店長の返答はこうだった。
「確かに俺らは医者じゃないけど、話は聞く事はできる」
涙が出そうだった。
生きてて良かった。と本当に思った。
店長には色々と迷惑をかけ続けたが、かけ続けたからこそ頼れる存在に進む事ができたと思った。
私はまだ生きる。店長が生きている限り。
#14 年末年始
「年末年始ママさん達が皆休んじゃってシフトがら空きになっちゃってるんだよね……白田助けてくれない?」
突然店長から年末年始ピンチヒッターのお願いをされた。確かに皆年末年始休みたいよな、私も休みたいよ。
だが店長から「頼っていい?」なんて言われたらもうはいかYesか喜んでの三択だ。
普通の日よりも比にならないくらいに混み、怒涛の六連勤だった。たかが六連勤、されど六連勤。疲労度も高く身体もキツかったが、六連勤が終わるにあたって身体が強くなっていくのを肌で直接感じ、もっと働く事を決意した。
連勤後のお休みは一日中ずっと寝たよね。
その連勤の休み明けである一月八日だった。
「年末年始ピンチヒッターありがとう!弱音も聞いてないし凄いじゃん!」
店長からくしゃっとした笑顔で私を褒めてくれた。
嬉しい。私は店長にずっと褒められたかったんだ。あわよくば認められたい。好きと言ってくれ。
「白田は年末年始休めた?」
「休める訳無いですよ!曜日感覚無くなりましたし!!」
「そりゃそうだよな笑」
店長は当たり前のように、「好き」と捉えられるような表現は使っていなかったが、私の店長への愛は深海の底のように深くなっていった。
だが、十二日、ここが大きな転機となった。
#15 エピローグ
何とおばちゃんの先輩が身体的にキツいとの事で、「火曜の午前と金曜の午後、シフト入れ替えてくれないかな?」と私に申し出たのだ。
金曜の午後は、唯一店長と一緒に仕事ができるシフトだった。
本当は譲りたくなかった。だけど、キツいと言っている先輩の事を見捨てる訳にはいかず、「いいですよ」と言ってしまった。
「金城くんに伝えたけど、来週からそのシフトという事になったから。よろしくね」
とうとう店長と一緒に仕事ができる日が無くなってしまった。
だが完全に会えないという訳では無かった。月曜のシフトの入れ替えで体感五分、店長と顔を合わせる事ができる。
だが、休みの日に職場で買い物をしない限り、店長に会える日はそれだけだった。
衝動的に「またラブレターを書こう」と思い、私は再度、三回目になるが店長に再び愛を伝えようと思った。
「私はまだ店長の事が好きです」
Lilac Lily 来羅 @BlueLaira
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます