第3話
#10月25日
その話は、先日残業をしていた時に突然店長から持ち込まれたものだった。
「白田、日曜の深夜2時から6時ってシフト出れたりしない?」
答えはノーだった。本当は出たいけど。ノー。と言うしか無かった。
うちの家庭は深夜の外出は基本禁止されている。一回目の告白の少し後、店長に会いに来た時にコンビニに行った時だって、親が寝ている隙を狙って行った。それなのに深夜シフトなんて親に伝えたら逆鱗に触れる事になるだろう。
「きっとダメだと思います。親が許してくれないと思います……」
「そこを何とか!そのシフト入ってた奴がばっくれちゃってさ!」
「とりあえず相談してみます」
残業を終え帰宅した後、母親と祖母の前でこの事を伝えたら、案の定猛反対された。
生活サイクルが崩れて体壊すよ!?とか、何かあったらどうするの!?とか。
だが、父親は「社会勉強という事でいいんじゃない?」という事で賛成はしてくれた。
夕飯の時に父親と母親で言い合いになった程、この件は大きな波になった。
「深夜シフトするくらいなら、バイトを辞めなさい」
私はこのバイト(というか私の中では仕事なのだが)に全てをかけている。辞めたくないし辞める気も無い。
正直、この件は自分が家族に縛られている事がはっきりと分かり、貯金をして将来独り立ちをすると決めた大きなきっかけとなった。
「補足としてここ10年くらいお店が経ってるけど、深夜の不審者は0人」
「深夜働く上でバックアップはしていくつもりだからお試しって形でもいいと思ってる。それでもダメだったらまた考えるよ!」
「頼んだ身としては白田自身日勤の働きも成長しているし、そこで深夜勤務も覚えて行ったら最強だから、ゆくゆくの自分のステータスに繋がってくると思ってるけど断られても落ち込まなくても大丈夫だからね!」
こう店長から伝えられても、やはり断るのは悲しかった。
店長の期待に応えられなかったという悲しみが体を這うように感じた。
とりあえず、母親からは「もう知らん!」と言われ自由にはなったので(なっていない)。お試しという形で一日だけ勤務する事になった。
それでも実は家族には深夜勤務を実際する事は直前まで秘密にしていた。
シフト前に「今から仕事だから」と伝えたら、思った通り母親は逆鱗した。家に居ても言い合いになるだけだと判断し、本来二時にシフト開始するが0時半頃に家を出た。
半泣きの状態で職場入りしたら、ベテランのおじさんだけがレジにいて、店長の姿は無かった。
店長なら裏駐車場で煙草を吸っていると聞いた私は、走って駐車場に向かった。
「白田!?こんな早くにどうしたんだよ」
スマホの明かりを付けながら煙草を吸っていた店長がそこにいた。
「店長……家族の反対を押し切って此処に来ました。私はこのに仕事が店長が好きです。何年も働きたいと思っ……」
深夜で何も明かりが灯っていない。
店長が目の前で聞いてくれているのに、涙で上手く伝えられない。何で。
私は、今の職場に就くまでは上京の事しか頭に無かった。
一度落ちたけど、大好きなテーマパークのスタッフに一番になりたくて上京を夢見ていた。
このバイトはただの上京資金稼ぎとしか思っていなかったのに。
今はこんなに、私の未来を動かす程この職場は私にとって価値は高いものになっている。
職場に居させてくれともお願いをしたが、やはり難民にする訳にはいかないとの事で断られてしまった。そりゃそうだよな。
それで難無く深夜のシフトは終わった。ゴミ捨てをする時に昇ってきた太陽がまるで女神のように眩しくて、とてもやりがいのあるものだった。
毎週やったらこんな朝日が毎日見れるのか……。とも思っていたのだが、この後13時からも仕事が入っていたので、帰宅後もあまり休めなかった。
結局、13時に入ったシフトは17時に終わる筈だったが次のシフトに入っている学生が一時間半遅れてきたので、本日の仕事時間は約10時間。帰宅後にお酒を飲んでも、仮眠をしても仕事モードの頭から切り替わらなかった
本当に今の体では身を滅ぼしかねないと思った。
店長曰く家に帰れないのは最悪の事態だと伝えられとりあえず深夜シフトは見送りとなり、今はそのシフトは店長が入っている。
「ばっくれた奴にもう信頼なんか無えよ」
深夜シフト中のその店長の言葉は、とても頷けるものだった。
#11
あの深夜の件から、体調を崩す事が多くなったので、シフトを減らす事を考えていた。友人にも「少しずつ慣れていく為にシフトを減らしたら?」と声が掛かった程だ。
だが、「今までできていたサイクルを崩すのは白田自身良くない」「半年は元のシフトに戻れないかもしれないよ?」と店長に脅しとも捉えかねないLINEが来て、少し店長にヘイトを向けていた時期が始まった。
だが、その期間に店長に助けられた日もあった。実績も家族の誰も認められなくなり、仕事も上手くいかずこの世から消えていなくなりたいと思っていた。
その時に店長からこう言われた。
「俺らが見てる」
その言葉に、救われた。
寝れなくてずっと店長に不安だ。眠れないのようなメッセージを送っていたが、熱っぽいと言っていた中朝方まで店長はずっと私を見ていてくれた。
今となってはただの迷惑行為でしか無いので一生こういう事はしないと強く思ったが、次の一緒のシフトで「あの時は本当に申し訳御座いませんでした」と頭を下げたら「本当だよ!笑」と笑ってくれた。
やはり私は店長が好きだ。と再確認できた期間であった。
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