第5話最悪な出会い
漫画コーナーまで歩いていると、後ろから呼び止められる。
「あの香保さん、おはようございます」
聞き覚えのある声で、振り向きたくない。
「えっと、香保さんですよね?」
振り向いて、返した。
「は、はい......げっ、やっぱり。おはよう、えっと......渚くん」
「眉をひくつかせながら、げって言われるの、傷付くんですけど。そこまで嫌われてるんですか?」
「そ、そそっそうじゃ......ないけど。会いたくは......なかった、というか」
頬を掻きながら、曖昧に濁した。
「正直すぎませんか、香保さん。オブラートに包んでほしかったです」
「ごめんって。だって......」
「もういいですよ。そこまで嫌ってるのに、何で嘘に付き合ってくれるんですか?」
「同級生でもないし、一緒のクラスでもないから。デートや周りに見せつけることもないし、ほっといてもいいかなぁ。みたいな?」
「好きな人がいるんですか、香保さん?」
「えっ、何言ってんの?」
「......」
「関係ないじゃん、渚くんには」
「そうですね。嫌われ者は香保さんの前から立ち去りますよ。好きなんだけどな」
彼が歩きだそうとしたとき、最後が聞き取れなかった。
「ちょっと、渚くん。今なんて?」
彼は、立ち止まることなく、二階に向かう。
私は、その場に立ち尽くした。
嘘だ、聞き取れなかったわけではなく、聞こえないフリをした。
「おーい、香保。遅いから来てみれば、立ち尽くしてるけどどうした?」
後ろから克樹が身体を揺らしている。
巻きこまれ体質の彼女は咄嗟の嘘に付き合わされる 闇野ゆかい @kouyann
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