第12話「体育祭」
学生限定の祭り。体育祭。文化部のお披露目会に対して運動部が己の活躍を見せびらかす日。
俺の高校は学年別クラス対抗と全校クラス別対抗が同時に実施される。優勝クラスはもちろん担任からのご褒美と学校からのご褒美付きとあって盛り上がる。そんな体育祭も残すところ一種目。炎天下であろうと熱気と興奮は収まることを知らない。
どのクラスも狙う総合優勝。学年無差別の優勝はどのクラスもの憧れだった。そんあ総合優勝が懸かった大一番。我がクラスは二年生ながら三年生を抑えながら総合優勝に大手を掛けていた。ただそれは自分たちだけでなく同じ得点で大手を掛けるクラスがいた。三年生のとあるクラスだ。最終種目の男女混合リレーの順位で優勝が決定する。順位が上の方が優勝となる最終種目。
三年生のチームは男子は野球部を中心としたチーム構成でアンカーは野球部キャプテン。野球部内最速と言われる人物だ。
対して俺たちはクラス内で足の速いメンバーを集めたパッとしないチーム。アンカーを務める俺は陸上競技部だが三年生が存在しない弱小陸上部のキャプテン。ハッキリ言って嘗められている。実際学内でも三年生の優勝に予想が傾いている。
それでも決して諦められるわけもない。
リレーの各位置に移動が始まる。スタンドから「頑張れー」という応援が届く。九月の気温に負けないような熱気のこもった応援が会場を包む。各自スタート位置に着く。
「位置について」
体育祭特有の合図とともに静けさと緊張が場を支配する。
「よーい」パンッ
雷管の音と同時に第一走者がスタートする。自分のクラスの第一走者である女の子がフライングを気にして少し出遅れる。
けっして遅くも早くもない走りに順位の変動はなく第二走者にバトンがわたる。各クラス最終種目とだけあり気合の入れようが違った。どのクラスもクラス内でトップクラスの走力を持つ男子が出そろっていた。
自分のクラスの男子も決して悪くはない走りなのだが距離を縮めることも離されることもなかった。しかし、一つ違ったのは対抗馬であった三年のクラスはグングンとスピードを上げていき一位へと躍り出る。それに対して俺たちは最下位。下剋上を期待していた歓声は既に絶望に変わりつつある中で第三走者にバトンが繋がる。
けれども、劇的な順位の変動はない。それどころか首位と最下位との距離は少し離されたままレースは進行していく。
三年生のアンカーである野球部部長は横に立ち勝ち誇った顔で「俺たちの勝ちだ」という一言を残し、バトンとともに走り抜ける。その後も他のアンカーが飛び出していき最後にバトンを受け取る。
「ごめん」
第三走者の女の子受け渡しでそうつぶやく。
「余裕」
と答えて走り出す。
この時の首位と最下位の距離は10m、時間にすれば1秒。自分たちのクラスを含む全員が諦めと落胆の声を漏らす。普通の感覚で行けばそうなる。アンカーの残り200mで10mほどの距離、相手は野球部最速。陸上部といえども学年は1つ下。
けれども、皆間違っている。所詮は野球部、200mを全力疾走することに長けていない。さらに言えばその予想は俺の記録を一切考慮していない。50m走だけで見れば速い方に分類される俺だが、陸上競技の短距離の本質は前半ではない。後半50m以降の伸びだ。前半の50m以降にスピードが上がる。
そんな陸上の事情を知らないまでも決して諦めない応援がスタンドから届く。自分が出せるめい一杯の応援。その声に押されるようにグングンと加速させていく。
前を走るアンカーを一人また一人と抜かすごとに歓声が蘇る。
「もしかして」という期待が膨らむ。
長い間陸上競技で鍛えぬいた無駄のないフォームで走り抜ける。
いくつも上がる歓声の中から何故か一人の声だけが耳に届く。
ラスト50mで追いつく。
ラスト30mで並ぶ。
三年の野球部キャプテンが丸坊主に血管を浮かべながら抜かれないようにと走りに力を込める。けれどもそれは決していいことではなく、その行動が元々汚かったフォームを乱す。
ラスト20mで完全に抜き去り、その後もスピードを上げていき距離をあける。
最後のゴールインは陸上競技特有の胸から入るフィニッシュ。ゴールテープを切る。その瞬間にスタンドから大歓声が上がる。
ゴール後、自分のクラスの元へと駆けより勝利のVサインを掲げる。傍からはクラス全体にしているように見せかけ、最後まで応援してくれた女の子に向かって全力のVサインと笑顔を送った。
超短編小説集「青」 @kisaragi_uiha
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