第11話「雷」

 暑さのピークが少し過ぎ日中が過ごしやすくなった9月の頭。短くなった日の夕暮れ。予報通りの雨と予想以上の降水量で雷雨がやってくる。帰宅途中、駅のホームで雷雨を眺めていた。あり得ないとは分かっていながらもへそを隠したくもなる雷に周囲の人々は怖がる人もいれば楽しそうな人もいた。

 そんな光景を振られたばかりのなんとも言えない感情で眺めていた。

 感傷的になっていたせいか8年も前の奇妙な思い出と数式が脳内で踊り始めた。


 8年前のちょうど同じ時期、科学部に所属していた俺は一か月先に待っている学祭の準備をしている時だった。

 今と同じように雨と雷が鳴り響いた。科学部の活動場所の科学室からボーと雷を眺めていた。横並びの大きな窓から見える景色はテレビで見る台風中継のそれと似通っていた。

 ただ一つ違う場所があるとすれば数分おきに落ちる雷だろう。

 この時もやっぱり同じように怖がる奴や楽しんでいる奴がいた。けれども彼女だけは違った。

 最初、俺と同じように外の景色を眺めていた彼女だったが先輩の誰かが自作したラジオから流れてくる天気予報でしばらく雷雨が止まないことを知るや否やホワイトボードと地図とストップウォッチを取りだしてくる。

 携帯で調べた外気温をもとに音の速度を計算し、雷が見えた瞬間にストップウォッチをスタートし音が聞こえた瞬間に止める。その秒数から距離を計算する。そして学校からどの地点に落ちたのかを地図上で確認する。

 その姿は嬉しそうで楽しそうで生き生きしていた。普通この状況ならば「キャー」と怖がる少女の方が可愛く男受けがいいのだろう。

 彼女同様に変わった人間だった俺だった。けれども荒れ狂う天気の下で雷を背景に笑顔で白衣をたなびかせる姿を可愛いと思ってしまったのは惚れたからだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る