第10話「チェリオ」

 セミの大合唱が鳴り響くコンクリートジャングル。遠慮なく降り注ぐ太陽光は地面を焼き、アスファルトはカラーコーンを溶かす。汗は際限なく流れ落ち、張り付くYシャツは不愉快な感覚になる。

 営業の外回り、足りなくなった水分を補給するために自動販売機へと立ち寄る。いくつか一緒に並ぶ自動販売機の中に一つ懐かしいものがあった。

 懐かしさのあまりその自動販売機から一本ジュースを購入した。「日本のサイダー」と銘打たれたジュースを開封してすぐに半分以上飲み干す。喉が潤い一息つきパッケージを見る。味もパッケージはよく飲んでいたあの頃から何一つ変わっていなかった。

 

 中学生の頃、学校の近くにチェリオの自動販売機が一つだけあった。部活動の帰りに少ないお小遣いの中から百円だけを使い買ったジュースと給食で余ったパンで小腹を満たしながら仲間とともに帰路に着いていたことを思い出す。

 無論買い食いの類は禁止だったので先生にはバレないように買っていたのだ。

 思い出がこれだけではない。

 ある日、幼馴染が部活動中に「一緒に帰ろう」と誘ってくる。季節は夏ではなく指先まで凍る冬。体を温めるために温かい飲み物を購入する。もちろん金なんてある訳もなくチェリオの飲み物一本だ。

 普段友達と帰るときには甘いジュースばかり飲んでいるにも関わらず、この時ばかりはブラックコーヒーを飲む。我ながらにカッコつけすぎだと思った。

 彼女はホットココアを両手で挟み込みながら、俺はブラックコーヒーを片手に持ちながら二人並んで歩く。

 「そっちの飲ませてよ」と少し遠慮気味の彼女のお願いでお互いに飲み物を交換する。

 「甘い」

 「苦い」

 二人ともお互いの飲み物の感想を言いながら互いに笑い合う。けど少し遅れて間接キスに気づいて頬を赤く染める。気が付けば握っていた飲み物は冷めてしまう。顔が赤くなるのは寒さのせいにして帰った。


 結論からいってチェリオは青春の味だ。

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