依頼
考作慎吾
第1話
体躯の良い男は鼻歌混じりに先程きた依頼のメモに目を通す。依頼というのは、とある女の部位を破壊し除去することだ。
道具は仕事部屋に用意をして、あとは女を仕事部屋に連れて来るだけだ。
男はメモを仕事部屋の壁に貼り付けると、一度部屋から出ると一つの麻袋を担いで戻ってきた。軽々と麻袋を大きな作業台の上に置いて紐解くと、中から依頼に書かれていた女が姿を見せた。薬を飲まされたのか、女はグッタリと項垂れて目を閉じている。
男は女を麻袋から取り出すと、慣れた手つきで女の四肢を作業台に備え付けてある拘束具で大の字に固定する。
女は白いワンピースときらめく金髪が作業台に広がり、彼女の容姿により標本に飾ったかのように見える。
男は軽く女の頬を叩くと小さく呻いて女がゆっくりと目を開けた。宝石のように輝く瞳が男の姿を捉えると、顔からこぼれんばかりに目を大きく見開いた。
男は女の意識が戻ったことを確認すると仕事道具を吟味し始める。そこにはナイフからノコギリ、チェーンソーなど何かを切り裂くに適した物ばかり並んでいた。男はその中から一つの道具を手に取る。すらりと大きな包丁が部屋の灯りで鈍く光り、反射して女の姿を見せる。女は男の行動に首を横に振り、口を何度も開閉する。薬のせいか恐怖のせいか女の口から漏れるのは荒い息だけだった。唯一女の首元から下げている黄金の懐中時計だけが彼女の代わりに怯えを男に教えていた。
男はそんな女の様子を気にすることなく、女の服に包丁を当てて力任せに引き裂く。絹を裂く音とともに女の薄い腹部が露わになる。包丁の切っ先がかすったのか一線の赤い傷が出来、赤い血の玉が浮かび上がる。
「〰〰っ‼︎」
女は声にならない絶叫を上げると、男はその様子を合図に包丁を深々と傷に向けて突き立てた。今度はゆっくりと包丁を腹部から抜きながら傷口を開いていき、先程の血の玉が蛇口のように流れ始めた。女は激しく首を横に振り抵抗するが、それ以外はピクリとも動かないので男は気にせず傷口に両手でこじ開ける。腹部を開くと臓器がピクピクと蠕動している。男は両手で腹部を掻き回し、手当たり次第に臓器を無造作に引き摺り出す。激しく中を掻き回し臓器を外に放り投げている為、男の体は血に塗れて仕事部屋の壁や床に赤い汚れが飛び散ってしまった。女は男にされるがままに体を揺さぶられ、虚空を見つめて口をだらしなく開けていた。
暫くすると男は手を止めて女の体から何かを取り出す。それは5センチくらいの大きな石ころで、男は道具からガラス瓶を選ぶと蓋を開けて、その中で石ころを砕いた。男が軽く力を入れると石ころはどろりと血と共に液体となってガラス瓶の底に溜まった。男は蓋を閉じて包丁も同じ場所に置くと、女の顔に近づき様子を伺う。女はか細い呼吸音と虚ろな目でをしており、今にも命の炎が消えてしまいそうだ。男は女の四肢を拘束具を外すと男は女に耳打ちをした。
「依頼が完了致しました」
男は粗暴な作業とは真逆の優しい声でそう告げる。女は男の言葉を聞くと、にんまりと口角を上げて首からぶら下げていた懐中時計に手を伸ばす。女が懐中時計のボタンを押すと、懐中時計は針を逆回転させていきそれに連れて女の体は徐々に再生されていく。そして完全に女の体の傷が無くなると、一つ大きなため息をついてヨイショッと体を起こした。
「あ〰、スッキリした!」
女は破れたワンピースから覗く自身の腹部を撫でながら満足げに呟いた。
「違和感はありませんか?」
「もうバッチリ快調よ!流石ドクター、いい仕事するねぇ」
男が汚れた包丁をタオルで拭いながら女に尋ねると、女は親指を立てて元気よく答える。
「年に数回、体内で石が出来るなんて難儀ですね」
「本当よ。普通の方は数年に一度だと言うのに、石ができる度に体調も優れないから、この体質を呪うわ」
「その分僕の仕事が増えるので助かってます」
ぼやく女に男が冗談混じりに告げると女は少しムッとした表情をしながら仕事部屋から出て行く。数分後に女は男の元に戻るが、破れた血塗れのワンピースから動きやすいジーンズとワイシャツに着替えていた。後ろで1つに纏めた長い髪を揺らしながら、女はショルダーバックから数枚のお札を男に差し出した。
「はい、今回の依頼分」
「……確かにちょうどいただきました」
男は女から貰ったお札を数えて、作業着のポケットに仕舞い込む。
「それじゃあまたお願いするわね」
「はい。いつでも連絡してください」
女が出て行こうとするので、男は出口まで行き見送りをする。
「本当にありがとう!」
女は扉を開けながらとびきりの笑顔で男にお礼を言ってから外へ出入った。男は手を振って女の姿が見えなくなるまで見送ると、仕事の疲れで大きく伸びをする。
ふう、と男は一息つくと空に輝く緑の太陽を見て、もう一仕事出来そうだけと考えるのだった。
終わり
依頼 考作慎吾 @kou39405
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