エピソードⅢ 終戦

某部室―― 12:50時 

 

 オカ研の一部始終を見ていた静流派総長は、複雑な面持ちだった。


「何だと思えば、静流様を誕生日のゲストに迎えただけか? チッ、紛らわしい」


 総長は安堵と共に舌打ちした。


「後は放課後だな。校門さえ無事に脱出出来れば、美千留嬢のテリトリーとなる。そうなれば我々の勝ちだ」




校門―― 16:00時


 無事に放課後となり、帰宅の用意を始める静流。と達也がニヤけた顔で近づいて来た。


「静流ぅ、コレ、なぁーんだ?」


 達也はCDケース程のサイズで可愛いラッピングを施した包みを見せびらかす。


「あ、もらったんだ! よかったじゃないか達也!」

「ああ。幸せって、今みたいな時の事なんだな? ハハハ」


 男どもが肩を組み合って喜んでいる。真琴は朋子に話しかけた。


「ちょっと朋子、あれ、アンタのじゃなくない?」

「うん。だってアタシの、まだココにあるもん」


 達也は他の女の子からもらったようだ。朋子の表情はカタい。


「おい、中、開けてみようぜ? 静流」

「ちょっと、それはどうかな。そう言うのって、家に帰ってから開けるもんだろ?」


 いささかデリカシーに欠ける達也をいさめる静流。


「いいんだよ! えーなになに? 親愛なる、静流……様へ?」

「は? 僕?って、うぇぇぇぇ!?」

 

 達也が開けたチョコ? には、静流あてのメッセージが入っていた。

 しかもチョコはブクブクと増殖を始めている。


「うわぁぁぁ……あれ?何だ? コレ」


 暫く増殖を継続していたが、やがて固有の形を作り始めた。

 完全に動きを止めた時、チョコは等身大の人型になっており、

 ビキニアーマーを着けた抜群のプロポーションの美女であった。

 メッセージカードを拾った静流は、目を疑った。


「私を美味しく召し上がれ、静流様♡ だって」

「うわぁぁぁ、俺、バカみたいじゃんか」


 呆然とたたずむ静流と、頭を抱え、身もだえている達也。


「土屋、誰からもらったの? それ」

「俺の机の中に、入ってた」

「プッ、単に間違ったって事?」

「笑うな伊藤! 結構傷付いてるんだぞ、これでも」グス


 朋子と達也のやりとりを、心配そうに見ている静流。と朋子が、


「しょうがないなぁ、はい、これ」

「へ? 俺に? イイのか?」

「余ったからあげる。モチ、『義理』だけどね」パチッ


 ウィンクした朋子が達也に渡したチョコは、包装の凝り具合から、どう見ても『本命』だった。


「その代わり、楽しみにしてるわよ? 来月」

「お? おお。期待してくれ!」

「最低でも、3倍返しだからね?」

「うっ、前向きに検討しますです」

「ヒューヒュー、憎いよこのぉ!」


 周りの野次に、朋子が顔を赤くしてそっぽを向いている。達也は後頭部を搔いて照れ笑いを浮かべている。


「向こうは綺麗にまとまったみたいね。問題は……」

「なぁ真琴、これってどういう意味なんだ?」

「知らないわよ! フン!」

「でもさぁ、大きすぎて持って帰れないじゃん、これじゃあ」

「分解する? 手伝うよ。丁度むしゃくしゃしてた所だから」


 真琴は指をポキポキと鳴らし、等身大チョコに向かった。


「ちょっと待ってよ、何か、意味があるんじゃないか?」



          ◆ ◆ ◆ ◆



 静流は困った時に頼りになる木ノ実ネネ先生を呼び出した。


「で、何なのコレは、誰がやったのかしら?」

「それが良くわからないんです。だから先生に相談を」

「手掛かりは無さそうね。アナタ、本当にこの人に似てる人、知らないの?」

「はい。わからないです。あ、そうだ、イタコさんに見てもらおう」

「イタコって、板倉さんの事? そうか、霊視させるのね?」




          ◆ ◆ ◆ ◆



「見えました。このお姿は、女神様です」

「女神様ですって? 本当なの? 板倉さん?」

「戦の女神様です。名前は……生まれたばかりで、まだ無いそうです」

「どうしてそんな代物が、ココに?」

「わかりません。とにかく食べろ、と言っています」

「食べろ、か。ちょっと失礼しますね?」ポキ


 静流は女神様チョコの指を折り、口に運んだ。すると、


「では頂きます。パク。ポリポリ」


 パァァァァ!


「うわぁぁぁ」


 静流は、突然桃色のオーラに包まれ、姿が見えなくなってしまう。


「静流! 静流ぅ、どこ? どこにいるの!?」


 真琴は取り乱し、静流を探している。


「ココ、ココにいるよ」

「静流、しず……誰?」

「僕だよ、静流だよ」


 木ノ実先生が鏡を持って来て、静流の前に置いた。


「見なさい、コレが今のアナタよ!」

「うぇ? コレが、僕ぅ?」


 今の静流は、等身大チョコの女神像と瓜二つであった。


「あら? 五十嵐クン、顔にヒビが入ってるわよ?」

「え? あ、ホントだ」


 静流が手で顔を触ると、ぱらぱらと表皮が剝がれていく。すると、


「うわぁ、眩しい!」パァァァ


 静流の身体が桃色に発光し、まばゆい光を放つ。

 しばらくして視力が戻った静流は、みんなを見た。


「あれ? 何やってたんだろ? 僕」

「そんなの知らないわよ、大体何で私が1-Bの教室にいるの?」

「何かあったんだけど、何も思い出せないわね」


 一同がまるで狐につままれたような顔で呆けている。とイタコが、


「女神様が、たった今、誕生しました」


 と晴れやかな顔で言った。



某部室―― 16:30時 

 

 1-Bの一部始終を見ていた静流派総長は、言葉を失っていた。


「何があったんです? 総長」


 総長は顎に手をやり、つぶやいた。


「わからん。女神が誕生した、とか言っていたな」


 静流が校門を出ていく様を見届け、総長は安堵の溜息をついた。

 そして、勝どきの声を上げた。


「皆の者! いろいろと不可思議な一日だったが、静流様は今、無事に帰られた。つまり、我々の勝ちだ!」


「「「うぉー!」」」



帰り道―― 17:00時



 バス停から家に向かい、歩いていく二人。 


「ふぁぁ、何か変な一日だったなぁ、真琴」

「そうね。静流、これ渡しておくわ」


 真琴はカバンからチョコを出し、静流に渡した。


「え? イイの? 真琴ってこう言うイベント、嫌いだったろ?」

「イイの! 気が変わる前に、しまってよ」

「わかったよ。はぁ。今年も結局、義理チョコだけだったなぁ」


 静流は、真琴からもらったチョコをしまいながら、愚痴った。


「静流? どの口が言うのかな? そんな事」

「あり? 怒ってます? 真琴さん?」

「もう、知らない!」フン

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聖戦士バレンタイン ~モブ乙女たちの長~い1日~ 殿馬 莢 @NANBU_TYPE14

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