遠景
塩野ぱん
遠景
二〇〇二年――
東京駅から新幹線に乗って、一時間ほど。乗り換えた越後湯沢駅は雪の高い壁が迫っていた。そこから待ち時間を経て、特急はくたかに乗り換える。雪壁の中を進む電車に不安を感じていると、徐々に視界が開けてゆき日本海に出た。冬の日本海は灰色の低い雲の下、白の波を大きくうねらせていた。自分の知っている太平洋とは全然違う海を、
越後湯沢から二時間半。電車はようやく目的の高岡駅に着いた。富山県高岡市。富山県の北西部に位置し、県内第二の都市である。
ホームに降り立つと、その空気の冷たさに小さく身震いをする。肩下まである巻いた髪が、ふわりと風で舞った。そっと真っ白な息を吐き、希子は気がついた。そうだ、空気が水気を含んでいて乾燥していないのだ。東京に比べて、まとわりつく空気がとても柔らかい。
駅員のいる改札口を抜けると、目の前に長身の青年が立っていた。紺色のダウンジャケットに黒のスキニーのパンツ。かつて長めのストレートだった髪は、短く刈り上げられ上を向いていたが、彼が
胸の前で小さく手を振る。それを認めた周が、頭の位置まで右手を上げた。
「ひさしぶり……」
「ひさしぶり」
乗ってきた電車の中で色々言葉を用意してきたのだが、出たのはごく普通の挨拶だった。まるでおうむ返しのように周も同じ言葉を繰り返す。会ってすぐなのに、少しの緊張と気まずさを含んだ沈黙が二人の間を流れた。希子は微笑もうとするが、口の端が強張ってしまい顔を歪めた格好になってしまう。
「車、外にあるから」
沈黙に耐えられなくなったかのように、周はそう切り出した。何も言わずに希子が持っているボストンバックを手に取ると、駅の外に向かって歩き出す。希子も慌てて後についていく。下唇を噛みしめると口の端から白い息が漏れた。
駅の外のロータリーには、端に雪が高く寄せられていた。路線バスが一台止まっているだけで人影は殆どなく、閑散としている。周は、駅から出てすぐの場所に止めてある白のワンボックスカーに近寄って行った。ホンダのオデッセイだった。
「周の車?」
東京では車は持っていなかったし、周が運転するところも見たことなかった。
「そうだよ。こっちは車がないと生活できないから」
鍵を開けながら、周が答えた。
希子は黙って助手席に乗り込む。続いて後部座席に希子のバッグを置いた周が、運転席に乗り込んできた。車の中は何の飾りもなく、買った時のままのようだった。シンプルで無駄を好まない周らしいなと希子は思った。
「どこか行きたい所ある?」
エンジンをかけて周が尋ねてくる。視線はメーターパネルにあった。
「一般的なところだと……瑞龍寺とか、高岡大仏とか―─」
希子は唇に人差し指を当てて考え込むような仕草をすると、少し間を置いてから答えた。
「周の働いているところ」
「えっ?」
思いがけない言葉だったのか、周が振り向いて希子を見る。至近距離で目が合った。かつては見慣れた色素の薄い瞳が揺れて、希子を見つめていた。
「周が働いている場所。見たいの」
希子は繰り返した。
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……」
希子がこういう言い方をすると、周は決してダメとは言わない。それを分かったうえでのお願いだった。
「わざわざこんな遠くまで来て、行くほどのところではないけどなあ」
周は首を曲げながら呟き、ブレーキを解除してハンドルを持った。
ロータリーを抜けてからは、昔からあるようなアーケード街が続く。雪のせいなのか元々そうなのか、シャッターを閉じている店も多く、相変わらず人影はあまり見えなかった。
「雪、多いやろ」
運転しながら周が話しかけてきた。駅前から続いた商店街を過ぎると、車道は路面が見えているものの、脇や歩道は真っ白な雪が覆っていた。民家の屋根にも多くの雪が積もっている。今日は快晴だった。それでもたくさんの雪が溶けていく気配はなかった。
「途中の越後湯沢で、電車から見える雪だらけの景色にびっくりしたけど。高岡もなかなかだね」
希子は先程、はくたかの車窓から見た景色を思い出す。越後湯沢の近くは雪の壁が線路に迫り、町中が雪に埋もれているような印象だったのだ。
「越後湯沢は内陸だからね。さすがにあそこまでは滅多に降らないけど、今日みたいに晴れる日は殆どないよ。いつもどんより曇っているか、雪降っているかで。晴れ女の希子が来たからかな」
周は緊張が解けてきたのか、富山の雪について語りだした。言葉のアクセントが東京にいた頃のものと違っている。富山弁らしい。
周は百年以上続く、伝統の高岡銅器を作る鋳造所の長男だった。ゆえに生まれも育ちもここ、高岡だ。だけど東京では、希子の前では、一切富山の訛りを出さなかった。
車は大きな通りから細い路地に入り、波状のトタンでできた灰色の建物の前で止まった。平屋建ての、視界いっぱいに広がる非常に大きな建物だ。駐車場は十台ほどのスペースがあり、建物の駐車場側はすべてガラスの窓でできていた。建物の中には棚があって、大小の器や花瓶のような形をした沢山の作品が並べてあるのが見えた。
車から降りる。見上げると建物には『金森鋳造所』と大きな筆文字で書かれた看板がつけられていた。金森は周の苗字だった。
「汚くて古いんで驚いたやろ?」
見るとトタンでできた建物のところどころには、赤茶けた錆も見える。確かに古そうだが、汚いというよりは趣があった。
「大きくてびっくりしてる」
実家が何代も続く鋳造所と聞いていたが、ここまで大きいとは思ってなかった。三年も一緒にいたのに、実家の話などほとんど聞いたことがなかったからだ。
「田舎だからね」
周はそっと微笑み、先に立って歩きだす。中からは特に何の音もせず、人の気配も感じられなかった。
「今日は休みで誰もいないんだけど」
今日は日曜だ。だから周が会ってくれるだろうと思って、希子はこの日に来たのだった。
周が建物正面にある、大きな両引戸の鉄製の扉の鍵を開けた。右側の引戸を重そうに両手で引くと、薄暗い内部に一気に陽が入り込んでくる。目が慣れるとおぼろげに内部が見えてきた。大きなタンクのようなものや、ベルトコンベアのようなものが両脇にあり工場のようだった。
「ここで、働いているの?」
想像と少し違っていたので、希子は戸惑い気味に周を見上げる。
「お父さんが伝統工芸士って聞いたから、もっと作家の作業場みたいなの想像してた」
「勿論そういうところもあるけど……俺は、まだ一年目だから。昔から親父や爺さんのすること見とったけど、まずは基礎から始めないと」
周は希子の期待外れのような反応を、最初から分かっていたかのように落ち着いた笑みで受け止めていた。
──一年前のあの日。
突然希子は周から聞かされた。
「親父が倒れた。自分が実家に帰って継がないといけない」
と。
周の大学卒業間近だった。既に外資系の銀行に就職が決まっていた。周が目標にしていたドイツの銀行だった。それなのにそれを蹴って、希子も置いて──
銀行への就職を辞めてまで戻った実家だ。てっきり、伝統工芸士を継ぐために作家のような生活をしていると思っていた。それが基礎から始めるといっても、こんな工場のようなところで働いているなんて。
希子は鋳造所の入口で、ぽかんと口を開けて中を見ていた。立ち入っていいものか戸惑うというよりは、これ以上周の職場を見て自分が何かを感じることを恐れてそこに立ちつくしているというようだった。
ふいに後ろから、はしゃいだ子どもがあげるような軽く高い声が聞こえてきた。
「あれ、お兄ちゃん? 今日、休みやないがけ?」
振り向くと、真っ赤なショートのダッフルコートを着た女の子が立っていた。二つに分けた髪を耳下で結んでいる、高校生くらいの子だった。寒いというのに太ももを露わにした、チェックのミニスカートを履いている。
女の子は周を見上げて話しかけていたが、希子の姿を認めると、一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔になった。
「あっ! お兄ちゃん、彼女連れてきたん?」
「えっ、あの、いえ……」
希子は慌てて手を振り、否定しようとする。それに被せるように周は呆れた声を出した。
「大学の後輩。東京から観光に来て寄ってくれたの。変なこと言うな」
「ええー?」
周は、不満げな声を上げる妹から希子に視線を移す。
「俺の妹。萌っていって高校生なんだ。萌、こっちは後輩の須藤希子さん」
「須藤です。お兄さんにはお世話になっています」
希子は妹の萌に向かって頭を下げた。萌は申し訳程度に頭を下げたが、相変わらずじっと希子の顔を見続けていた。
「えっと……」
「――萌」
希子が萌の視線に戸惑っていると、周が萌の不躾な視線を咎める。それでも萌は全く気にせず、希子を見続けていたが何かを思い出したように、大きく目を見開いた。
「あっ、やっぱり彼女やろ! 私お兄ちゃんの家で、お姉さんの写真見たことあんがやぜ」
「え」
希子は驚いて声を漏らす。周が、自分の写真を持っている?
「家の机の引き出しん中に、大事にしまってあったが」
「お前なあ、泥棒みたいなことすんなって」
言葉は怒っているが、声の調子は呆れたような感じで周は萌の頭を軽く小突いた。妹が可愛いのだろう。
「へへっ」
それを分かっているのか、萌は全く悪びれた様子もなく可愛く舌を出した。
「なん、俺は振られたが。だから彼女やない、後輩なが」
つまらなそうに周は言い、鋳造所の扉を閉めると希子と萌に背中を見せ、車に向かってさっさと歩きだした。その場に取り残された希子は慌てて萌に軽く頭を下げ、周の後を追う。二人は黙って車に乗り込んだ。
再びぎこちない沈黙が希子と周を覆う。
何も言わずに周はエンジンをかけ、車を動かし始めた。今度はどこに行きたいか、希子に聞きはしなかった。鋳造所がある狭い路地を抜けて、先ほどの大きな道路に出る。周はそのまま駅とは逆の方向へと、車を走らせた。
「お父さん、その後どうなの?」
希子は運転席の周を見て尋ねた。希子の声を聞いても、周の視線はそのままフロントガラスの向こうだった。
「退院して家には戻ってきているけど、脳梗塞で倒れたからね。それの麻痺が一部に残っていて、今まで通りとはいかないな」
そこまで言うと、周は一瞬ちらりと助手席の希子を見てすぐにまた視線を前に戻した。
「俺も実家に戻って、親父の身の回りの世話を助けるつもりだったけど、親族とか全部一緒に住んでるからその必要はないって断られて、近所で一人暮らししてる。それより仕事に専念して、早く一人前になれってさ」
「……そうなんだ。大変だったんだね」
周にとってこの一年が、今までのものとは全く異なるものだったのだと、希子は改めて突き付けられた気がした。
「希子だって」
周の言葉に、うつむきかけていた希子は顔を上げて再び周の横顔を見た。
「聞いたよ、CAに決まったって。このご時世なのにさすがだよな」
共通の友達か、学科の誰かに聞いたらしかった。外資系航空会社の国際線キャビンアテンダント。ずっと目指していた職業の内定を、昨年の夏に希子は掴んでいた。
「確かにCAには決まったけど、契約社員だよ。正社員じゃないの」
「今はどこも正社員で取ってないだろ。採用自体凍結している企業も多いし。そんな中ですごいやないか」
首を振る希子に、周は笑顔を見せた。小さな子どもをあやすような、目じりにしわを寄せた優しい笑顔だった。かつて何度も希子に向けられた笑顔。
二〇〇二年、就職氷河期と言われる時代。一年以上就職活動をしても内定を貰えないまま、卒業間近のこの時期を迎える四年生も多かった。希子は大学入学した時から憧れていたCAを目指して、三年の冬から就職活動をしていた。それでも結局、正社員ではなく契約社員としてしかCAになれなかったのだった。とはいえCAに限らず、今年は正社員採用をしないとする企業も多く、契約社員ですら内定を決めるのは大変だったのも事実である。
一学年上の周だって、状況は似たようなものだった。そのなかで周が銀行の内定を貰えたというのは、素晴らしいことだった。学科の友達や周りのみんなにすごいと称賛され、彼女である希子も嬉しくて仕方なかった。
それなのに、周は卒業間近の四年の二月に、突然富山に戻ることを決めたのだった。
「嘘つき」
大きくカーブする車に身をゆだねながら、希子はつぶやいた。
「え?」
希子は手の甲を口に当て、頬を膨らませながら少し怒りをにじませて続けた。
「振られたのは私のほうじゃない。なんで妹さんにあんな嘘言ったの」
希子に恥をかかせないつもりだったのか。だけどそんなことされると、かえって傷つくものだ。
大きなカーブはまだ続き、周は顔を前に向けたままだった。それでも一瞬瞳だけを希子に移し、怒った顔を確認した。
「……嘘じゃないよ」
「何言ってるの。別れようって言ったの、周のほうだよ」
希子は外国語学部の学生だった。周は同じドイツ科の一年上。入学して間もなく、シラバスや教授のことで先輩に話を聞こうと、たまたまそばにいた周に希子が話しかけたことがきっかけとなり、二人が付き合い始めるのにそう時間はかからなかった。
入学してすぐに付き合いだした周。希子の大学生活は常に周と一緒で、周の中にあった。それは卒業してもずっと変わらないと思っていた。
それなのに一年前、何の相談もなく実家に戻ると突然言い出した周は、続けて希子に告げたのだった。
「俺たちも終わりにしよう」
と。
道は大きなカーブを終えて、直線になり信号で止まった。周はまっすぐな瞳で希子を見つめた。笑ってない、怒っていない、無表情で真剣な顔だ。
「確かに別れようって言ったのは俺だけど、言わせたのは希子だよ」
「どういうこと」
希子は目を大きく見開いて、周に尋ねた。全く意味が分からない。自分が別れを促した覚えも、別れたがったことなどただの一度もなかったからだ。
信号が青に変わり、周は希子を見ないまま答えた。
「希子はずっと一緒にいたがっただろ。離れるなんて考えられないって。遠距離恋愛なんて絶対無理だって、俺の就活中に言ってたよな」
「そうだけど……」
「そんな希子に、富山に戻るから遠恋しようなんて言えないだろ。希子は国際線のCA目指して就活始めていたし。だから先に言ったんだよ。終わりにしようって」
「……」
希子は言葉を失い、うつむいた。
確かに周が就活している時に、地方に生活を決めないよう遠恋は無理だと言ったことがあった。そう言えば決して周は遠いところに行こうとしないと、分かっていたからだ。もう希子は仕方ないな、分かったよ。どこにも行かないよと、ちょっと困ったような笑顔を見せて言うだろうと。実際、周は東京で就職を決めていたのだ。
富山に戻ると決めた時だって、一緒においでと周はきっと言うと希子は思った。それなのに希子の気持ちなど聞きもせず、周は一方的に──
友達はみんな驚いた。二人が別れることなどないと思っていたからだ。だけど事情を聞いてみんなは続けた。
「実家に戻るんじゃ、仕方ないよね」
そうだ、仕方ない。ずっと一緒にいるはずだった周がいなくなった希子には、もう就職を決めるしかなかった。ずっと憧れていた航空業界、CAに。スクールに通い必死に勉強した結果、内定を勝ち取ったのだった。
周が海辺の道路沿いにある駐車場に車を止めた。何も言わずに車から出る。希子も慌てて後を追いかけた。車から出た途端、目の前の景色に希子は息を呑んだ。
「すごい……」
荒れ狂う波が岩にぶつかり白くはじける青い海の向こうで、青空に吸い込まれるかのように雪を被った山脈が大きく広がっていた。
「立山連峰だよ。圧巻だろ」
希子は声を出すこともできず、頷くだけで精いっぱいだった。ただただ目の前に広がる景色に圧倒されていた。
「この雨晴海岸から見る景色が、俺が一番好きな眺めなんだ」
自然と顔の前で手を合わせ、指と指を組み合わせる。神々しいような、祈りたくなるような景色だった。
「立山を見たとき、ああ帰ってきたんだなと思ったんだ」
雨晴ではお互い言葉少なだった。あの景色の前で、希子が何も話せなかったからだった。周もそれに合わせるかのように、何も言葉を発しないでいた。
再びハンドルを握り、市内に戻る途中で周はようやく口を開いた。
「そしてやっぱりここが、俺の生きていく場所なんだって」
希子は運転席の周を見つめた。周は運転しながら、一瞬だけ希子を見た。目が合う。その瞳はとても澄んでいた。
「お父さんが倒れたから、仕方なく帰ったのかと思ってた……」
その瞳を見つめることがつらくなり、希子はうつむいて小さな声で呟いた。小さな声でも、ラジオも音楽も入れていない車内ではきちんと周の耳に届いた。
「確かに反発するように東京の大学に行ったけど、やっぱり俺は」
東京での周は、富山弁も訛りも一切出さず、おしゃれで、たくさんの仲間がいて、すっかり『東京の人』だった。東京生まれの希子以上に東京の人だった。池袋の予備校でバイトをして、記念日には希子を新宿やお台場のホテルに連れていってくれて。
周にこんな地元があるなんて、周がこんなに訛って地元を話すなんて、ここが帰るべき場所だって言うなんて、想像していなかった──。
くちびるを噛みしめ、あふれてきた涙を必死でこらえていた。涙がこぼれそうになるので下を向いていることに耐えられなくなり、ふと顔をあげる。フロントガラスの先には、さっきの立山連峰が見えた。
「──立山」
希子はぽつりと呟く。
「すごい、街からも見えるのね」
「晴れた日は、こんな風に富山じゅうで見えるよ」
街が、立山連峰に包まれているようだと希子は思った。
「あとはどこに行きたい? とはいえ、もういい時間になってきたけど」
市内に戻ってきた頃には、外は大分日が傾いていた。
「結局、観光らしいところにあんまり連れて行ってあげてないね」
ふっと周が笑った。希子はその言葉に笑えず、隣の周の顔を見た。
「別に観光なんて」
この人は何でこんな時も微笑んでいるのだろうと、ぼんやり思う。
「コンビニに行きたい。大きいところ」
「コンビニ?」
希子の希望に周は首をかしげたが、トイレか買い出しだろうと思い至ったようだ。それ以上は何も聞かずにそのまま車を走らせた。郊外型の大きなコンビニに車を乗り入れると、希子は端の方に止めて、と言った。
「え?」
周は声を出したが、言われた通り広い駐車場の端の方に車を停める。コンビニはずっと奥にあり、広くて車の少ない駐車場でそんな場所に停める車などなかった。隣にはかき集めた雪が、うず高く積み上げられている。
「本当に観光できたと思っているの?」
周がサイドブレーキを引いた途端、希子はシートベルトを外して身を乗り出した。目に力を入れて、周に睨むような視線を送る。
「……」
希子がコンビニに停めさせたのは、話をするつもりだったのだと周は悟る。黙ったまま希子に倣ってシートベルトを外した。
「ねぇっ」
だけど希子は沈黙を許さない。周が答えないと、もう一度強く聞く。
希子はいつもそうだった。逃げや曖昧を許さない。許したのは一度だけだったかもしれない。そう、別れのときだけだ。
「なんで来たが」
周は希子を見ず、目をフロントガラスに向けたまま逆に尋ねた。
「一年も前に終わってるやろ、俺ら。観光以外に何があんがけ?」
「──終わってない」
希子は声に力を込めて、低い声で呟いた。強い怒りを含んだその口調に、前を向いていた周ははっと振り向く。
「周は終わらせたつもりかもしれないけど、私の中では全然終わってない! 一瞬だって、忘れたことなかった……」
絶対に泣くまいと決めていたのに、最後の方は声が震え涙があふれでてきた。泣いたら負けだ、毅然として言うつもりだったのに。
今まで涙を見せたことなかった希子が、泣き出したことに周は酷く動揺する。別れの時さえ、怒った顔をしていたが、涙を流しはしなかったのだ。
「──希子」
周の希子を見つめる目が、動揺で揺らぐ。周は下唇を噛みしめ、体の奥からせり上がってきた感情を漏らすまいと、必死にこらえていた。
希子は流れてくる涙を拭うこともせず、ぐっと周を睨み付けて責めるように続けた。
「周はなんで私の写真を今も机の引き出しに入れていたの? どうして今、私に会っているの?」
「……」
「捨てればいいじゃない! 別れた彼女の写真なんか!! 会わなくていいじゃない! 別れた彼女となんて!!」
希子は左手を伸ばし、周の右肩を掴み力強く手前に引っ張る。怯えたような表情の周の体を、強引に向き合わせた。周の二の腕を両手でつかみ、その体を激しく揺する。
「ねえ! 周だって忘れてないんでしょ、私のこと!!」
振り乱した希子の長い髪が、涙で濡れた頬に貼り付く。
くちびるを噛みしめ、眉を下げて怯えたような、すまなさそうな表情をしていた周はぎゅっと強く目をつぶった。
「──なんで! なんでこんなところまで来たが!?」
突然、いつも穏やかだった周が声を荒げた。希子は口をつぐみ、瞬きもせずに目を大きく開けて周の顔を見つめた。
「……会わんかったら、忘れられると思ったがに! もう過去のことにできたと思ったがに! 会わんかったら……!!」
「──私は会いたかった!!」
周の言葉を遮って、希子はするどく突き刺すような声をあげた。
「会いたかった、ずっと! あの日から周のこと忘れたときなんて全然なかった! 我慢できなくて会いに来たの! 好きなの! ずっと、ずっと!!」
今度は周が目を見開き、希子を見る。
希子は出会った時から、甘えてわがままばかり言って、周を翻弄してきた。周はそんな希子を可愛いと思い、また希子の言うことを聞くことが嬉しかった。
それなのに、今目の前にいる希子は──
涙が両目から止めどなくあふれ、素顔を露にしている。いつも綺麗にセットし巻かれた髪はボサボサに振り乱され、涙で頬に貼りついていた。
周が別れを言った時、何も言わずにすんなりと受け入れた希子。決してすがることなどないだろうと思っていた。そしてその通りだった。
それが──
周は手を伸ばし、泣き叫んだ勢いで肩で息をしている希子を強引に抱き寄せた。希子は抵抗しなかった。周の胸に収まると、すがるように周にしがみついてきた。
「周の家に行きたい」
涙でくぐもった声で、希子は呟いた。
さっき行った周の実家の鋳造所近くに、周のアパートはあった。二階建ての木造ワンルームの小さな住まい。
家に入ると靴を脱ぐ間もなく、二人は何も言葉を交わさずに激しい口づけをした。 互いに乱暴に服を脱がし合う。二人の間に隔てるものを急いで取り払いたかった。一秒でも早く近くに、もっと近くにお互いを感じたかった。そこにはお互いの体温を感じようと必死に手を伸ばし、息もできないほどに肌を合わせて強く抱き合う二人がいた。
周は強引とも思えるほど力強く、希子を掻き抱いた。いつも優しかった周は、そこにはいなかった。だけど希子がよく知ってる周だった。
周の肌、周の体温、周の匂い、周の吐息──
全部全部希子の知っている周だった。希子が覚えている周だった。希子がずっとずっと欲しいと思っていた周だった。
翌朝目覚めると、部屋はまだ仄暗かった。希子は手首に鈍い痛みを感じて、目を移した。手首に二つの薄赤いうっ血した点があった。
周が強く握った痕だった。希子を離すまいとするかのように、昨夜の周は希子の手首をきつくきつく握りしめたのだった。それに応えるかのように、希子も周の広い背中に幾度となく爪を立ててしがみついた。 そうでもしないと、どこかに行ってしまうような気がしたのだ。
白いシャツを着て、下は作業着のようなワークパンツを履いた周が洗面所から出てきた。まだ布団の中で服も着ずにいる希子に声をかける。
「仕事行く前に、駅に送っていくわ」
昨夜のことなどなかったかのような、いつもの低く穏やかな声だった。
外に出ると、雪が舞っていた。東京では大雪になるぞと大騒ぎするような、大粒の乾いた粉のような雪だ。周は慣れた手つきで、T字の棒を使って車の雪を下におろした。希子は黙ってその姿を見つめていた。
富山は雪の中だった。静かに、騒ぎもせず。雪が当たり前のようにある景色だった。
二人は黙ったまま車に乗り込み、走り出した。車の外は白くぼんやりとしている。白の薄い水性絵具をこぼしたような世界がそこにはあった。
希子がぽつりと呟いた。
「今日は立山、見えないのね」
「雪が降ったら見えないよ。冬は晴れた日しか見えないけど、基本冬はずっとこんな天気ばっかりだよ」
周はもう、富山弁をしゃべっていなかった。
駅に着くと、周は見送ると言って改札を通りホームまで来た。朝早いホームには他に人はいなかった。風が吹き、ホームにも大粒の雪が吹き込んでくる。口を開くと真っ白な息が瞬時に顔を包んだ。
先に話しかけたのは周のほうだった。
「昨日はごめん」
希子は周を見上げた。笑ってもない。だけど申し訳ないという顔もしていない。表情がなく、その気持ちを読み取ることができなかった。
「なんで謝るの」
希子は非難めいた口調で言った。きゅっと口を真一文字に結ぶ。目に力を込めて、周を強い瞳で見つめた。
謝るということは、昨日のことはなかったことにしようということか。周は何も言わなかった。
「──私、就職辞めるわ」
ゆっくり、力強く希子は言った。
昨日の夜は眠れなかった。周の腕の中で、考えていたことだった。いや、富山に来る前から考えていた。それを昨日の夜、改めて強く心に決めたのだった。
周は驚いた表情は見せなかった。薄く口を開く。口の端からたなびく煙のように白い息が漏れた。
「富山に来る。周のそばにいたい。周のそばにいさせて」
「希子……」
周が名前を呟く。
ホームから離れた線路を、地響きのような低く重い音をさせて貨物列車が通り過ぎて行った。相変わらずホームにも、線路の向こうに見える南口の駅前にも、人の気配はなかった。
「CAは」
「もういい、周がいればいいの!」
希子は周の胸に飛び込んだ。その広い背中に手を回す。
しかし周はそれに応えることはしなかった。希子の肩を両手でつかむと、そっと体を離した。
「ごめん」
不安げに周を見つめる希子の瞳に、目を閉じ力なく首を振る周が映った。
「──どうして」
希子は苦しそうに言葉を出した。何故、どうして。
昨夜、周は希子を受け入れたのではなかったのか。周も希子が必要だと思ってくれたのではなかったのか。
「なんで? 私のこと好きだって言ったじゃない! どうして!」
再び悲鳴にも似た叫び声を上げる希子。拒絶され、その現実が受け入れられなかった。
「好きだよ。好きだから──」
希子は周の顔を見て、驚いた。
周は酷く傷ついた表情をして、涙を流していた。何故。再び拒絶されているのは自分のほうなのに。何故、周が傷ついた顔をしているのだろう。
「どうして! 私は周のこと、愛してる! もう離れたくない!!」
希子は流れる涙を拭こうともせず、周のコートにすがりついた。顔を周の胸に強く押し付ける。
──拒まないで。拒まないで!
昨日の夜のように、必死に力を込めて周にしがみつく。
昨日の周がつけたあざも、まだはっきりと手首に残っているのに! なんで、どうして!
「できるのか! 希子に! 俺がいるからって、何の縁もないこんな田舎に──」
「周がいるから大丈夫なんじゃない!」
一人、二人、ホームに人が降りてきた。スーツケースを引く女性。スーツ姿のビジネスマン。越後湯沢行きのはくたかがそろそろ来る時間だった。
だけど今、互いのことしか見ていない二人の目には周りの人間は映らない。ホームの端の方で泣き叫ぶ彼らを、ホームにいる人たちは遠巻きに、好奇心を含んだ目でちらちらと見ていた。
「そんな理由で拒まないでよ!」
周だって決まっていた銀行を蹴って実家に戻り、勉強していたドイツ語とは全く関係のない家業を継いでいるではないか。何故希子はダメだというのか。周がいる、それだけで十分だ。周のそばで、周を支えたい。
「周と一緒にこの街で働いて、一緒に生きていきたい!」
周を見上げるが、その表情は自分の涙で雲って見えない。それでも希子は拭うことはしなかった。周にしがみつくこの手を離してしまったら、もう二度と触れられない気がして。
まぶたを強く閉じた周の目から、たくさんの涙があふれでてきた。眉に力をいれて、苦悶の表情を浮かべたあと、嗚咽にも似た声で周は叫んだ。
「俺が! 俺が無理なが!! 俺の夢に付き合わせて、希子に夢を諦めさせて、そばにいさせることが!!」
『俺が』無理だと言われて、周のコートをつかむ希子の手がふと緩んだ。目を大きく見開き、涙で揺れる瞳で周を見つめる。
「希子はずっと目標をもって、頑張ってきたやろ。今はよくてもいずれ──」
電車の接近チャイムが、ホーム中に響いた。
続いて越後湯沢行きのはくたかが、まもなく到着するアナウンスが流れる。
「好きだよ。一緒にいた三年間も、こうしている今でも好きだよ。だけど、俺たちは無理だ」
「そんな、無理なんて言わないで……」
希子は震える声でつぶやいた。風で髪が舞う。はくたかがホームに滑り込んできた。
「愛してる。希子の夢を応援してる。愛してるから一緒になれんが」
周の言葉に目をつぶり、希子は激しく首を振った。
──やだ、やだ、そんなのいや!!
離れようとしない希子を、周はその肩を強く持ちぐいと電車のほうに押しやった。
「もう、行かれ! 行けま!! 二度と来んなま! 希子は自分の夢を追いかけられ!!」
強く周に拒まれ、希子はもう何の言葉も出なかった。大粒の涙を流し、振り向きもせずに電車に飛び乗った。
発車のチャイムが鳴り響き、静かに音を立ててドアが閉まった。
希子は窓の外を見ようともせず、その場に座り込んだ。堪えていた激しい泣き声が、口からとめどなく溢れてくる。
愛してる、愛してるのに──!!
人目もはばからず、希子は激しくむせび泣き続けた。
外は真っ白にけぶり、大粒の牡丹雪がとめどなく車窓にぶつかり続けた。
富山は静かな雪の中にあった。
希子は金沢行きの新幹線はくたかに乗っていた。
二〇一五年に北陸新幹線が開通し、目指す新高岡までは、『はくたか』に乗ると東京からは二時間四十分ほどだ。
――前に来たときは、途中で乗り換えて四時間以上かかったのに……
そっと心の中で呟く。
あの時と同じ、新幹線の窓の外は一面銀世界だった。
車窓から視線をずらし、目に入った座席前のネットの中にある冊子を手に取る。北陸を紹介する車内誌だった。なんともなしにパラパラとめくると、あるページで手が止まった。
高岡の伝統産業を紹介する記事で、何人かの青年が写っている。そのなかの一人、短髪に紺のTシャツ姿の男性が、銅器の一輪挿しを持って作業場にいた。目じりにしわを寄せた、柔和な笑顔で微笑んでいる。下の紹介文には『二〇一五年ドイツ・フランクフルト国際見本市に出展』とある。
「周──」
希子は写真を指で撫で、そっと名前を口にした。
あの日、別れてから周も確実に夢に向かって歩いていたのだ、と。
降りたのは新高岡駅。新幹線開通に伴いできた駅だった。途中の長野と新潟の県境付近は雪が降っていたが、前と同じように高岡は晴れていた。道路脇に高く積み上げられた雪が、陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
駅から出たところで待機していたタクシーに乗り込み、行き先を告げる。
「観光ですか」
タクシーの運転手が尋ねる。
「はい。立山連峰を見に来たんです」
希子が言うと、白髪交じりのベテラン風の運転手は富山弁交じりに明るく言った。
「じゃあ少し遠回りして行くがですか? 今日は立山が綺麗ですよ」
「お願いします」
希子はゆっくりとうなずいた。
タクシーは国道八号線を東に走った。行く先には雪化粧をした立山連峰が、青く澄み渡った空の下で悠然と希子を迎え入れているかのように見えた。
「お客さん、運がいいですね。冬はこんなにハッキリ立山が見えることはあんまりないがですよ」
運転手の言葉を聞きながら、希子は車窓の向こうの山々に見入っていた。
目的地に着くと、運転手には待って欲しい旨を伝えた。ここで再びタクシーを捕まえるのは難しいだろうと思ったからだ。
タクシーを降り、白く輝く雪を踏みしめながら木の柵に駆け寄る。
白く波が割れる、激しいうねりのある日本海の向こうに立山連峰が見えた。希子は大きく息を吐いた。
あれから十四年。希子の状況は大きく変わった。
契約社員のままキャビンアテンダントを続けていたが、二〇〇八年のリーマンショックで契約は更新されず、希子は失職した。転職活動をしたものの思うようにはならず、結局派遣社員として数件の会社で働いていたのだった。
それでもこの雨晴海岸の景色は、以前周と眺めた時と変わらなかった。もう二度と来るなと拒まれたけれど、今どうしても、もう一度見てみたいと思って来たのだった。
「パパって、ほんまにここ好きやね。飽きんが?」
背後から女の子の声がした。
「飽きることないがよ。パパはなあ、ここで新しい作品へのパワーをもらっとんがやぜ」
(──この声……!)
思うより早く、希子は後ろを振り返った。
そこにはピンクのボアのジャンパーを着た五歳位の女の子と、手を繋いだ長身の三十代後半くらいの男性がいた。黒のタートルネックのセーターにスキニーのパンツ姿。
「周……」
姿を認めると同時に、口からその名前がこぼれ出てきた。さっき新幹線の中で見た顔。十四年前より体は締まっていて、頬は痩せ精悍な顔つきになっていた。それだけで周にとって、この十四年が大変なものだったと感じられた。
「──希子」
周は目を見開き、ポカンと口を開いている。自分の日常に不意に現れたかつての彼女に、ただただ驚いたという表情だった。
「どうしてこんなところに」
唖然とした顔のまま呟く。そんな父の表情を不思議に思ったのか、手を繋いでいた女の子が周の手を引っ張り、可愛らしい声で尋ねた。
「パパ、どうしたが? この人、お友達け?」
その声で我に返ったように周は大きく瞬きし、女の子の方を見た。聞かれた周の代わりに希子はひざに手を当て、腰をかがめて女の子の目線に顔を合わせた。
「そうなの。パパが大学生だった時のお友達なのよ」
そしてそのままの姿勢で顔だけを上げて、周を見つめて言った。
「雨晴でもう一度、立山連峰を見たくて今日ここに来たのよ」
膝から手を離すと、背中を伸ばして周の顔を見つめる。
「可愛い娘さんね。周そっくり」
「ありがとう」
以前より痩せた顔に浮かんだのは、昔よく見た目尻に皺を寄せた笑顔だった。かつて希子が大好きだった、あの微笑みだった。
「私ね、来週からドイツに行くの」
希子は振り返り、富山湾の向こうにそびえる立山連峰に目を移した。ごつごつとその頂をとがらせ雪を被った山々は、大きく腕を広げ下に広がる富山の街も、目の前に広がる深い青色をした荒れ狂う日本海をも包み込んでいた。ここが自分の生きる土地だと言った、かつての周の言葉が希子の胸によみがえる。ゆっくり反芻するように希子は目を閉じた。
風が吹き、長い髪が顔にかかる。希子は目を開け、そっと髪を耳にかけた。
「ドイツでキャビンアテンダントを目指そうと思っているの」
再び周のほうに向き直り、まぶしそうに目を細めて笑みを浮かべた。
「ドイツで夢を追うわ」
派遣社員を繰り返して生活のために働いても、何も目標を見いだせなかった。鬱々と悩む日々を経て、それならばドイツへ行き国際線でも国内線でもCAを目指そうと決めたのだった。自分には経験と、これしかないのだという強い気持ちがある。
その話を友達のドイツ人に話したら、自分のところに来ないかと言われた。退社した後も頻繁に連絡を取り合っていた、かつての同僚だった。希子の夢をそばで応援したいから一緒に暮らさないか、と。
彼とはどうなるかは分からない。とにかく自分の夢のために、新しい土地に行くのだ。新しい土地で、再び自分の夢を目指すのだ。
「そっか」
周はゆっくりと瞬きをし、大きく頷いた。
「頑張れよ」
「周も」
もう一度口角を上げそっと微笑むと、希子は小さく頭を下げて待たせているタクシーに向かって歩き出した。振り向きもしないまま、タクシーに乗り込む。
「駅まで」
希子が言うと、タクシーは来た道を走り 出した。希子の空気を察したのか、運転手は何も言わなかった。
目を閉じると、希子の目から一筋の涙がこぼれた。
これは決して悲しみの涙じゃない。
新しく果てしない道が、かつてとは違う方向へ自分の前に広がっているのだからと、希子は思うのだった。
閉じた瞼のその裏に、今見たばかりの雄々しく広がる立山連峰の姿が映る。かつて愛した人が、生きると決めた場所。自分はそこにはなかった。けれども、と思う。この景色はこれから何度も希子の中で反芻され、自分へのエールになるのだろう、と。
了
遠景 塩野ぱん @SHIOPAN_XQ3664G
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