【テンカウント】リストラ冒険者、10回中1回はクリティカルヒット保証というクソ雑魚スキルで無双します。〜僕をボス部屋に置き去りにしたギルドから帰ってきて欲しいって言われましても

兎まゆ

第1話 ダンジョンの最奥で置き去りにされた少年

「あばよ。アトリちゃん」


 ダンジョンの最奥。通称ボス部屋。そこで、僕ことアトリは、同じギルドの仲間。勇者アルフレッドから死刑宣告を受けた。


 「アルフレッドさん。待って!!その出口の扉をまだ閉めないでください!!」



 栗毛色の髪の癖っ毛の可愛らしい容姿をした少年アトリは、仲間冒険者のアルフレッドに懇願した。

 アルフレッドは、重厚な鎧に、巨大な大剣を背負い、いかにも強者の雰囲気を出していたが、仲間のアトリの懇願を一切受け付けなかった。


 小柄で華奢なアトリのすぐ後ろには、ボス部屋の主人、オークキングが巨大な剣を構え、アトリの息の根を止めようと迫って来ていた。



 「非力なアトリちゃん。最終テストだ。俺たち新鋭気鋭のニューエイジに所属する冒険者であるお前は、この程度のボスを一人で倒せないなんて、考えられないだろう。倒せないならそこまでだ」



 アトリは全身の血の気が失せるのを感じた。

 アトリは、へたりと尻餅をついてしまい、うなだれてしまった。

 無理だ。ドジでノロマで鈍臭い戦闘力ゼロの僕に倒せるわけない。



 アルフレッドの仲間の神官のティナさんや龍騎士ドラゴンナイトのカレンさんが、ニヤニヤ顔でアトリを見ていた。


 アトリは、その光景を最後に見て、それからまもなく唯一の希望であった出口の扉は固く閉ざされ、絶望だけが密室のボス部屋に充満した。







 ☆☆☆



 「やられたあああ!!なんだい!!世間知らずの田舎娘だからって、道をわざと間違えて教えたな!!肉屋のおじさん!!」



 ダンジョンの最奥で、桃色髪のセミロングのエルフ族の美少女は、叫んだ。



 ここどこだよおおお、と叫ぶ少女。旅装束に身を包み、冒険者というよりも旅人という風情が似合うこのエルフ族の少女は、ダンジョンの中で完全に道に迷っていた。



 その矢先。

 重厚な鎧をつけた男の足音が、ダンジョンのさらに最奥からこちらに向かって来るのが、少女の長耳が感知した。



 (・・・三人か・・・)


 エルフ族の少女は、旅装束のフードを深々とかぶり、エルフ族の特徴とも言える長耳を隠してしまった。



 「アヒャヒャ。これで、あのうざったいアトリともおさらばだ」



 重厚な鎧を装備した勇者アルフレッドは、心底愉快そうに笑いながら、歩いていく。



 「鈍臭いアトリちゃんには、ずっとイライラしていたからせいせいしたわ」



艶やかな長い黒髪の美女であり、神官プリーストのティナも、勇者アルフレッドに同意した。


  

 「でも、アトリはいつも一生懸命に雑用も汚れ仕事もしていたんだけどな」


 そんなアルフレッドとティナの後ろで、ボソっと悲しそうに龍騎士ドラゴンナイトのカレンはつぶやいた。



 「あ?なんか今言ったか。カレン」


 アルフレッドは、後ろでボソボソと何か呟くカレンを気味が悪そうに見た。



 「ううん。なんも言ってないよ。アルフレッド」



 龍騎士ドラゴンナイトのカレンは作り笑いを浮かべながら、取りつくろった。




 「ん?なんだ。こんなダンジョンの最奥に人か」



 アルフレッドは、パーティの前方を歩いていると、先に旅装束に身を包んだ少女がいることに気づいた。



 (これは、なかなか上玉だな)



 アルフレッドは下品な目で、その旅装束の少女をつま先から頭まで撫で回すように見た。

 顔こそフードで隠しているが、どこか気品のある佇まいと、抜群のスタイルを誇る少女は、アルフレッドの食指が動くものがあった。



 「お嬢さん。こんなところで一人は危ないぜ。良かったら、俺が地上まで送ってあげようか」



 「結構だよ。私は、雑魚に用はないんだ」




 アルフレッドはこめかみに青筋を浮かべながら、旅装束の少女を睨んだ。

 タダじゃおかねえぞ、と少女に脅しをかけていた。



 そんなアルフレッドの横を風が通り過ぎるように、旅装束のエルフ族の少女は駆けて行ってしまった。



 その速度は、突風のようで、上級職で高ランクのアルフレッドやティナ、カレンの目でも追うことはできなかった。




 気がつくと、エルフ族の旅装束の少女は、ダンジョンの遥か最奥。ボス部屋へとたどり着こうとしていた。



 「速え。何者だよ。アイツ」



 アルフレッドは、呆然とつぶやいていた。





 ☆☆☆




 「まだだ。まだ僕は終われない。終われないんだ。終われないんだよおお」



 アトリは、恐怖に顔をひきつらせながらも、懸命にボス部屋の主人、オークキングと戦っていた。



 アトリは、ナイフを片手に、果敢にオークキングに攻め立てる。



 カキン。カキン。カキン。



 だが、アトリの非力な攻撃は、筋骨隆々のオークキングの皮膚に傷ひとつつけられなかった。




 97回、98回、99回。

 アトリは、自分のステータスでは、オークキングに一矢すら報いることはできないことは理解できていた。



 だからこそ、狙うのは、ただひとつ。

 ごく稀に、攻撃判定が、攻撃値が跳ね上がるクリティカルヒットを狙っていた。



 絶望の局面で、死がすぐ隣にあるはずなのに、アトリの目はまだ死んでなかった。




 まだだ。まだ僕は死ねない。



 瞬間。


 オークキングが、ちょこまかと逃げ回るアトリに苛つき、一気に決着をつけようと、大きく跳躍しアトリとの距離を一気に縮めて来た。




 (ここしかない!!)




 アトリは、大きく跳躍し、オークキングの渾身の振りかぶる大剣の一撃を身体をひねり、紙一重でかわした。



 そして、アトリは、オークキングの頭頂部に張り付き、暴れ回るオークキングに振り落とされないように、オークキングの頭頂部に必死にしがみつく。


 そして、アトリはナイフでオークキングの右目を抉る渾身の一撃を放つ。




 「いけええええええええ」



 ーーーークリティカルヒット!!



 ガキン!!!!!




 ナイフから激しい火花が散る。

 オークキングは右目を抉られ、たまらず、咆哮を上げる。



 瞬間。

 アトリは、オークキングの頭頂部から弾き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。




 「かはっ」



 アトリは、血が胃から込み上げて来て、吐血してしまった。






 あまりの痛みで、アトリは身動きが取れなかった。




 「くそ。ここまでか」



 右目を抉られ、激昂したオークキングが、アトリにトドメの大剣を振りかざす。




 ーーーちくしょう。まだ女の子とも手を繋いだことなかったのに。。。




 アトリは、心の底から後悔した。





 瞬間。




 【聖なる一撃ホーリーインパクト】




 アトリの目の前で眩い閃光が、場内を包んだ。




 「カッコいいじゃん。君」




 少女は、ボロボロの旅装束をはためかせながら、綺麗な桃色髪が揺れる。

 その瞳は、力強く、誇り高い。




 思わず、アトリは見惚れてしまった。





 エルフ族の少女は、両手にはめたグローブを合わせ、笑った。




 

 「私は、フィリア!!誇り高いエルフ族の末裔!!かかっておいで!!オークキング!!」



 

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