第2章 少女の苦悩

第10話 夕凪莉緒

 夕凪莉緒は自室にて苦悩をしていた。莉緒はその茶色の肩まである髪を左手で手櫛をしながら床に座ってベットに背中を預けていた。服は部屋にいることもあり青色のジャージを着ているようである。莉緒は二重の目元と鼻筋が通っているスッキリとした鼻を持つ可愛い顔をしジャージを着ているも、その出てるところが出ているスタイルの良さでバンドの顔として活動をしている。


 そもそもなぜ莉緒が苦悩をしているのかというと、政府直下の組織である特殊災害対策室という組織から怪物と戦って欲しいと言われているからである。特殊災害対策室が保管をしている特殊な武器に反応があったので、武器を手にして平和のために戦ってと言われていた。


 莉緒自身、怪物と戦うなど怖いことや音楽活動で精一杯な現状で戦うことなどできないので、他の人たちでしてくださいと電話がかかってくる度に言っていた。しかし、記念すべきライブ当日の夜。怪物がライブ会場の側で現れたことによって、特殊災害対策室から再度連絡が来てしまう。


「君の周囲には怪物が出現するらしい。今回のことで理解をしたかな?」

「理解というか、出現を何故するのか分かりません……」

 

 その電話の相手は大和であった。大和は自身によって何度も莉緒に電話をかけていた。武器を手に取って平和のために戦ってほしいこと、武器が莉緒に反応を示し、他の武器を手にしている人と共に怪物と戦ってほしいことを伝えていた。


「私じゃないとダメなの? どうして私なのよ?」

「君は怪物を倒すことが出来る武器である弓に選ばれたのだ。君は怪物を倒して国民を守る義務がある。力があるのに力を活かさないのか?」


 力を活かさないのかと言われた莉緒は、何かを言おうとしているが上手くいえる言葉が出てこなかった。大和はそのうち護衛を向かわせるから考えておいてくれと言って通話を終えた。


 莉緒は通話が終わると、スマートフォンを背後にあるベットに置いた。どうすればいいのか、どう動けばいいのか、どうして私にそんな力があるのか理解ができなかった。


「言われたままにするのが楽なんでしょうけど、私にはバンドの仲間がいるし……それに怪物と戦って怪我でもしたらママを悲しませちゃう……」


 莉緒は自室で様々なことを考えながらベットに背中を預けて天井を見ていると、スマートフォンに通話がかかってきた。その相手はマネージャーなようで、莉緒は呼吸を整えてからその通話に出た。


「やっと出た! ずっと話し中だったから焦ったわよ! あと1時間でリハーサルだけど大丈夫? 今どこにいるの?」

「あ! リハーサルだったの忘れてたわ! 家にいるからすぐに向かうわ!」

「まだ家なの!? 何してるのよ!」

「ちょっと野暮用があったのよ! すぐに着替えて行くわ!」


 莉緒はそう言って通話を切ると、部屋にあるクローゼットからスカートとTシャツを取り出して白色のカーディガンを羽織って小さな鞄を持って家を出た。莉緒の家は2階まである一軒家であり、目の前には住宅街ということもあって車が2台余裕を持って通れる道路が作られている。家を出ると、莉緒の家の玄関前に一台の車が停車していた。莉緒は邪魔だなと思いながら、避けようとした。すると車のドアが開いて出雲と美桜が出てきた。


「な、何ですか? 私に何か御用ですか?」

「夕凪莉緒さんですね? 私たちは特殊災害対策室の者です。あなたを護衛しに来ました」


 特殊災害対策室と聞いた莉緒は、大和が言っていた言葉を思い出していた。そのうちに護衛を向かわせると言っていたので、この目の前にいる二人が護衛なのだと察した。


「く、黒羽出雲です! 護衛をしに来ました!」

「篁美桜よ。よろしく頼むわ」


 出雲も美桜も私服を着ているので、莉緒は二人が何歳か分からなかった。出雲はジーンズに白色のTシャツを着て黒色のパーカーを羽織っている。また、美桜はミニスカートに茶色のTシャツを着て黒色のジャケットを羽織っていた。莉緒は二人を見ると、同い年くらいかしらと話しかけた。


「お、俺は16歳なので莉緒さんより一つ年下です! 美桜も同じです!」

「そうなのね。てか、私のこと知っているの?」

「私は知らないけど、隣の黒羽は知っているわ」

「苗字呼び!? もっと他に呼び方は……」

「ないわ」


 ピシャリと言われてしまった出雲は、肩をガックリと落としていた。肩を落としながら出雲は、CDも買ってライブにも行ってますと言った。


「ライブもなのね! あ、ということはこの前のライブ会場にもいたの?」

「いました。でも、俺は怪我をしなかったので大丈夫です!」

「ならよかったわ」


 出雲と莉緒が話し込んでいると、美桜がそろそろ行かないとと言った。


「そうだったわ! リハーサルに間に合わなくなっちゃう!」

「車でお送りするので、早く乗ってください」


 言葉の端々に棘がある言い方を美桜はしながら出雲と莉緒に早く乗ってと言う。車の運転手は特殊災害対策室の男性職員であり、莉緒は行先を男性職員に伝える。


「東都アリーナに向かってください! そこでライブ中継のリハーサルをするんです!」

「分かりました。すぐに向かいます」


 莉緒から行先を聞いた男性は、出雲たちが乗車したのを確認するとすぐに発車をした。現在地点から莉緒が言った目的地までは40分かかので、ギリギリ間に合うと莉緒は感じていた。


「護衛でも来てくれてよかったです。リハーサルに間に合いそうです」

「それはよかったわね。私たちは足じゃないからそこは気を付けて」

「あ、分かったわ……ごめんなさい……」


 美桜が莉緒に注意をすると、出雲がそこまで言わなくてもと美桜に言った。すると美桜はそうですねーと言って助手席にもたれ掛かって目を閉じた。


「到着したら起こしてね」

「分かりました」


 男性職員に美桜がそう言うと、美桜は寝息を立て始めた。出雲と莉緒は後部座席に座って静かに到着するのを待っていた。


「隣に莉緒がいる……緊張する……」


 出雲は右隣に座っている莉緒を横目で見ながら、緊張すると呟く。莉緒にはその出雲の呟いた言葉は聞こえておらず、莉緒はスマートフォンを操作して何やらメールを送っているようであった。


「よし、連絡終わり。もうすぐ到着する……私も少し寝るね」

「と、到着したら起こしますね!」

「ありがとう」


 そう言って莉緒も寝始めた。出雲は莉緒を起こすために起きていないとと思い、スマートフォンを見たり外の景色を見ていた。出雲たちが目的地に向かってから30分が経過すると、運転をしている男性職員がそろそろ到着しますと声を発した。出雲はその声を聞くとありがとうございますと言いながら、美桜と莉緒の方を揺らして起こそうとした。


「起きて。そろそろ到着するみたいだよ」

「うーん……まだ寝てるぅ……」

「もう少し寝させて……ぐぅ……」


 美桜と莉緒は肩を揺らされても起きないようで、もう少し寝させてと言っていた。出雲は美桜の反応を見て、可愛らしい面もあるんだなと感じていた。出雲は美桜の可愛さを感じていたが、起こさなければ美桜に罵倒をされるなと出雲は思いながら美桜と莉緒の肩を強く揺らして起きてと言った。


「そろそろだよ! 二人とも起きて!」

「うるっさい!」

「ぐへぇ!?」


 美桜は起こそうとしている出雲に対して寝ながら左手で出雲の顔を叩いた。出雲は叩かれた際に鼻を強打されたので、鼻血が出ていないが出そうな感覚であった。莉緒はその出雲が叩かれた際の声を聞いて、何があったのと目を覚ました。


「何があったの? てか、大丈夫!?」

「だ、大丈夫です……」


 莉緒が両手で出雲の両頬を掴んで、赤くなっている鼻を見ていた。出雲はその際に莉緒の優しい匂いを発している髪の匂いを感じて、良い匂いがすると考えていた。


「よかった……鼻血は出ていないよ」

「あ、ありがとうございます……」


 莉緒が出雲の顔から手を離すと、美桜がそいつは怪物に襲われても元気だからそれくらいじゃびくともしないわよと背伸びをしながら言った。


「でも痛そうだったよ?」

「血は出ていないんでしょ? なら平気よ。ていうか、もっとちゃんと起こしなさいよね!」

「篁さんの寝起きが酷いんじゃ……」

「あんたの起こし方が悪いの! 気を付けなさいね!」

「はーい……」


 莉緒は二人のやり取りを聞いていると、意外と仲が良いのではと感じていた。運転をしている男性職員は、関わって痛い目を見ないように決して首を突っ込まないと決めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖戦の楽園 天羽睦月 @abc2509228

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ