第9話 護衛対象

「最悪だわ……どうしてあんたが……大和さん!」

「そう怒るなって。出雲君は昔から使い手がいなかったあの剣に選ばれた男だ。きっと活躍してくれるさ」


 大和がそう言いながら、机の上に置いてある長方形のケースを指差した。


「この剣はもう君の所有物だ。これから特殊災害対策室の一員としての活躍を期待しているぞ」

「ありがとうございます!」


 出雲が大和に頭を下げた瞬間、マリアが長方形のケースをを出雲に渡した。マリアはケースを開けてくださいと出雲に笑顔で言う。そのマリアの笑顔を見た出雲は、分かりましたとすぐに答えた。


「あの場所で見た剣と同じだ。この剣で守るために戦います!」


 出雲はケースに入っている剣の握りを掴んで、剣の全体を見た。すると出雲は、この剣をどうやって持って帰ろうか悩み始めた。


「この剣はどうやって持って帰ればいいんですか?」

「それはね。握る力を強めて、自身で思う持ち運びに最適だと考えている物の姿を思い浮かべてみて」


 マリアが出雲に思い浮かべてと言うと、出雲はその言葉通りに握る力を強めて想像をした。


「俺が思う最適な形……」


 握る力を強めて数秒後、剣から淡い光が放たれると出雲の右手首に黒色の細いリストバンドとして装着された。自身の右手首に巻かれている黒色のリストバンドを軽く触ると、これからよろしくと小さな声で呟いた。


「あんたはリストバンドなのね。私はこれよ」

「指輪?」


 美桜が出雲のリストバンドを見ると、私はこれよと右手の人差し指に付けている銀色の指輪を見せた。


「そうよ。人によって違うけど、私は指輪を想像したの」

「そうなんだ。俺も指輪にすればよかったかなー」

「そこは真似なくていいわよ!」


 美桜は出雲の背中を軽めに叩くと、出雲は肺から空気を出すほどに咽てしまった。


「お遊びはそれくらいにして、出雲君に早速任務を一つ任せようと思う。それほど難しくはないと思うから、大丈夫だと思うぞ」

「に、任務ですか!? 俺にできるかな……」


 不安に感じている出雲に大和が美桜君も一緒だぞと付け加えた。大和のその言葉を聞いた美桜は、嘘でしょと目を見開いて驚いていた。


「どうして私も何ですか!? 一人でやらせればいいじゃないですか!?」

「今回は美桜君に前に言ってあると思うが、例の子の護衛なんだ。なぜかあの子の周囲に小規模だが怪物が現れるので、短期間ながら護衛をと思ってな」

「怪物が現れるのに短期間でいいんですか? 長期の方がいいと思いますけど?」


 美桜が大和に疑問を投げかけると、紅が現在調査をしておりましてと言う。


「なぜあの子の周囲だけ怪物が現れるのか、あの子に特別な何かがあるのか現在調査をしておりまして、その結果がもう少しで判明しそうなのです。なので、お二人に調査結果が出るまで護衛をしていただこうと思いまして」


 紅が出雲と美桜に説明をすると、その説明を聞いていたマリアが説明が足りませんよと紅に言った。


「す、すみません! 私からもう一度!」

「私が説明をするので、大丈夫ですよ」

「は、はい!」


 紅は焦りながらマリアに向かって謝罪をした。その二人の様子を見ていた出雲は、マリアって何者なんだと考えていた。同い年で落ち着いた雰囲気を放ち、大和や紅に臆せずに話している。しかも室長室にいたことから、相当の権力を持っているのではと出雲は考えていた。出雲はマリアが説明を付け加えようと前に出て来たところを見ていた。


「紅さん。そこまで謝らなくて大丈夫ですから。後は私に任せてください」

「ありがとうございます……」


 マリアは銀色の綺麗な髪を右手で触りながら歩いていた。そして、出雲と美桜を見ると説明を始めた。


「例の子というのは、数年前から声をかけているある少女なのです。年齢は出雲様と同じのはずですよ」

「同い年の子か。だから美桜も一緒なんですね!」

「いつまで呼び捨てなのよ! 気安く呼びすぎ!」

「ご、ごめん……篁さん……」


 その二人のやり取りを見ていたマリアは、微笑していた。出雲はマリアさんが笑っていると声を発すると、マリアが私も笑いますよと言葉を返した。


「私も笑う時は笑いますよ。お二人のやり取りが面白くてつい、ごめんなさいね」

「マリアさんが謝る必要はないですよ! 悪いのはこの男ですから!」


 美桜はそうマリアに言いながら出雲の左わき腹を殴った。出雲はその殴られた衝撃で片膝をついて痛みに耐えていた。


「話を戻しますと、出雲さんと同じく特殊災害対策室で保管をしているある武器が護衛をして欲しい方に反応を示しているのですが、頑なに武器を手にすることを了承してくださらないのです」

「その人って誰なんですか?」


 出雲がその人が誰か聞くと、マリアが今大人気の音楽グループのボーカルですと言った。出雲は大人気の音楽グループと聞くと、もしかしてと目を見開いて言う。


「も、もしかして……その音楽グループって……ラストガールズですか!?」

「よくご存じですね。知っているのですか?」

「俺はラストガールズのライブを見に行って、怪物に遭遇しました。ということは、あの時に現れた怪物はラストガールズを狙っていたってことですか!?」

「そうです」


 そう言われて出雲は、だからライブ会場に現れたんだと察した。また、ラストガールズのボーカルと言っていたので、出雲は夕凪莉緒ちゃんがと驚いていた。


「よくご存じですね。莉緒さんには再三にわたって連絡を取っているのですが、興味がないの一点張りでして」

「そうなんですね。俺が守って見せます! あ、護衛の間に他の地域に怪物が出た場合はどうするんですか?」


 出雲がマリアに聞くと、大和がその時は別動隊が動くから心配をするなと出雲に言う。紅も様々な部隊があるから心配をしなくても大丈夫ですよと出雲に言った。


「分かりました、安心しました!」

「君は護衛任務を行いながらも、空いた時間には訓練を行ってほしい。まずは素振りなどから始めてくれ」

「分かりました!」

「ちなみに、護衛任務後にはより実践的な訓練を行う予定だ」

「それでは、今から任務先にお送りします。美桜さんもよろしくお願いします」


 紅が美桜によろしくお願いしますと言うと、溜息をつきながら分かりましたと紅に言っていた。出雲は護衛任務を頑張ろうと意気込んでいた。

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