第8話 銀髪の少女

 男性と出雲が部屋の中に入ると、二人に気が付いた一人の女性が駆け寄ってきた。その女性は黒いスーツに身を包み、胸に研修中という名札を付けていた。


「あ、黒羽出雲さんですね? お話は伺っています! 奥にある会議室Bをお使いください」

「分かりました! ありがとうございます!」


 出雲がそう返事をすると、案内をしてくれた男性が頑張れよと言ってエレベーターに戻っていった。


「はい! ありがとうございます!」


 そう言いながら男性に向かって頭を下げた。男性の姿が見えなくなると、出雲は会議室Bに向けて歩いて行く。その際に部屋の中を見渡すと、引っ切り無しになる電話や、世界中で出現している怪物の情報収取など忙しい様子であった。


「ここでいいんだよな? 座って待つか」


 会議室Bは全面ガラス張りであり、長方形の机に椅子が4つ置かれていた。出雲は手前側の椅子に座り5分程度待っていると、一人の若い男性が入って来た。


「君が黒羽出雲君かな?」

「あ、はい! そうです!」


 椅子から立ち上がって言う出雲に、男性が座っていいよと笑顔で言った。出雲は椅子に座ると男性は向かい側の椅子に座りながら、書類の束を出雲の前に置いた。


「この書類は?」

「以前に紫水さんから渡されたと思いますが、これらの書類にサインをいただきたいと思います」

「あ! 前にもらった書類ですよね!? 持ってきてないです……」


 その出雲の言葉を聞いた男性は、そうだと思いましたと言う。


「だと思いましたので、書類をご用意しました」

「あ、ありがとうございます……」


 そう言うと出雲は書類を一枚ずつ確認することにした。一枚ずつ書類を見ていくと、書いてある意味が分からない状況に陥っていた。


「書いてある意味が分からない……」


 出雲が頭を抱えていると、その様子を見ていた男性が説明をしますねと言ってくれた。その言葉に出雲は苦笑いをしながら、ありがとうございますと返答をした。


「こちらの書類には、戦闘時に怪我を負った際の補償についてです。こちらには給料や戦闘時に発生をする手当などです」

「は、はい!」


 出雲は説明を受け続けているが、その殆どを理解出来なかった。説明をしている男性は、出雲が自身の説明を理解出来ないと感じると説明の仕方を変え始める。


「難しい話ですから、理解出来なくても仕方ありません。とりあえず、あなたが不利になるようなことは書かれていません」

「ありがとうございます!」

「怪我をした場合や給料のこと、怪物が出現した際の出動についてなので、全ての書類に本日の日付とサインをお願いします」


 出雲はその言葉を聞いて、一枚ずつ日付とサインを書いていく。数分後、全ての書類に日付とサインを書き終えると、男性が別室に移動をしてくださいと出雲に言った。


「別室ですか? 別室ってどこに?」

「こちらです。ついて来てください」


 会議室Bから出て、左側に向かっていく。そこには室長室と扉に書かれており、男性は扉をノックした。扉の奥からどうぞという、優しい鈴が鳴るような声が聞こえた。その声を聞いた男性は、失礼しますと言って扉を開けた。


「この部屋に入ってください。私はこれで失礼をしますので」

「えっ!? ちょっと!?」


 驚いている出雲など関係なしに、男性は扉を閉めた。出雲は閉まった扉を数秒見つめると、恐る恐る後ろを向いた。そこには出雲より身長が少し低い、腰にかかるまでの長さがある銀髪の少女がいた。その少女は出雲を見ると、お待ちしておりましたと微笑みを出雲に向けた。


「き、君は誰なんですか?」


 出雲は指令室の中央にいる銀髪の少女に少し近づいた。その少女は日本人離れをしている容姿をしており、スッキリした鼻筋に二重の綺麗な青色の目が印象的な綺麗な美しい顔をしていた。また、その少女はどこの学校のか分からない紺色のブレザー型の制服を着ていた。


「初めまして、黒羽出雲さん」

「は、始めまして」


 出雲はその少女に向けて頭を下げた。出雲は顔を上げて少女を見た。少女は制服を着ていながらもそのスタイルが強調されており、目を奪われる程であった。少女はその出雲の視線に気が付いたのか、見過ぎですと優しい口調で注意をした。


「ご、ごめんなさい!」

「謝らなくて大丈夫ですよ。ちなみに、同い年ですからそこまで畏まらなくて大丈夫ですよ」


 同い年と言われた出雲は嘘でしょと目を丸くして少女の顔を見た。


「本当に同い年なの? そうは見えないけど……」

「よく言われます。大和さんにも大人に見えるって言われました」


 少女は落ち着いた雰囲気を醸し出しており、出雲は側にいると落ち着くと感じていた。少女は部屋の窓際に移動をすると、出雲に自己紹介を始めた。


「申し遅れましたね。私の名前は月影マリアと申します」

「月影さんっていうんですね。よろしくお願いします!」


 出雲が頭を下げると、マリアは大和の机の上に置いてあった長方形のケースを撫でた。


「この剣は出雲さんの強い想いに呼応して覚醒をしました。この剣に名前はありませんが、名前を付けますか?」

「剣に名前ってあるんですか?」

「付いているものもありますよ」


 そう言われた出雲は、そのうち名付けますと言った。二人が剣について話していると、部屋に大和と紅が入ってきた。


「もう会っているようだな。マリア君がこの戦いの鍵になる。何かあれば守ってくれよ」


 大和は出雲の右肩を掴んで守るようにと伝えた。すると、部屋の扉が静かに開いた。


「何か御用ですか?」


 部屋に入って来たのは美桜であった。美桜は出雲を見ると目を見開いて驚いていた。


「何でここにいるの!?」

「何でって、俺も特殊災害対策室の一員になったんだ! これからよろしくね!」


 よろしくねと出雲に言われた美桜は、肩を落として最悪と呟いていた。

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