第7話 本部へ

「左側に座っている生徒から外に出て、怪我の具合によって救急車に乗るように! 軽傷の生徒はそのまま帰宅してくれ! 講堂の外に教師がいるから、順番に案内をしてくれるはずだ!」


 その声を革切りに、壇上の教師が座っている生徒に声をかけて順々に外に出していった。出雲は一番右側の列に座っているので、呼ばれるのが最後となっている。


「俺は最後か。怪我もしてないからいいけど、怪我をしてる人たちが助かるといいな」


 痛いと言いながら講堂の外に向けて歩ている生徒の集団を見ていた出雲は、左端から順々に呼んでいる教師の声を聞いていた。出雲は自分の座っている列が呼ばれると、やっと呼ばれたと呟いて立ち上がる。


「思ったよりは早かったな。外に出るか」


 列の生徒に混じって、出雲はゆっくりと講堂の外に向かって歩いて行く。ふと下を見ると、講堂の床に血が垂れているのが見えた。


「床に血が垂れてる……そこまで怪我を負っている人もいたのか……俺はたまたま怪我を負わなかっただけなんだな……」


 出雲は床に垂れている血を避けながら講堂の外に出た。講堂の外には数台の救急車と教師の車に、警察車両が停車していた。


「沢山車がある!? 重傷な人は救急車に乗せられているみたいだ。俺は怪我を負ってないからすぐに帰っていいのか……」


 校門の側や校舎内で忙しなく動く教師や、救急隊員を出雲は見ていた。また、怪我を負っている友達を介抱している人や、一部の生徒たちも教師に混じって救護活動を手伝っているようである。


「俺はこれからどうすればいいんだろう……」


 頭を抱えて校門の外に出ると、出雲の眼の前に大和が現れた。大和を見た出雲は、どうしてここにと声に出してしまった。


「どうしてここにか……それは君がこの前に使用した剣が光ったからかな。君は戦う力が欲しいと願ったろう?」

「俺は……」


 大和に戦う力が欲しいと願ったと聞かれると、出雲は下を向いて俺はと何度も言い続けていた。その出雲の様子を見た大和は、出雲の両肩に手を置いて君の心に従えと真剣な表情で言った。


「君の心はどう思っている? 君はどうしたいんだ?」

「俺は……俺は! もう逃げたくない! 困っている人がいたら助けたいです! そのための戦う力が欲しいです!」

「よく言ってくれた! その言葉を待っていた!」


 大和は出雲の戦う力が欲しいとの言葉を聞くと、一台の黒塗りの車に出雲を案内した。


「この車に乗ってくれ。運転手がある場所まで案内をしてくれる」

「分かりました!」


 出雲が車に乗車をすると、運転手の男性が発車しますと言った。出雲はお願いしますと言うと、背もたれに寄りかかった。大和は出雲を見送ると、駆け寄ってきた一人の男性教師に話しかけていた。


「この学校の教師の方ですか?」

「そうです! 生徒をどうして車に乗せたんですか!」


 その言葉を聞いた大和は、着ているスーツの胸ポケットから一枚の名刺を取り出した。


「申し遅れました。私は日本政府直属、特殊災害対策室の室長をしております。以後お見知りおきを」

「どうも。その政府の役人が生徒に何か用ですか?」

「黒羽出雲君、でしたっけ? 先日の怪物襲来時に黒羽出雲君が怪物に遭遇したらしいので、その時の説明をしてもらおうと思いましてね」

「そうですか。あまり変なことをしないでいただきたい」

「ご迷惑をおかけしましたね」


 そう言うと、教師は学校内に戻っていく。大和はその姿を見送ると、近くに移動をしてきた紅が運転をする車に乗り込んだ。


「あの子は大丈夫でしょうか? ちゃんと戦えますか?」

「どうだろうな。戦う力が欲しいと言っていて導いたが、あれを使いこなして守れるかは出雲君次第だな」

「導くと言っておいて、手助けはしないんですか?」

「所々でするさ。俺にも目的があるんものでね」


 紅は大和と話しながら、車を発車させた。その車は学校から離れると、各省庁が立ち並ぶ中心地である京門橋という場所に向かった。そこに立ち並ぶ地上6階地下2階の建物が特殊災害対策室の本部となっている。


 特殊災害対策室は、特殊災害と認定をされている怪物の対処をする機関である。そこでは多数の職員が日々現れる怪物の対処や海外で出現をした怪物の情報収集をしている。特殊災害対策室では事務員の他に実働部隊もおり、篁美桜は実働部隊に所属をしている。ちなみに、出雲も実働部隊に入る予定である。


「先に発車したから、既に本部に到着をしているはずだ。今日は美桜君も来ているだろうから、色々教えてもらっているといいがね。真実はそのうち私の口から教えるよ」


 大和の言葉を聞いた紅は、勝手な人だと思いながら運転を続けていた。大和たちが特殊災害対策室の本部に向かっている最中、出雲は先に到着をしていた。出雲は凄い組織なんだなと改めて実感し、何度も頷いていたようである。


「さて、ここが入り口です」

「分かりました」


 出雲が車から降りると、目の前で自動扉が開いた。その自動扉が両サイドに移動をすると、出雲の眼の前に現れた開けたロビーのような場所で動いている特殊災害対策室の職員と思える人たちの姿が見えた。


「凄い……職員の人たちが忙しなく動いている……」


 出雲は1階ロビーにいる職員たちを見ると、運転手の男性が先ほど出現した怪物のことで動いていますと出雲に言う。


「学校で怪物が出たからなんですね。なんか複雑です……」

「そう思い悩むことはないですよ。怪物が悪いんですから」


 男性に言われた出雲は、ありがとうございますと返した。そして、男性は出雲を先導する形でこちらですと案内を始めた。男性と出雲はロビーの右側にあるエレベーターにて6階に移動をした。


「6階の作戦室にて諸々の説明をしますので」

「分かりました。ありがとうございます」


 出雲は緊張をして口の中が渇いていた。どんな人がらわれるのか、美桜にまた会えるのか、どういう対応をされるのかと様々な想像をしていたために、緊張が最高潮を迎えていた。


「そろそろ到着します。そこまで緊張をしなくても大丈夫ですよ」

「す、すみません……」


 出雲の緊張感が伝わったのか、男性が大丈夫と優しい声色で緊張をほぐしてくれた。


「ここだ。行こう」

「はい」


 エレベーターが目的の6階に到着をすると、出雲の目に入ったのは開けたワンフロアに置かれている多数の椅子と机であり、机に置かれているパソコンを用いて仕事をしているようである。作戦室ということであり、電話やパソコンを使用して何か指示をしている人や、奥にある会議室で何かを話している姿も見えた。

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